ロイヤルティ・ファーマ(Royalty Pharma plc / RPRX)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)()
- 収益性()
- 経営の効率()
- 成長への期待 ※non-GAAP指標キャッシュフローを使用しない評価については()で表示
それでは見ていきましょう。
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1. Royalty Pharma plc(RPRX)について
1-1. 業種
医薬品、投資
1-2. 事業の概要
ロイヤルティ・ファーマは、主にバイオ医薬品の開発者(病院や研究所、非営利団体など)から特許を購入し、それを製薬会社などへ販売することでロイヤルティを得ている企業です。
新たな医薬品の開発には多額の資金と長い時間がかかるため、特許の一部を売却することになるとしても、開発者にとってロイヤルティ・ファーマは貴重な資金提供者となります。
また、製薬会社側からすれば、ロイヤルティ・ファーマの提案は新商品の足掛かりを比較的容易に得ることができる手段でもあります。
規模の大きなロイヤルティも多く、2020年末時点ではエンドマーケットで10億ドル以上の売上を生み出す治療薬が20種類、同様に30億ドル以上のものは7種類、ポートフォリオに含まれていました。
元々は自己資本のみで行われていたロイヤルティの獲得ですが、IPOを経た現在は株式や債券発行によって更なる資金を投じています。
こうした規模の拡大に伴い、現在は開発途中の医薬品もポートフォリオに加わるようになりました。
また、2020年末時点で従業員は51人しかおらず、少ない人数で非常に高い収益を上げていることも特徴の一つと言えます。
1-3. チャート
ロイヤルティ・ファーマの株価チャートはこのようになっています。2020年11月頃から一時上昇していましたが、2021年1月末頃から大きく下落しました。
現在は上下しつつも下げ基調が続いており、株価は過去にもあった最低値の水準で推移しています。(2021年10月4日)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は高いが、半分は非支配持分
- キャッシュフローも問題なし
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
非支配持分(株式の一部を保有する子会社分)の自己資本が多く、資産合計と負債・資本合計が大きくずれています。
流動比率は約880%、当座比率も約880%で、短期の資金繰りに問題はありません。
固定比率は約277%と高く、純資産と固定負債を足しても固定資産の額に達していませんが、非支配持分の資本(5,077百万ドル)を加味すると十分な額となります。
2-1-2. 資本の比率
全体で見た自己資本比率は62%と高いです。
ただ、2020年のIPOに伴って持株会社となり、株式交換取引を行ったことで”非支配持分”の株式が増え、ロイヤルティ・ファーマ自身の自己資本は減少(非支配持分を除いた正式な自己資本比率は30%となる)しました。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
営業活動はロイヤルティから得たキャッシュ(現金)が非常に大きくプラス収支、投資活動ではロイヤルティを生み出す資産の取得と有価証券の購入で大きなマイナス収支となっています。
財務活動では、長期債務からの収入とその返済が大半を占めました。
IPOによる資金調達も収入の一つですが、長期債務による収入の6分の1程度の金額でしかありません。
2-1-4. 項目まとめ
資金繰りには問題ありませんが、債務による多額の資金調達を行っている企業です。
2-2. 収益性
- 米国平均程度の収益性
- 非支配持分の資本が大きくなり、自身に帰属する純利益が減少
- 利益に関しては別の指標も見る必要がある
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年のROEは米国平均を少々上回っています。
前年より数値が低下したのは、IPOに伴った自己資本の増加と、子会社との株式交換を行ったことで非支配持分に分配される純利益が急増した(ロイヤルティ・ファーマ自身に帰属する純利益が減少した)ためです。
また、2019年は医薬品の承認によって引当金が不要となり、この分が10億ドルの収入となっています。
なお、このROEは、非支配持分を除いた純利益・自己資本で計算しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上下しています。
2020年の数値は米国平均程度です。
2-2-3. 項目まとめ
通常の純利益から見る収益性は米国平均程度です。
ただ、前述したとおり、通常通りの利益以外の点も考慮する必要があります。
2-3. 経営の効率
- 資産の回転率は低い
- ロイヤルティを得るための資産が大きい
2-3-1. 各回転率
総資本回転率、固定資産回転率共に低いです。
ロイヤルティを生み出す資産(固定資産)が非常に大きいことが影響しています。
なお、棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
事業の特性上固定資産が大きく、回転率は低い結果となりました。
(今回の計算には、GAAP数値の売上高を使用しています)
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年は非支配持分増加の影響もあり、売上増加も利益減少
- より正しく事業成果が表れるとされる
non-GAAP指標キャッシュフローでは減収減益 - ただし2021年上半期(記事作成時点の最新決算は第2Q)は前年同期を上回る
2-4-1. 売上高と営業利益
この2つのグラフは、GAAPによる売上・営業利益の推移です。
売上高は増加傾向ですが、2020年の営業利益は前年より大きく減少しました。
ただ、この主な要因は、2019年の営業利益が引当金収入の発生によって大きかったことです。
2-4-2. non-GAAPキャッシュフローから見る売上・利益
ロイヤルティ・ファーマは特許などのロイヤルティ資産を常時売買しているため、通常の企業のように売上から原価や費用を引いて利益を出すことが難しく、”調整後現金収入”、”調整後キャッシュフロー”の方が実際の事業の成果を正しく反映しているとも言われています。
なお、この”調整後”とされる2つの指標はnon-GAAP指標の数値です。
ロイヤルティ・ファーマの場合、調整後現金収入は売上を、調整後キャッシュフローは利益を表します。
この指標から見ると、収入(売上)、利益共に減少しています。
2019年に一部の商品のロイヤルティの満期が到来したこと、2020年に非支配持分が増加し、そちらに分配する金額が増えたことが主な要因です。
また、2020年もロイヤルティポートフォリオにおける”成熟”カテゴリからの収入は減少していますが、一方で”成長”カテゴリからの収入は増加しています。
しかし、2021年上半期(記事作成時点の最新決算は第2Q)では、売上(調整後現金収入)は前年同期比18%増加、利益(調整後キャッシュフロー)は前年同期比26%増加となっています。
2-4-3. 項目まとめ
通常企業のような売上、原価、費用、利益という分析がしづらい銘柄ですが、ロイヤルティの期限が到来することによって収益にマイナスの影響が出ているのがわかります。
新たなロイヤルティ資産の獲得や”成長”カテゴリの伸びに期待したい気持ちもありますが、自身で商品開発を行うわけではないことや、常に期限や価格変更などのリスクが付きまとうこともあり、売上や利益をグングン伸ばす成長は期待しにくい事業内容だと考えます。
また、非支配持分への収入の分配が増加したことによって、ロイヤルティ・ファーマ自身の収益・利益は減少しました。
3. まとめ
クロとしては、ロイヤルティ・ファーマ(RPRX)の購入は一旦見送ろうと思います。
IPOしたばかりで既に黒字な点、利益率が高い点、少人数で10億ドルを大きく超える売上を出している点などは魅力的です。
しかし、non-GAAP指標のキャッシュフローから見た売上・利益が減少を続けていることや、非支配持分への分配が増加している点が気になります。
ただ、2021年上半期は好調なようですし、次回決算などを見て再度検討しようかと思います。
今回の記事はRoyalty Pharma plcの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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