ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom Video Communications Inc / ZM)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Zoom Video Communications Inc(ZM)について
1-1. 業種
ソフトウェア、テクノロジーサービス
1-2. 事業の概要
ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、ビデオ、電話、チャットなどのプラットフォームを提供する企業です。
2020年2月の新型コロナ感染拡大で在宅ワークが推奨されたことによってビデオ会議システムの需要が急激に高まり、急成長を遂げました。
プラットフォームの柱となる製品は、PCやスマートフォンから手軽にビデオ通話・Web会議のできる”ZoomMeetings”ですが、他にも様々なソフトウェア・サービスを提供しています。
インターネット回線を利用するクラウド電話”Zoom Phone”、据置型のテレビ会議システム”Zoom Rooms”などがその例です。
また、2022年4月にはAIを活用した会話分析型ソフトウェア”Zoom IQ for Sales”を発表しました。
これはズームでの会議の通話内容をAIが分析し、様々なフィードバックを行うというものです。
例えば、感情やエンゲージメントのスコア算出や、「適切な質問がなされていたか」「話すスピードや長さは適切だったか」「ミーティングの次のステップについて、営業担当が適切に説明していたか」などが記録・分析されていきます。
また、これらはセールスフォース(CRM)プラットフォームや主要なカレンダー(Googleやoffice 365など)との連携もでき、ワークフローの一体化・情報の集約が可能です。
他にも、ズームは開発者向けプラットフォームとマーケットプレイスを提供しており、ユーザーはサードパーティによるアプリケーションや連携ツールを利用することができます。
このマーケットプレイスには、主要なエンタープライズソリューションとの連携、会議内容の文字起こしアプリなど様々なツールが揃っており、ユーザーの利便性向上に役立っています。
ちなみにズームはテスラ(TSLA)を抑えてキャシー・ウッド氏のARKK ETF(ARK Innovation ETF)組み入れ銘柄の第1位となり、全体の9%を占めています。(2022年5月25日閲覧時点)
1-3. チャート
ズームの株価チャートはこのようになっています。
2020年2月頃の新型コロナ感染拡大による需要増加で、株価は急上昇しました。
しかし2020年10月頃をピークに下降に転じ、その後は上下しつつも下落傾向が続いています。
また直近の動きとしては2022年5月25日、ARKKのトップ組み入れ銘柄となったことで注目を集めています。(2022年5月26日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資産のバランスは問題なし
- 自己資本比率は77%
- キャッシュフローもほぼ問題なし
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率、当座比率どちらも400%近くあるため、ひとまずの資金繰りには問題ありません。
固定比率は24%と低く優秀です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約77%とかなり高いです。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業からしっかりと利益を出しており、営業活動によるキャッシュフローはプラス収支です。
投資活動では有価証券の売買や満期といった収入・支出が大きな割合を占めています。
特に有価証券の購入に多くの資金を投じているため、営業活動によるキャッシュフロー(のプラス収支)を超える程のマイナス収支となりました。
2-1-4. 項目まとめ
有価証券の購入に多くの資金を投じているためキャッシュフローのバランスが若干崩れていますが、概ね問題は無く、安定性は高い状態です。
2-2. 収益性
- ROE・ROA共に平均超え
- 特にROAは平均の2倍以上
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
自己資本が年々増加している中、純利益も大きく増えており、ROEは上昇傾向にあります。
2022年度のROEは米国平均とされる16%~18%を超えています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上昇しています。
特にROAは米国平均(6%~8%)を大きく超える結果です。
2-2-3. 項目まとめ
ROE・ROAどちらも平均を超えており、収益性はかなり高い内容です。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインの半分
- 有価証券を多く保有し資産が増加
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は最低ラインの半分程度しかありません。
これは主に有価証券(売買や満期保有目的)を大量に保有しているためで、仮にこれを省いて計算した場合は許容範囲内の数値になります。
有価証券は流動資産なので、固定資産回転率は高めです。
なお、棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
事業に直接関係のない有価証券を多く保有しているため、回転率は低めです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2022年度は前年比55%の売上成長
- 2023年度第1Qの成長率は12%にまで低下
- 営業利益は2021年度以降急増
- 売上高研究開発費率は平均の約2倍
2-4-1. 売上高と営業利益
2022年度の売上は、前年比55%の成長率でした。
ただ2021年度は326%の成長を記録しており、これと比較すると少々見劣りする数値です。
更に2023年度第1Q(記事作成時点の最新決算)の成長率は12%(前年同期比)となっており、2021年度の社会情勢によって成長をかなり先取りしていた可能性が高いです。
なお、2022年度の売上成長の内訳は、70%が既存顧客、30%が新規顧客へのサブスクリプションによるものです。
営業利益は2021年度から急激に増え、2021年度は前年比5,096%増加、2022年度は61%増加しています。
2021年度の成長が顕著ではありますが、2022年度は利益率がより改善しており、粗利率は前年の69%から74%へ5ポイント上昇しました。
また、売上高営業利益率も25%から26%へ1ポイント上昇しています。
なお、人員の追加が必要になったことなどから、営業費用自体はかなり増加しています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約4,096.86百万ドル、研究開発費は約362.99百万ドルだったので、売上高研究開発費率は8.9%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.1%とされているため、平均の約2倍という数値です。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上・利益共に増加していますが、伸びの鈍化は顕著です。
2020年に在宅ワークによる需要が急激に拡大したことで成長が前倒しになったのでしょうが、直近の四半期(記事作成時点)の12%という成長率は、グロース銘柄としてはかなり小さいです。
また2023年第1Qは研究開発費を筆頭に営業費用が増加したことで(主な理由は人員補強)事業からの利益が減少しており、少々気になる内容です。
3. まとめ
クロとしては、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)の購入は一旦見送りますが、注意深く追っていきたい銘柄です。
2022年度決算を見る限り収益性は高く、財務状態にもほぼ不安がありません。
また新しいアドオン(拡張機能)開発も行っており、ユーザーの需要に応えている様子もうかがえます。
ただ、2023年度第1Qでの売上の伸び鈍化が顕著になっている点が気になります。
特にズームは新型コロナ感染拡大による特需で驚異的な売上成長率を記録したため、投資家の期待が大きく、鈍化に対して厳しい姿勢が強いです。
しかし、2022年度の売上成長の7割を既存ユーザーが占めているという点は既存ユーザーの需要を満たしており固定顧客を獲得しているとも取れますし、割安性では、実績PERが22.06倍、予想PERが57.17倍(※PERは楽天証券より引用。2022年5月26日閲覧)となっています。
これはグロース銘柄としては比較的割安な部類に入る数値です。
これらの要素があるため、今後の決算やリリース内容を今後もしっかり追っていきたいと思います。
今回の記事はZoom Video Communications Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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