1. 米国で現状行われている金融緩和政策
新型コロナウイルス感染拡大による経済の混乱・悪化の対策として、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は「ゼロ金利」と「量的緩和(QE)」を行っています。
量的緩和とは、国債などの金融資産を大量に買い入れることによって、金融市場に資金を供給する施策です。
リーマンショック後、金利を下げる余地が無くなったことで採用され始め、日本でも日銀によるETFの買い入れなどが行われています。
FRBの量的緩和では、国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券を月400億ドル買い入れています。(2021年2月時点)
2. テーパリングとは
テーパリング(Tapering)とは、その単語の「先細り」という意味通り、量的緩和の縮小を意味します。
金融緩和政策によって景気が回復してきた際に、通常通り(緩和前)の金融施策に戻すための”出口戦略”として行われるのが「テーパリング」です。
国債などの金融資産の買い入れ額を徐々に減らし、最終的には買い入れを終了します。
3. テーパリングの影響
3-1. 前回のテーパリングの影響
前回米国でテーパリングが行われたのは、2014年1~10月でした。
また、この実施が示唆されたのは2013年5月22日で、その時点から金融市場に影響が出ています。
3-1-1. 実施示唆「バーナンキ・ショック」
2013年5月22日、当時FRB議長だったバーナンキ氏が予期せぬタイミングでテーパリングの実施を示唆しました。
これによって米国債利回りが急上昇し、2%を切っていた10年国債利回りは9月には3%に達しました。その後も12月末まで2.5%~3%で推移しています。
また、ナスダックやNYダウの指数も一時的に下落し、ナスダック指数は約3,500ドルから6月後半には約3,300ドルまで、NYダウは約15,500ドルから6月後半に約14,600ドルまで下降しました。どちらも約6%の下落です。
ただ、これは約1ヶ月程度の期間をかけて下がった割合であり、暴落というほどの値下がりではありません。
以下の2つのチャートは、ナスダック指数・NYダウ指数の2013年の推移を表しています。
ナスダック指数の2013年のチャートです。全体的には上昇傾向が続いています。
こちらはNYダウ指数の2013年のチャートです。夏から秋にかけて少々停滞しましたが、年末にかけて再び上昇に転じました。
これらのチャートが表している通り、バーナンキ氏の発言による一時的な混乱後、2013年末にかけて株式市場は落ち着きを取り戻しました。
3-1-2. 実施期間の影響(株式市場 / 国債利回り / ドル円)
テーパリングの実施期間は2014年1~10月でした。
この期間、何度か下落して調整が入ったものの、継続的な上昇傾向は維持しました。
ナスダック指数の2014年のチャートです。(値動きをわかりやすくするため、2013年のチャートとは縮尺を変えています)
10%近く下がった期間もありますが、長期的に見ると右肩上がりです。
こちらはNYダウ指数の2014年のチャートです。(こちらも2013年のチャートとは縮尺を変えています)
こちらも7~8%下落した期間があるものの、長期的な上昇傾向は維持しました。
10年国債利回りは、実際にテーパリングが始まると徐々に下降しました。
テーパリングの予告で2013年末に3%近くまで上がっていた10年国債利回りは、2014年末には約2.1%まで下がっています。
以下のチャートは、2013年~2016年の米国債10年利回りの推移を表しています。
ドル円も10年国債利回り同様、バーナンキ氏のテーパリング示唆があった際には円高傾向にありましたが、実際にテーパリングが行われた期間はほぼ横ばいでした。
3-2. 今回考えられる影響
SNSなどの影響もあり、特に情報に敏感な株式市場になった今、一時的な混乱は避けられないでしょう。
今後の景気回復やインフレ率次第では、FRBが金融緩和施策の変更を発表しなくても”そろそろテーパリングが行われるかも””金利が上がるかも”といった予測をする投資家が増え、結果として株式市場が混乱(株価の下落・国債利回りの上昇)したり、場合によってはFRBのスタンスが変わってくる可能性もあります。
ただ、テーパリングの予告から実施までにはかなりの期間が空くため、実施が示唆されて急な値動きがあったとしても、テーパリングが開始されるまでの間にある程度落ち着くと考えられます。
テーパリング実施期間中も多少の上下はあるでしょうが、期間中ずっと市場が冷え込む(完全に成長が停滞する)ということはなさそうです。
4. テーパリングより注目?短期金利の上昇
ここまで”テーパリング=量的緩和の出口戦略”について紹介してきましたが、金融緩和政策にはもう一つ”金利”があります。
長期金利の指標となる10年国債利回りは景気や金融施策に影響されて上下しますが(国債の買い入れは量的緩和施策の一環でもある)短期的な金利はどうなるのでしょうか?
4-1. フェデラル・ファンド金利
この短期金利の指標が”フェデラル・ファンド金利”です。略して”FF金利”と呼ばれることもあります。
FRBが短期的な金融市場を操作するために調整する政策金利のことで、”米国連邦公開市場委員会(FOMC)”で話し合い、決定するだけで目標金利を定めることができます。
4-2. 前回のテーパリングに関連した影響
テーパリングは2014年1~10月でしたが、以下のチャートの通り、フェデラル・ファンド金利が上昇し始めたのは2015年10月頃です。その後、2018年末頃まで上昇の一途を辿っています。
2015年後半からの短期金利の段階的な上昇の他、コロナ感染拡大を受けて、リーマンショック後と同水準に落ちていることもわかります。(ローソクチャートでは見づらいため、フェデラル・ファンド金利のみラインチャートで表示しています)
短期金利が実際に上昇する数か月前からナスダックやNYダウ指数は下落を始め、約10ヶ月間右肩下がりのチャートとなり、テーパリング以上の影響が出ていました。
ナスダック指数のチャートです。約18%の下落となりました。
こちらはNYダウ指数のチャートです。約15%の下落を見せています。
ただ、金利が上昇を続けているのにもかかわらず、どちらも2016年半ばごろから持ち直し、再び上昇に転じています。
今回も同様に一時的な下落が起きるのは避けられないでしょうが、景気回復や株式市場の落ち着きによって、時間の経過とともに元に戻ると考えられます。
5. テーパリングはいつ行われるのか
5-1. 2021年中には示唆される可能性
テーパリングの実施時期については既にあちこちで予想されていますが、基本的に「実施を示唆」→「実施」と段階を踏むと考えられており、すぐに開始されることはありません。
従って、どんなに早くても2021年内に開始するということはないと予想します。
早ければ夏頃に実施を示唆し、年末~年明けの実施となるだろうと思っていましたが、昨日(5月7日)発表された雇用統計で予想を下回ったため、もう少し先延ばしされるかもしれません。(雇用統計の結果を受け、金融緩和がまだ継続されそうだという見方が強まり、5/7の米国株式市場は上昇に転じた)
5-2. 夏以降のFOMCに注目
FRBが公開市場の操作方針を決定するために定期的に開催している”米国連邦公開市場委員会(FOMC)”の夏以降の開催予定は以下のようになっています。
この開催のタイミングで、何か動きがあるのではないかと考えています。
- 2021年FOMC開催予定
- 6月 15~16日
- 7月 27~28日
- 9月 21~22日
- 11月 2~3日
- 12月 14~15日
6. まとめ
量的緩和施策の縮小であるテーパリングは、実施が示唆されただけでも金融・株式市場に影響を与えます。特に現在の過熱した市場では一時的な混乱は避けられないと考えますが、実施までに期間が空くので、株式市場も一度は落ち着きを見せるでしょう。
またテーパリング自体も長い期間をかけて行われるため、実施期間中は市場の成長が完全に停滞するという可能性は低いと考えます。
その後やってくる短期金利上昇も不安材料ではありますが、クロとしては、念のためポジションを下げつつ、時間が経てば落ち着くと考えて長期保有目的の一部はホールドし続けるつもりです。大幅な値下がりは買い増しのチャンスでもあると考え、銘柄検討を行っていこうと思います。
また、金利上昇などが金融株に与える影響を、前回のテーパリング時のチャートなどを見ながら解説・考察した記事もこちら↓にあります。
記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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