ザイマージェン(Zymergen Inc / ZY)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
■2022年第1Qトピックスはこちら
1. Zymergen Inc(ZY)について
1-1. 業種
素材産業、化学、バイオテクノロジー、ソフトウェアサービス
1-2. 事業の概要
ザイマージェンは2021年4月にIPOしたばかりの企業で、合成生物学と遺伝子を組み替えた微生物を利用し、様々な素材を開発・製造することを目指しています。
一番の特徴は、この開発の第一関門である”目的の素材の製造に適した生体分子・微生物の選定”と”安定した生産を可能にするための微生物の調整”の2つを、機械学習アルゴリズム、AIによって自動化している点です。(特許取得済み)
このプラットフォーム内では、データベースを元にした生体分子の選定や、何十億もの微生物の設計・テスト・分析が自動で行われます。
それらの組み合わせ・調整が判明した後、スケールを行う際の装置や資金の確保が、人間の重要な仕事となるのです。
なお、合成生物学を商業化している企業にはアミリス(AMRS)などがあります。
アミリスは酵母を利用した開発・製造が多いのに対し、ザイマージェンは大きなデータベースを用いることで、より幅広い分子や微生物を利用した開発を手掛けていると言えるでしょう。
また、様々な開発を繰り返すことでデーターベースは更に大きくなり、より短時間・低コストでの新商品の市場投入が可能になります。
1-2-1. 商品展開
2020年12月に、住友化学と共同開発を行っていた透明ポリイミドフィルム”Hyaline(ヒアリン)”が公開され、ザイマージェンの最初の商品となりました。
これはゲノム編集した微生物によって作られ、従来の石油化学の同フィルムよりも透明性や耐久性などが優れており、折り畳んだり曲げたりすることが可能です。
なお、このHyalineはまだ微生物の培養による量産段階にはなく、第三者によって製作されたサンプル品しかありません。
この商品に関しては、製造の遅れや問題が発生(と、それに伴う株価の暴落)しているので、詳しくは後述します。
エレクトロニクス分野の他にも農業や消費者向け市場をターゲットとしており、肥料や殺虫剤、日焼け止めなどを開発中です。
ただ、いまだに商品の売上はなく(2021年8月5日時点)、研究開発サービスなどの契約によって収益を得ています。
1-3. チャート
ザイマージェンの株価チャートはこのようになっています。2021年4月のIPO後、一週間程度は上昇したものの、4月末からは市場全体の波もあって株価は大きく下がりました。
5月中旬に下げとどまってからは、上下しつつもほぼ30ドル以上を維持していたのですが、2021年8月3日の市場閉鎖後に約70%の大暴落が起きました。現在もその大暴落したままの価格(8ドル)です。(2021年8月5日時点)
なお、大暴落については後の項目でより詳しく紹介しています。
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- IPO前にも多くの出資を受けている
- 2020年末時点では自己資本比率52%
- キャッシュフローは良くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
IPOの前から多くの出資を受けており、2020年末時点の貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約190%、当座比率は約180%で、短期の資金繰りは問題ありません。
固定比率も約50%と低いです。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は52%で、高い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローもマイナスです。
事業が赤字で営業活動がマイナス(2020年は2.2億ドルのマイナス)である一方、出資を受けて財務活動は大きくプラスです。
2-1-4. 項目まとめ
多くの出資を受けており、ひとまずの資金繰りは問題なさそうです。
2021年第1Qでは現金が9,000万ドル減少していますが、その後IPOしているので、資金は再び増加しているはずです。
キャッシュフローはまだまだ不安が大きい内容です。
2-2. 収益性
- まだ商品の販売が無く、売上が小さい
- 2020年の損失額は売上の20倍近くある
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
商品の販売がなく売上が小さいこともあり、損失額は非常に大きいです。
なお、ROEのマイナス値が減少していますが、これは資本の増加によるもので、2020年の損失額は2019年より増えています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEと同様です。
2-2-3. 項目まとめ
売上がまだほとんどないこともあって、売上高の約20倍もの損失が出ています。
2-3. 経営の効率
- 売上が小さく、回転率はかなり低い
2-3-1. 各回転率
売上がまだほとんどなく、あくまで現時点の数値でしかありませんが、総資本回転率は0.04回、固定資産回転率は約0.2回と非常に低いです。
棚卸資産回転率は約2.7回です。
2-3-2. 項目まとめ
現時点では売上が小さいため、回転率は低いです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は研究開発サービス・コラボ収益によるもの
- 営業損失は売上の約18倍
- 売上高研究開発費率は約680%
2-4-1. 売上高と営業利益
まだ商品の販売が行われていないため、売上は研究開発サービスやコラボレーション・共同研究収益によるものです。
2020年は少々減少しました。
営業損失は微増です。
売上と比較して、非常に大きな赤字となっています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約13.28百万ドル、研究開発費は約90.85百万ドルだったので、売上高研究開発費率は684%となります。
通常はあり得ない数値です。
現状はまだ事業が確立しきっておらず、発展のために多くの資金が必要なので仕方ありませんが、入ってくるお金に対してこれだけの支出を行っていることは頭に入れておきたいです。
2-4-3. 項目まとめ
積極的に研究開発を行っている点は評価したいですが、その分多くの資金がかかっています。
できるだけ早く製造のスケールを成功させ、売上収入を増やしたいところです。
ただ、”2021年の製品収益はない”、”2022年の製品収益は重要ではない”という趣旨の発言もされており、今後数年間は収益増加が見込めなさそうです。
2-5. 株価の大暴落の理由
- 70%超えの株価大暴落
- 顧客の製造プロセスへの導入で技術的な問題発生
- 唯一の商品の市場規模が予想以上に小さかった
- 2022年まで、製品収益はあまり見込めないと予測
- CEOが即日退任する事態
2021年8月3日の市場閉鎖後に、ザイマージェンの株価は75%の大暴落を起こしています。
これによって約35ドルだった株価は、約8.5ドルにまで下がりました。
この主な理由は、当初予想されていた製品収益が、少なくとも2022年まではほぼ見込めないと発表されたことです。
唯一の商品であり、2022年には微生物の培養による生体分子の生産に移行できるとされていた”Hyaline”ですが、顧客が製造プロセスに導入する際に、技術的な問題が発生してしまいました。
ザイマージェンは”課題の解決に向けて前進しており、Hyalineには本質的な技術的問題はない”としていますが、予定されていたスケジュールの遅れは避けられません。
また、Hyalineの特性を活かす(ターゲット市場でもある)折りたたみ式ディスプレイの市場規模が、予想よりも小さかったことも発表されています。
更にこれらの状況を受けて、CEOが即日退任する事態となりました。
なお、次のCEOが決まるまでは、元イルミナのCEOでもあるFlatley氏が代行を務めるとしています。
3. まとめ
クロとしては、ザイマージェン(Zymergen Inc)は一旦購入を見送りたい銘柄です。
ゲノミクスとAIを組み合わせた面白いビジネスモデルで多くの期待を集めていますが、現時点での収益の小ささと、資金の消費が非常に速いのが気になります。
合成生物学で既に商業化し大手との取引もあるアミリスも、画期的な開発を成功させてもスケールの問題などがあり、なかなか赤字から脱せていません。
更にザイマージェンの8月3日の発表を見ると、他の製品開発を成功させない限り、しばらくの間は成長に期待が持てないと判断しました。
今回の記事はZymergen Incの決算書・目論見書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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