テラドックの大赤字・暴落を招いた”減損”とは?今後も続く?他銘柄は大丈夫?

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2022年4月末、遠隔医療分野を牽引するテラドック・ヘルス(Teladoc Health, Inc / TDOC)の株価が44%もの急落を見せました。
EPS・売上ともにアナリスト予想を下回り、更に通年ガイダンスの引き下げも行われたため、株価の下落は仕方ない部分もありますが、今回目を引いたのは予想をはるかに上回る大きな赤字です。

今回は、この赤字を招いた”のれんの減損”とは何なのかわかりやすくまとめていくと共に、テラドックの更なる減損の可能性について、そしてテラドックのような大きなのれんを計上している企業は他にないのかという点も考察していきます。

  • テラドックは66億ドルの減損を計上
    →EPSが予想の6,800%以上の大赤字
  • 今後更なる減損の可能性もアリ
  • “のれん”は資産だが実体のない”差額”
  • のれんの大きな企業は減損リスクを頭の隅に

それでは早速見ていきましょう。

1. テラドックの”のれんの減損”

1-1. 決算結果

まず、今回のテラドックの株価下落について大きな要因の一つとなった、決算結果を振り返っていきます。

売上は、アナリスト予想568.676百万ドルに対して実際は565.35百万ドルとなり、約3百万ドルほど予想値を下回る結果でした。
一方EPSは、アナリスト予想の-0.6ドルに対し-41.58ドルという結果です。
最終的な純損失額は6,675百万ドル(66.75億ドル)で、前年同期比では3,243%も増加しています。

この大赤字を招いたのが”のれんの減損”です。
今回の四半期決算では、6,600百万ドル(66億ドル)の減損損失が計上され、赤字を大きく膨らませました。

なおこの減損が無かった場合、営業損失は69百万ドルで、前年同期より18%削減できているはずでした。

1-2. 今回減損したのれんについて

今回このような巨額の減損が認められたのれんは、主に2020年のlivongo買収によって計上されたものです。
2020年9月末時点では1,691百万ドル(約17億ドル)だったのれんが、livongo買収後には14,581百万ドル(約145億ドル)となっており、約8.6倍に膨れ上がっていました。

これはlivongoの買収額が非常が高額だったためです。

なお、今回の減損を受けて、2022年3月末時点のテラドックののれんは7,900百万ドル(79億ドル)に減少しています。

2. “のれん”と”減損”とは?

ここまでテラドックを例に”のれん”と”減損”を見てきましたが、ではそもそも、この2つは具体的に何を表しているのでしょうか?

2-1. のれんとは

のれんとは、企業を買収した際の買収価格と実際の純資産額(買収される側)の差を表しています。

例えば、今回テラドックが買収したlivongoの純資産は約10億ドルとされていました。
しかしテラドックはこの企業を約140億ドルもの価格で買収しています。
したがって、その差額となる130億ドルがのれんとして計上されました。

※livongoの純資産は、テラドック決算書の買収によって取得した資産と負債の差を参照

つまりのれんは資産ではあるものの、その実体はなく、買収する側が”買収される企業の純資産に上乗せする価値をいくら見出したか”という表れでしかないのです。
もちろん買収の際には、買収によって得られるシナジー、収益性やキャッシュフローの向上などを測定して買収価格を決定しますが、その測定結果が正しいかどうかを正確に知るのは難しいところです。

ちなみに純資産額よりも買収価格が小さい場合は、買収時に”負ののれん”として利益が計上されます。

2-2. 減損とは

減損とは、のれんをはじめ、固定資産の収益性が低下し帳簿価格よりも実際の価値が下がったと判断された場合に、その差額を損失として計上したものです。

そのため、資産の収益性・客観的な価値が変わらなければ発生することはありません。
一方、収益性や将来のキャッシュフローの見積りが想定を下回ると判断されたり、株価の下落が続いたりした場合は、この減損損失が発生することがあります。
つまり「買収価格が高すぎた」ことや「買収によるシナジーが想定よりも小さかった」ことなどが、損失として表れたものです。

米国基準では、のれんの紐づいた事業やのれん自体の”公正価値”と”帳簿価格”を比較することで、減損が発生しているかどうかをテストすることが定められています。
このテストは年1回行う他、減損の兆候が認められた時にも行う必要があります。

ちなみに今回(2022年第1Q)のテラドックの減損処理は、株価と時価総額が継続的に下落したことを受けての追加テストによるものです。
このように、市場からの評価が下がり続けた場合も、減損の兆候があると判断されてしまいます。
なお、テラドックの株価は2021年2月頃から下落し始めていました。

3. 今後の”のれんの減損”リスク

3-1. テラドックの今後

今回のテラドックの減損テストが株価・時価総額の下落に伴って行われたように、今後も継続的な下落が認められた場合には、改めて減損テストが行われる可能性があります。

減損テストの際には、将来キャッシュフローの見積もりの変動、現時点への割引率の変化(今回のテストでは金利上昇や市場のボラティリティを反映して割引率が引き上げられた)、更に同業他社への評価の変化など様々な要因が関わってくるため一概には言えませんが、今後も続くリスクとして頭に入れておきたいです。

なお、今回の決算書(2022年度第1Q)内でも、下落が続く限りのれんのテストが必要となることや、更なる減損が発生する可能性があることが明記されており、例として2022年3月末時点の公正価値が50%減少した場合は4,600百万ドル(46億ドル)の減損が計上される見込みであることが示されています。

3-2. 他の銘柄にリスクはある?

のれんの減損は、買収を行いのれんを計上している多くの企業に当てはまるリスクですが、特にのれんが大きく膨らんでいる企業や、一つの事業に巨額ののれんが紐づいている企業の場合は減損が発生しやすいとされます。
更に、株価や時価総額の下落といった市場からの評価の低下、金利などの経済全体の状況なども影響してくるため、予測するのは難しいでしょう。

ただ、のれんの大きな企業を見かけた場合は減損リスクを頭の片隅に入れておき、業績の変化や株価の変動などにも気を配っておきたいです。

ちなみにクロが個人的に気にかけているのは、ID管理のオクタ(OKTA)や顧客関係管理のセールスフォース(CRM)、エッジコンピューティングのファストリー(FSLY)などの銘柄です。

オクタは2022年度末(1月決算)時点で54億ドルののれんを計上(ちなみに総資産の59%を占める)しており、そのほとんどがAuth0の買収によるものです。
2022年度の売上は約13億ドルなので、万が一減損が発生すると影響が大きくなる可能性があります。

一方セールスフォースののれんは、2022年度末(1月締め決算)時点で479億ドル(総資産の50%)となっており、そのうち211億ドルがSlackの買収、108億ドルがTableauの買収によるものです。
なお、2022年度の売上は約265億ドルでした。

ちなみにオクタやセールスフォースは、2021年11月頃から株価が下落傾向にありますが、これは市場全体に下方圧力がかかった時期と重なります。

そしてファストリーは、2022年3月末時点で約6億ドルののれんを計上(総資産の30%)しており、このほとんどはSignal Sciencesの買収によるものです。
2021年度の売上は約3.5億ドルとなっている他、テラドックと同様、2021年2月頃から株価の下落傾向が続いています。

なお、ここに挙げた企業は事業内容・企業を取り巻く環境も異なり、必ずしものれんの減損が発生するわけではないという点はご注意ください。
あくまでのれんが大きく、個人的に減損リスクが少々高めと捉えている銘柄です。

4. まとめ

今回は株価の暴落を引き起こしてしまったテラドック(TDOC)を例として、のれんと減損、そして今後起こりうるリスクについて紹介してきました。

テラドックは高額すぎる買収によって総資産の80%以上がのれんという状態になっており、減損の影響を非常に大きく受けました。
また、現在の状況が続けば更なる減損が計上される可能性もあります。

ここまでのれんが大きな企業はあまりありませんが、のれんが大きい場合は通常の事業以外の部分でリスクがあるということも、銘柄選びの際の一つの材料として頭に入れておきたいです。

記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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