テスラ(Tesla Inc / TSLA)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性※2021年(第3Qまで)を考慮
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
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1. Tesla Inc(TSLA)について
1-1. 業種
自動車製造(EV)、耐久消費財、エネルギー貯蔵・販売
1-2. 事業の概要
テスラはEV(電気自動車)の先駆けメーカーです。
記事作成時点では車両の納入が間に合わないほど高い人気を誇り、2021年1月~9月の9ヶ月間の納入数は約63万台となりました。
既にセダン・SUVの複数のモデルがラインナップされていますが、他にもEVトラック、ロードスター(スーパーカー)などが発表されています。
また、自動運転技術にも力を入れており、独自のオートパイロット、FSD(Full Self-Driving)オプションを提供しています。
現在はあくまで運転支援システムの範囲にとどまっていますが、将来的には自律型のライドヘイルネットワーク(”ライドヘイル”は”車の呼び止め”の意味。車両の保有者が、自分の使わない時間に”自動運転タクシー”として他者に利用してもらうことで、収益を得られるネットワーク)の確立を予定しています。
エネルギー事業では、エネルギーを貯蔵しておける定置型蓄電池の提供(日本でも北海道に大型の蓄電池発電所を建設する予定)、ソーラールーフなどの太陽光発電システムの販売を行っています。
また、電力の小売事業へ参入する動きもあります。
他にも2019年から顧客向けの保険商品を発売するなど、EVを主軸としながら様々な展開を見せている企業です。
また、CEOであるイーロン・マスク氏もペイパル(正しくは前身となる会社)創設メンバーの一人であり、宇宙開発企業スペースXを創設しこちらでもCEOを務めるなど、非常に有名な人物です。
1-2-1. 2021年第3Qの半導体不足を切り抜けたテスラ
新型コロナ感染拡大による製造の混乱・遅れと、急激な需要の増加が相まって、ここしばらくは世界的に半導体が不足しています。
世界各国の自動車メーカーもこの影響で減産を余儀なくされ、独自チップ開発なども行うIT大手のアップル(AAPL)ですらiPhoneの減産を発表しました。
しかしそんな中テスラは、2021年第3Q(7月~9月)に過去最高の販売台数(約24万台)を記録しています。
なぜテスラだけがこんなに好調を維持したのでしょうか。
その理由は、入手しやすい半導体に切り替えを行ったことです。
もちろん半導体を切り替えただけですべてが解決するわけではありません。
半導体を制御するためには専用のソフトウェアが必要で、これが無いときちんと動作しないのです。
通常、この専用ソフトウェアは半導体とセットとなっているため変更を加えることはできないのですが、テスラはまだまだ大手メーカーよりも規模が小さく専用ソフトウェアを発注できない(外注可能となる規模に達さない)ため、普段からこの専用ソフトウェアを自ら開発していました。
そういったノウハウがあったため、半導体を入手しやすいものに切り替えても、専用ソフトウェアを対応させることができたのです。
1-3. チャート
テスラの株価チャートはこのようになっています。
2020年頃からじわじわと株価が動き始め、その後どんどん上昇していきました。
最近では2021年第3Qの好調な決算発表を期に急上昇し1,000ドルの大台を突破しましたが、その後イーロン・マスク氏の株式売却騒動とグロース銘柄の厳しい地合いが相まって、株価は下降しています。(2021年12月20日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- ひとまずの資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は43%
- キャッシュフローも問題なし
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”ギリギリ運用タイプ”です。
ただ、流動比率は約188%、当座比率は約149%と流動資産は十分あります。
固定比率は114%と高めですが、純資産と固定負債でまかなえているのであまり問題ありません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は43%で、良い部類の数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはプラスです。
事業が黒字で、減価償却費や株式報酬の戻入れ、および買掛金の調整があったため、営業活動は大きくプラス収支です。
投資活動は生産設備に関する投資が大きく、マイナス収支となりました。
財務活動では、株式公募による増資や債務を発行しての資金調達を行っています。
一部は債務の返済などと相殺されたものの、最終的には営業活動以上に大きな金額のプラス収支です。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りには問題ありません。
固定比率は若干高いですが問題ない範囲ですし、安定性は十分と言えそうです。
2-2. 収益性
- 2020年に黒字に転じる
- 増資の影響もあってROE・ROAは低め
- 2021年の第3Qまでを見ると
純利益は前年同期比661%増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
年々ROEのマイナス値を減らし続けて2020年に黒字へ転じ、ROEもプラスになりました。
この間は資産も増加していましたが、純損失額も減少させています。
2020年は増資の影響で自己資本が増えたこともあり、数値自体は低いですが、2021年は純利益が増加しています。(記事作成時点の最新決算は2021年第3Qで、この9ヶ月間を見ると前年同期比661%増加)
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上下しています。
2-2-3. 項目まとめ
2020年に黒字に転じ、2021年の終了した9ヶ月間では利益を大きく増加させています。
2021年の数値も加味すると、収益性はかなり高くなりました。
2-3. 経営の効率
- 2020年の総資本回転率は今ひとつ
- 棚卸資産回転率は製造業の平均程度
2-3-1. 各回転率
2020年の総資本回転率は最低ラインに届かず今ひとつでした。
固定資産は機械や設備、土地、建物を多く保有しています。
また、棚卸資産は原材料と完成品が多いです。
棚卸資産回転率は、製造業としては平均程度の数値です。
2-3-2. 項目まとめ
2020年の回転率はそこまでよくありませんが、棚卸資産の管理などは問題なさそうです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は増加中
- 2020年はコロナ感染拡大で一時的な生産停止あり
- 2020年に黒字化し、2021年は勢いを増して成長継続中
- エネルギー事業の原価は、若干売上を上回る
- 売上高研究開発費率は平均を超える
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は年々増加しています。
コロナ感染拡大による工場の一時停止の影響もあって2020年は前年比28%の増加ですが、2021年第3Qまでの9ヶ月間は前年同期比74%の伸び率です。(記事作成時点の最新決算は2021年第3Q)
また、自動車事業とエネルギー事業の両方の売上が成長しています。
2020年から営業利益が発生しました。(それ以前は営業損失)
費用は増えたものの粗利率は上昇しており、結果的に事業が黒字化しています。
ただ事業別に見ると、2020年のエネルギー事業は原価が売上を上回っているため赤字です。
2021年の9ヶ月間、および直近の第3Q(3ヶ月間)を見ても、この点は変わりませんでした。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約31,536百万ドル、研究開発費は約1,491百万ドルだったので、売上高研究開発費率は4.7%で、平均以上の数値です。(科学技術・学術政策研究所によると※11万人以上の従業員規模の平均は3.5%とされている。2020年のテスラの従業員は約7万人)
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2020年の売上の伸びは控えめでしたが、2021年に大きく成長してきています。
粗利率の上昇も良い結果ですし、売上高研究開発費率は平均を超えていますが高すぎず安心できる数値です。
エネルギー事業は少々赤字が出ていますが今まさに拡大中の事業なので、今後も成長に期待したいです。
3. まとめ
クロとしては、テスラ(TSLA)は引き続き期待したい銘柄です。
売上を増加させ続け利益率の高いEV事業と、まだまだ新しい展開を見せてくれそうなエネルギー事業、完全な自立型運転システムやライドヘイルネットワークといった未来への展望があり、成長の伸び代は大きいと考えます。
なお、2021年第3Qまでの9ヶ月間を見ると、エネルギー事業の売上は全体の13%程度です。
財政状態は安定しており、研究開発費率が高すぎない点も安心できます。
今回の記事はTesla Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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