スポティファイ・テクノロジー(Spotify Technology SA / SPOT)の決算書分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)※2021年第3Qを考慮
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待※2021年第3Qを考慮
それでは見ていきましょう。
※今回の記事内の売上等の単位は”ユーロ”です。
■2021年更新版はこちら
1. Spotify Technology SA(SPOT)について
1-1. 業種
ソフトウェア、ストリーミングサービス
1-2. 事業の概要
スポティファイ・テクノロジーは、レコードレーベル関連各社とライセンス契約を結び、音楽ストリーミング配信サービス”Spotify”を提供するルクセンブルクの企業です。
そのユーザー数は増加を続けており、2021年9月末時点での月間アクティブユーザーは3億8,100万人、有料会員は1億7,200万人です。
なお2020年12月末時点では月間アクティブユーザー3億4,500万人、有料会員は1億5,500万人でした。
有料会員のサブスクリプションと広告の2つが主な収益源となっており、2020年の売上の約91%がサブスクリプションによる収益でした。
広告に邪魔をされることなく、無制限でのストリーミングアクセスが可能となるサブスクリプションには、標準プラン、ファミリープラン、学生プランなど複数の料金プランがあります。
2021年2月にロスレス(圧縮が少なく元の音源データを再現できる形式)の高音質配信”Spotify HiFi”を発表し、2021年内に配信する予定となっていましたが、その予定は遅れています。
スポティファイは”具体的な予定は発表できないものの、配信予定であることは変わらない”というスタンスを取っていますが、一部のメディアでは配信が中止されるのではないかという報道も出ています。
ちなみに競合の一つであるAppleMusicは、ロスレス配信を既に実現しています。
1-3. チャート
スポティファイ・テクノロジーの株価チャートはこのようになっています。
2020年2月頃の新型コロナ感染拡大の後上昇をはじめ、何度か停滞しつつも一時は380ドルを超えました。
しかしその後2021年2月下旬に株価は一気に下落し、現在は220ドル~300ドルの間を何度も上下しています。
なお、以前も同様の価格帯で上下を繰り返したことがあります。(2022年1月11日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 貸借バランスは悪いが、2021年第3Qには改善
※記事作成時点の最新決算が2021年第3Q - 自己資本比率は高めだが、その後低下
- 事業は赤字だが営業活動のキャッシュフローはプラス
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”不安タイプ”です。
流動比率は約82%、当座比率は約76%で、あまり良い数値ではありません。
ただ、記事作成時点の直近の四半期決算となる2021年第3Q(9月締め)では、この比率は改善しています。
固定比率も良くありませんでしたが、2021年第3Qには許容範囲内に改善しています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は44%と高めです。
なお、2021年第3Q時点では30%まで低下しています。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業が赤字ですが、支払利息や外貨損失などの調整があり、営業活動によるキャッシュフローはプラス収支です。
投資活動では、短期投資の購入による支出、短期投資の売却や満期による収入がありました。
また、Bill Simmons Media Group, LLCとMegaphone LLCの買収により支出もあり、最終的にはマイナス収支となっています。
財務活動においては、従業員のストックオプション行使の割合が大きく、プラス収支となりました。
2-1-4. 項目まとめ
2021年第3Qまで見ると、ひとまずの資金繰りには問題ありません。
また同四半期決算では、ごくわずかではあるものの利益が発生しており、赤字が膨らみ続ける段階は乗り越えたのかもしれません。
2-2. 収益性
- 赤字続き
- 2021年第3Qまでの9ヶ月間は僅かな黒字
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
赤字続きのため、ROEはマイナスです。
2018年にマイナス値が大きく縮小されましたが、これは純損失の削減だけでなく、IPOによって自己資本が増加したことも影響しています。
その後、純損失は年々増加していますが、2021年の完了した9ヶ月間(記事作成時点の最新決算は第3Q)では、ごくわずかな利益が発生しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上下しています。
総資産は年々増加しています。
2-2-3. 項目まとめ
利益が出ないまま赤字が膨らんでおり、この時点での収益性は低いです。
しかし、第3Qまでの9ヶ月間を見ると、2021年は赤字の削減ができるかもしれません。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインクリア
- 棚卸資産の保有はなし
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は最低ライン1回をクリアしています。
一方、固定資産回転率は年々低下しています。
買収によってのれんなどが増加している部分もありますが、最も大きな固定資産は長期投資です。
2021年第3Qではこの長期投資が半減しているため、次回年次決算では回転率が上昇するかもしれません。
なお、棚卸資産の保有はありません。
2-3-2. 項目まとめ
回転率にはあまり問題はありません。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年第3Qまで売上は増加中
- 2020年まで営業損失が出ていた
- 2021年は営業利益が続けて発生
※ただし第4Qは損失となる見込み - 売上高研究開発費率は10%超え
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は年々増加しています。
2020年は前年比約17%増加、2021年の9ヶ月間(記事作成時点の最新決算は第3Q)では前年同期比22%となっています。
サブスクリプションによる収益、広告による収益のどちらも増加していますが、特に2021年の9ヶ月間では広告の売上増加が前年同期比75%と著しいです。
これには広告再生の増加や再生単価の上昇、買収などが影響しています。
ただ、この広告収入はサブスクリプションと比較すると粗利率が低い状態です。(ちなみに広告需要は第4Qに増加し第1Qに減少する季節要因があるとしている)
地域別では、アメリカ、イギリス、ルクセンブルク、その他と4つのセグメントで報告されていますが、全てのセグメントで売上は増加しています。(地域別売上は、年次決算による2020年までの数値)
また、前述したとおり有料会員は増加していますが、1ユーザーあたりの平均サブスク収益は減少傾向にあります。これには為替レートやサブスク加入者のプランの構成変化が影響しています。
営業損失が増加傾向にあります。
ただ、2021年の9ヶ月間では営業利益が発生しており、今後黒字化する転機となるかもしれません。
なお、人員増加などによって営業費用は増えています。
また営業外では、支払利息や為替変動による費用・損失があり、2020年と比べて、2021年はこれらが有利に働いています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約7,880百万ユーロ、研究開発費は約837百万ユーロだったので、売上高研究開発費率は10.6%です。
スポティファイは米国企業ではありませんが、一つの目安として米国平均と比較すると、平均の約2.5倍となります。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の米国平均は4.1%とされている。)
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上は増加を続けており、更に直近決算(2021年第3Q)を見るとわずかながら黒字(9ヶ月間の純利益は5百万ユーロ)となっています。
以前、2020年第1Qに1百万ユーロの純利益を出したことがありますが、その際は事業自体は赤字(営業損失が発生していた)でしたし、その後の四半期で再び数百万ユーロの純損失が発生しました。
しかし今回は、営業利益が継続的に発生しています。
このままユーザーの増加が続けば、事業の収益化が実現できそうです。
ただし、2021年第4Qのガイダンスでは152百万ユーロ~72百万ユーロの営業損失が発生する見通しとなっています。
3. まとめ
クロとしては、スポティファイ・テクノロジー(SPOT)は事業の収益化実現に期待したい銘柄です。
ユーザーはまだ増加し続けていますし、近い将来黒字になるのではないかと考えています。
ただ、高音質配信サービスの行方が気になるのと、現在の市場が利上げやバランスシート縮小議論で不安定になっているため、購入タイミングは検討していきたいです。
ちなみにPSRは4.13(Bloombergより引用。2022年1月11日閲覧)で、数値自体は割高の部類ですが、人気テクノロジー銘柄と比較すれば割安といったところです。
また、もし2021年が黒字になったとしても純利益は非常に小さいと考えられるので、PERはかなり高くなるでしょう。
今回の記事はSpotify Technology SAの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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