金利上昇で金融株が上昇?仕組みと前回テーパリング時のチャート比較

株・金融に関するニュース
スポンサーリンク

先日行われたFOMCで、明言は無かったものの”金融緩和施策の正常化・テーパリングなどへの着手が予想より早まる可能性”が示され、銀行・金融関連の銘柄がじわじわと上昇してきています。

今回は、金利が上昇するとなぜ金融銘柄が上がるのか、実際にテーパリングなど金利に影響を及ぼす施策が行われた際にどんな影響があるのか、過去の事例も振り返りつつまとめていきます。

1. 金利が上がると金融銘柄はなぜ上がる?

金利の上昇で金融系銘柄の株価が上がるのは、利ザヤが増えて収益が上がると考えられるからです。

金融銘柄の代表である銀行は、低い金利で得た預金を運用することで利益を得ていますが、長期金利が上がることで預金者に支払う利息と貸付などの運用で得られる利息の差が大きくなり、その差分をも利益にすることができます。

これは保険会社も同様です。
顧客から得た保険料を運用しているため、長期金利が上がればその分利益を拡大することが見込めます。

しかし、金利が上昇した際、実際は銀行の株価はあまり上がらず、生命保険会社の株価の方が上がりやすいと言われています。
それはなぜでしょうか?

2. 保険会社の方が金利上昇のメリットが大きい?

2-1. 金利が上昇した際の銀行のジレンマ

銀行は預金者からお金を集めて、それを貸し付けて運用しています。
しかし、この”預金”はいつ引き出されるかわからない資金で、多くの場合短期的に出し入れが行われます。

金利が上昇すれば、もちろん預金者に支払う利息も増加します。
しかし、企業などへの貸し付けは年単位の契約であることが多く、金利が上がったからと言ってすぐには多くの利息を受け取れないのです。(ただし変動金利の契約であれば、金利がすぐに反映されるので問題はない)

つまり、支払う金利はすぐに上昇するのに、貸し付けに伴って受け取る金利はしばらく低いままという、経営的に苦しい期間が訪れてしまいます。

2-2. 金利が上昇した際の保険会社のメリット

一方保険会社(特に生命保険)は、長期契約で保険料という資金を調達しています。

従って、長期で調達した資金を、長期の投資で運用することができ、金利の変動によるデメリットがありません。

また、投資による運用の方が短い場合は(例えば、生命保険の契約と10年国債への投資であれば、多くの場合、先に投資の満期が来る)支払う金利は低いまま、運用で受け取る金利が上昇するという状況になります。

これが、銀行株より保険株・生保株の方が上がると言われる理由です。

3. 前回テーパリングに伴う金融株の動き

では、前回テーパリングが行われ、実際に金利が大きく変動した際、金融株の株価はどのように動いたのでしょうか。

以下の金融施策が行われた期間のチャートを、金融系ETFとNYダウ指数・ナスダック指数の変動比較、大手銀行や保険の個別銘柄と金融系ETFの変動比較という2つに分けて見ていきます。

    前回テーパリング等実施時期
  • テーパリング実施示唆…2013年5月22日
  • テーパリング実施期間…2014年1~10月
  • 短期金利(FF金利)上昇スタート…2015年10月頃

3-1. 検証に使用する金融ETFと主要指数の変動比較

テーパリングが示唆された2013年5月20日週を基準として、NYダウ指数(DJI / オレンジ色のライン)と、ナスダック指数(IXIC / 水色のライン)の表示期間内での変動率を同じパーセンテージで表示したチャートを使用しています。

3-1-1. バンガード社:VFH

MSCI USインベスタブル・マーケット・金融25/50インデックスとの連動を目指して運用される。

投資先は米国の大型・中型・小型の金融セクター銘柄。
2021年5月31日時点では、銀行、消費者金融、保険、投資銀行・証券会社などの金融系全423銘柄で構成されている。

VFHとNYダウ指数、ナスダック指数の変動比較。2013~2018年

3-1-2. ステート・ストリート社:XLF

S&Pファイナンシャル・セレクト・セクター指数との連動を目指して運用される。

大型の金融銘柄に特化した構成のETFで、その銘柄数は70程度。

XLFとNYダウ指数、ナスダック指数の変動比較。2013~2018年

3-1-3. ブラックロック社:IYF

ダウ・ジョーンズ 米国金融セクター指数(※)との連動を目指して運用される。
(※2021年9月20日頃からベンチマークを”ラッセル1000ファイナンシャルセクター指数”へ変更する予定)

米国の銀行、保険、クレジットカード会社など大手金融銘柄への投資を行う。

IYFとNYダウ指数、ナスダック指数の変動比較。2013~2018年

3-1-4. ETFと指数比較まとめ

いずれのETFも、ダウ指数より強い上昇を見せています
特にテーパリング実施が示唆されて2か月間程度は、ナスダック指数にも迫る勢いでした。

また、短期金利が上昇し始める少し前(2015年8月頃)から1年半程度は全体的に下降傾向となっており、2016年はダウ指数を下回る下落も見られます。

3-2. ETFと個別銘柄の変動比較

次に各種ETFと、アメリカを代表するメガバンクや保険会社など5種類の個別銘柄のチャートを比較していきます。

テーパリングが示唆された2013年5月20日週を基準として、VFH(ピンク色のライン)と、XLF(水色のライン)とIYF(オレンジ色のライン)の表示期間内での変動率を同じパーセンテージで表示したチャートを使用しています。

3-2-1. JPモルガン・チェース

JPモルガン・チェースとVFH、XLF、IYFの3種ETF変動比較。2013~2018年

JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase & Co.)はアメリカを代表するメガバンクです。

金融ETFと同程度~下振れた推移の時期が多いです。

テーパリング開始時期はETFの変動に追いつきましたが、その後はまたしばらく下振れています。
テーパリング中は徐々に金利が下がっていった(金利の下降のチャート・詳細はこちら)ので、その影響もありそうです。

2016年終盤からはETFよりも大きく上昇しました。

3-2-2. ゴールドマン・サックス

ゴールドマン・サックスとVFH、XLF、IYFの3種ETF変動比較。2013~2018年

ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs Group Inc)はアメリカを代表する投資銀行で、同時に金融系企業グループでもあります。

JPモルガン以上に株価の変動が大きく、ETFより強い時期と弱い時期がありました。

特にテーパリング実施時期や短期金利上昇の序盤~中盤はETF以上に下落しており、その後はほぼずっとETFより下振れています。
また、2016年には債券トレーディング業務の不調なども報じられていました。

3-2-3. チャブ

チャブとVFH、XLF、IYFの3種ETF変動比較。2013~2018年

チャブ(Chubb Corp)は、スイスに本社を置く、損害保険を中心とした保険大手企業です。

テーパリング時期はETFと同程度~少々上振れ程度の上昇ですが、短期金利が上昇した際はETFのような下落が起きず、比較的安定した右肩上がりの傾向を保っています。

しかし2017年後半からETFの上昇ラインと交わり、その後は大きく下落しています。

3-2-4. マーシュ・アンド・マクレナン

マーシュ・アンド・マクレナンとVFH、XLF、IYFの3種ETF変動比較。2013~2018年

マーシュ・アンド・マクレナン(Marsh & McLennan Companies Inc.)は、ニューヨークに本社を置く大手保険グループです。

全体的にETFを超える上昇の強さを見せています。

右肩上がりを続けており、短期金利上昇の開始前~序盤は下降傾向ですが、数か月で持ち直しました。

3-2-5. メットライフ

メットライフとVFH、XLF、IYFの3種ETF変動比較。2013~2018年

メットライフ(Metlife Inc)は、日本でもおなじみの大手生命保険会社です。

テーパリングが示唆された時期からETFを大きく超えて上昇していますが、その終了に向けてETFの変動率を表すラインと合流しています。

短期金利が上昇し始めるとETFよりも大きく下落し、その後持ち直した際もETFほど上がり切れなかったため、今回の比較期間全体を見ると横ばい気味のチャートです。

3-3. チャートでの変動比較まとめ

テーパリング示唆の週を基準としてチャートを見てきましたが、ナスダック指数の上昇はテーパリング前後の時期でも比較的強いことがわかりました。
また、金融ETFはダウ指数より上昇が強い傾向にありますが、その傾向は、長期金利が大きく上がった2016年終盤からの方が顕著に表れています。(2016年10月末頃~12月初旬の短期間で、1.7%から2.6%へ急上昇した)

また、個別銘柄では銀行系2銘柄、保険系3銘柄という少ないサンプル数ではありますが、保険系銘柄の方が比較的強い傾向が見られました。
もちろん個別銘柄ではその地合いの強さだけではない様々な要因の影響が強くなるため、一概に良い悪いが言えませんが、金融銘柄が長期金利の上昇によってプラスの影響を受けること、そして保険系銘柄の方が投資家の期待を集めやすいことがわかりました。

一方で短期金利が上昇した際は、ナスダックやダウ指数、金融系ETF・個別銘柄などが総じて下がってしまうことも明確になりました。

4. まとめ

長期金利が上がると銀行や保険会社などは利ザヤが増え、株価もプラスの影響を受けることがわかりました。
ただ、テーパリングが示唆された・始まったからと言って、終始長期金利が上がり続けるわけではなく、金融系銘柄でも上下を繰り返す場合が多いです。
テーパリング前~テーパリング後の長期金利(米国10年国債利回り)チャートはこちら

また、短期金利が上昇すると様々な銘柄の株価が下降してしまいますが、短期・長期の金利の差が小さくなって利ザヤが減ると考えられることから、金融系銘柄もマイナスの影響を受けています。

また、金融系ETFと、NYダウ指数・ナスダック指数の変動を見比べると、テーパリングが示唆された時期は金融系ETFとナスダック指数の上昇が強いものの、市場が落ち着くと、成長の大きいナスダック指数の一人勝ちといった状態でした。

個別銘柄では、チャートのバラつきが大きいことやサンプル数の問題もあり、一概に”銀行が良い””保険会社が良い”と言いきれませんが、比較的保険系銘柄の方が強い上昇の傾向がありました。

ただ、特に保険系銘柄を見比べると、上昇タイミングや下降タイミングが必ずしも一致していないので、それぞれの企業の現状や力を入れている業務など下調べは必要です。
クロとしても、金融系の銘柄をいくつか検討しているので、記事にまとめていきたいと思います。

テーパリングの内容や実施時期などについて紹介・考察した記事もこちら↓にあります。

記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました