スキルズ(Skillz Inc / SKLZ)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Skillz Inc(SKLZ)について
1-1. 業種
サービス、ソフトウェア、eスポーツ
1-2. 事業の概要
スキルズは、モバイルゲームのeスポーツ・プラットフォームを提供することで新たな収益モデルを目指す、SPAC IPO企業です。
従来のモバイルゲームの収益モデルは、広告やアイテム課金でした。
しかしスキルズは、コンテストやその賞金を通じてユーザーの満足度向上・定着を狙うと同時に、強力な収益源とすることを目標にしています。
スキルズの最大の特徴は、ギャンブルではなくeスポーツのプラットフォームを提供しているという点です。
運が左右するゲームではなく、ユーザーのスキルによって勝負できるゲームでのコンテストを実施しているため、基本的にギャンブル・ライセンスは必要なく、2020年末時点で”米国の人口の約90%をカバー”する、41の州とコロンビア特別区で賞金を懸けたコンテストサービスを提供しています。
※なお金銭をかけての勝負となるため、当サイトの分類の都合上”iGaming”というタグをつけています
また、ユーザーに公平なゲームを提供するため、不正行為の検出にも力を入れています。
スキルズ自身がゲームを開発するのではなく、あくまでプラットフォーム・開発者向けのコンソールなどの提供・運営に注力しているのも特徴です。
ユーザーがコンテスト参加費を課金すると、スキルズはそれを集めて、勝利したユーザーへの賞金、スキルズの収益、開発者の収益に分配します。
スキルズの収益となるのは、参加費のうち16%~20%程度です。
また、2021年2月にはNFLと複数年の契約を結んでおり、ゲーム開発者を対象としたチャレンジを行っています。
このチャレンジは、開発者がNFLをテーマにしたゲームのコンセプトを提出し、選考のファイナリストは、実際にNFLクラブのロゴを使用したゲーム開発ができるというものです。
優勝ゲームは2022年のNFLシーズン前に発表される予定となっています。
なお、以前はAndroid(Google playストア)がギャンブルアプリを規制していましたが、現在は規制が解除され、スキルズのアプリもダウンロード可能です。
1-2-1. 懸念点やAarki買収について
スキルズのビジネスモデルは画期的ですが、現状はいくつか気になる点があります。
一つ目は、売上に全く寄与していないユーザーが多くいることです。
ユーザーのうち売上に繋がっているのは有料のコンテストに参加する支払ユーザーのみですが、2021年度の総MAU(月間アクティブユーザー)に対する支払ユーザーのMAUは17%しかありません。
ただ、2019年は10%、2020年は13%だったため、上昇傾向ではあります。
二つ目の懸念点は、一部のゲームに人気が集中していることです。
ソリティア・キューブ、21ブリッツ(トランプゲーム)、ブラックアウト・ビンゴの3つが大きな売上を生み出しており、毎年、この3つの売上合計は全体の70~80%にもなります。
また、開発者別の売上を見ても、この3つのゲームの開発者(ソリティア・キューブ、21ブリッツは同じ開発者)が大きな割合を占めています。
なお、一つ目の懸念点である”売上に寄与しないユーザーが多い”という点に関しては、Aarki(高度な広告プラットフォームを持つ)の買収で変化があるかもしれません。
現時点(記事作成時点)では広告による収益はなく、Aarkiのプラットフォームは”更なるユーザーの獲得”、”マーケティング費用の効率化”に利用されているようですが、3月の23日~25日に行われるゲーム開発者のイベントで、業界で高水準のROIを実現する”初の統合型eスポーツ広告プラットフォーム”について発表する予定だとされています。
当初のビジネスモデルに反することにもなりますが、今後の売上成長のカギになるかもしれません。
1-3. チャート
スキルズの株価チャートはこのようになっています。
2020年年末から1月にかけて大きく上昇したものの、その後は下落が続いています。(2022年3月13日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- ひとまずの資金繰りは問題なし
- 2021年は更なる資金調達を行った
- まだ事業から現金を生み出せていない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
IPOから約1年経過したところですが、流動比率、当座比率共に600%を超えており、十分すぎる程の流動性があります。
固定比率も69%と問題ない数値です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は61%と高いです。
2021年にも株式発行を行ったため、2020年から41ポイントも上昇しました。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業が赤字で、キャッシュの調整を行っても営業活動はマイナス収支です。
投資活動では、多くの資金を満期保有・売買が可能な有価証券の購入に使用しています。
財務活動では、借入や株式発行による資金調達を行っています。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りには問題ありませんが、キャッシュフローは良くありません。
いずれはまた、負債や株式発行による資金調達を行う可能性も高いです。
2-2. 収益性
- 自己資本の急増・損失の急拡大でROE・ROAは参考にならない
- 2021年は自己資本11倍・損失3倍
- ただし粗利率は94%と非常に高い
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインの半分にも届かず
- 2021年は急激な資産増加で回転率低下
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は増加を続けるも成長率は低下傾向
- 2022年のガイダンスでは4%の成長
- 粗利率90%超えだが営業損失は拡大中
- マーケティング費用が非常に大きい
- 売上高研究開発費率は平均の3倍近い
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は大きく伸び続けていますが、136%、92%、67%と、段々成長率は下がってきています。
一時はMAUが伸び悩んでいたスキルズですが、2021年は約300万人(前年度は260万人で、比較すると15%増加)、第4Qのみを見れば約370万人(前年同期は240万人で54%増加)と増加しています。
総MAUに対する支払ユーザーMAU(現状、売上に繋がるのは支払ユーザーのみ)の比率は、2021年度で17%、第4Qのみでは16%です。
営業損失は大きく増加しています。
原価コストが非常に少なく、2020年は95%、2021年は94%という高い粗利率を出しています。
ただ、ユーザー獲得のためのマーケティング費用が非常に大きく、2021年は売上の約1.2倍もの金額がかかっています。
Aarki買収でこの点が改善されるかどうかは注意しておきたいです。
また、人件費の増加も損失拡大に影響しています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約384.09百万ドル、研究開発費は約46.02百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約12%です。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員数を抱えた米国企業の平均は4.4%とされており、平均の3倍近い比率で資金を投じていることがわかります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
ビジネスモデルや高い粗利率は魅力的ですが、まだ初期段階ながら成長率が低下してきており、あまり強い成長は実現していません。
売上以上にマーケティング費用が膨らんでいる点も気になります。
また、更に決算と共に発表されたガイダンスでは、2022年の通年売上を400百万ドルとしています。
これは2021年比で4%しか売上が伸びないという計算です。
当初のアナリスト予想の売上は550百万ドル前後とされていたこともあり、この発表は株価を大きく押し下げました。
3月後半には広告プラットフォームを発表する予定のはずですが、売上の増加見込みがこんなにも小さいというのは気がかりです。
3. まとめ
クロとしては、スキルズ(SKLZ)はひとまず様子を見たい銘柄です。
面白いビジネスモデルだと感じますが、現状はユーザーの80%以上を収益に繋げられていない点や、マーケティング費用がかかりすぎている点、そしてあまりにも弱気なガイダンスが気になります。
また、スキルズでの人気ゲームは、eスポーツと聞いて真っ先に思い浮かぶようなバトルやサバイバルではなく、トランプゲームやビンゴといったシンプルな内容です。
ライトなユーザー層を取り込みやすそうですが、その反面、複雑なゲームを楽しむユーザーへのアプローチは弱いのではないかと考えられます。
気になる内容ではあるので、今後広告収益が実現し成長するのか、マーケティング効率や支払ユーザーの比率が改善されるのか、追っていきたいと思います。
今回の記事はSkillz Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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