インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical Inc / ISRG)の”ダ・ヴィンチ・サージカル・システム(ダビンチサージカルシステム / da Vinci Surgical System)”が圧倒的なシェアを持つ医療ロボット市場ですが、特許の期限切れなどによって競合が多く出現しています。
今回はロボットを利用した手術の利点や、注目する競合銘柄を紹介していきます。
1. 手術支援ロボットの利点・市場規模
手術ロボットや医療ロボットとも呼ばれるダ・ヴィンチ(ダビンチ)サージカルシステムをはじめとした外科手術用ロボットですが、現在は外科医がコックピットから操作するのが一般的で、手術支援ロボットという表現をされることが多いです。
この手術支援ロボットは、人間には不可能な動き(アームの回転など)が可能で、傷口を小さく済ませ、より複雑な動作を行うことができます。
また、各社ごとに多少の違いはあるものの、手振れ補正や特殊な視野などの機能が搭載されており、執刀医のサポートを行います。
患者側としても、出血量が抑えられ、手術時間も短く済むとされる(ただし操作の熟練度などによってむしろ時間がかかることもある)ため、手術における負担が軽減されるメリットがあります。
更に、現在少しずつ普及が進められている高速通信規格5Gを利用した遠隔手術、AIの活用などにも期待が寄せられています。
株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによると「2021年の64億米ドルからCAGR17.6%で成長し、2026年には144億米ドルに達する」※1と予測されています。
※1 PR TIMES記事より引用。2022年2月13日閲覧:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000071640.html
2. インテュイティブ・サージカルの特許切れ
現在この手術支援ロボット市場はインテュイティブ・サージカル(ISRG)が約7割の圧倒的なシェアを持っており、ほぼ一強状態です。
しかし、ここ数年でインテュイティブ・サージカルの持つ特許の多くが期限切れとなり、新規参入の壁が一気に低くなりました。
特許を取得すると20年間(通常の特許期限)権利を保護してくれますが、期間終了後はその技術を公開しなければなりません。
そのため、現在インテュイティブ・サージカルの発明した技術などの多くが世界中で閲覧できるようになっているのです。
また、現在のインテュイティブ・サージカルのダ・ヴィンチ・サージカル・システムは非常に高価ですが、競合が出てくることで価格面の競争が起きる可能性もあります。
■インテュイティブ・サージカルの銘柄分析を行った記事はこちらにあります。
3. 注目の競合ロボット銘柄
インテュイティブ・サージカルの競合となりそうな手術支援ロボットを開発する企業を、既に承認済みのものや開発中のものも含めて紹介していきます。
3-1. ジョンソン&ジョンソン
3-1-1. 概要・手術支援ロボットへの取り組み
ジョンソンエンドジョンソン(JNJ)は医薬品や医療機器の超大手メーカーです。
Googleの親会社アルファベットと共に、AI技術と外科技術を融合した手術支援ロボットの開発を目指す合弁会社を設立した後、その企業を取得しています。
また、インテュイティブ・サージカルの創業者の一人が率いるAuris Health社など、複数の関連企業を買収し、新たなプラットフォーム”Ottava”の開発を進めています。
ただ、開発に遅れが生じているとされ、目標とされていた2022年の臨床試験登録は難しそうです。
■ジョンソンエンドジョンソンのより詳しい事業内容などはこちら
3-1-2. 株価チャート
3-1-3. 最近の業績傾向
売上は年単位で増加を続けており、特に2021年は純利益が大幅に増加しました。
3-2. アセンサス・サージカル
3-2-1. 概要・手術支援ロボットへの取り組み
アセンサス・サージカル(ASXC)は、手術支援ロボット”センハンス・サージカル・システム(Senhance Surgical System / センハンス・デジタルラパロスコピー・システム)”を開発・製造・販売する、純粋な手術支援ロボット企業です。
同社の販売するプラットフォームは一部の器具のリユースなどが可能で、ダ・ヴィンチ・システムよりも経済的だとされています。
既に各国で承認を得ており、2021年は10台を新規導入しましたが、発売して数年間の売上は数台~十数台と伸び悩んでいます。
■アセンサス・サージカルのより詳しい事業内容などはこちら
3-2-2. 株価チャート
3-2-3. 最近の業績傾向
納入数が伸び悩んでいることもあり、売上は安定していません。
また、赤字が続いています。
3-3. メドトロニック
3-3-1. 概要・手術支援ロボットへの取り組み
メドトロニック(MDT)は心臓ペースメーカーをはじめとした医療機器の大手メーカーで、脊椎手術に特化した手術支援ロボット”Mazor X”も展開しています。
メドトロニックの開発する外科用プラットフォーム、HugoRASシステム(Hugo robotic-assisted surgery system)は、2021年10月、EUで泌尿器科・婦人科手術の承認を獲得しました。
また、チリ、パナマ、インドでは既に使用されています。
HugoRASシステムは、ダヴィンチシステムよりも低コストでの導入・運用の実現を目指している他、比較的コンパクトに収納できるという特徴も持っています。
ただ、こちらもサプライチェーンの問題などによる販売の遅れがあるとされています。
3-3-2. 株価チャート
3-3-3. 最近の業績傾向
過去数年を見ると、売上・利益共に安定はしていますが、増加傾向はありません。
また、2021年(4月締め)は純利益が減少しました。
3-4. 非上場の日本企業
日本でも手術支援ロボットの開発は進んでおり、代表的な物にはシスメックス(6868)と川崎重工業(7012)の合弁会社”メディカロイド”、国立大学発のベンチャー企業”リバーフィールド”の2社が挙げられます。
このどちらも非上場で直接投資できないのが残念ですが、メディカロイド社は”hinotoriサージカルロボットシステム”を、リバーフィールド社は空気圧駆動型の内視鏡ホルダロボット”エマロ”を発売しています。
特に”hinotori”は、手術データ(アームの実際の動き)を蓄積することで、いずれは手術の自動化を目指しているともされており、今後の展開が気になります。
4. まとめ
特許の期限が切れ始めてから数年経ちますが、未だにダヴィンチ・サージカル・システムのシェアは非常に大きいです。
しかし、競合のロボットが少しずつ承認され始めており、導入する病院側の選択肢も増えつつあります。
ダヴィンチシステムを販売するインテュイティブ・サージカルは、その高価な製品価格の影響もあって高い収益性を維持していますが、この部分も変わってくるかもしれません。
記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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