ピー・ティー・シー(PTC Inc / PTC)の2021年9月期までの決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. ピー・ティー・シー(PTC)について
1-1. 業種
ソフトウェア、電子テクノロジー、サービス
1-2. 事業の概要
PTC Incは、3次元CADとPLM(製品ライフサイクル管理)、IIoT(産業におけるモノのインターネット)、ARに関連した、ソフトウェアやサービスを提供する企業です。
デジタルトランスフォーメーション、SaaS、リモートでの業務、AIといった需要の高いテクノロジーを投入し、顧客である航空宇宙、自動車や電子機器、産業機械などのメーカーへ、デジタル管理ソリューションによる効率化(生産性向上、コスト削減・最適化、新製品投入の推進など)を提供しています。
PTCのソフトウェア、サービスは、製品に関する情報(開発の要件定義から設計、構成、出荷に至るまで)を関連付けることで、その構成データ全てへのアクセスを可能にするデジタルスレッドと、プロジェクトにおける作業速度を表すベロシティの2つに分けられます。
デジタルスレッドでは、3D CAD、PLM、産業機械や装置・ヒトの動きなどをITで接続し効率化に繋げるIIoTのためのプラットフォーム、ARによる可視化を、ベロシティでは、データ管理・管理者の分析・セキュリティに優れたクラウドネイティブなSaaS型のCAD、PLMを提供します。
顧客への直販による売上が多いですが、30~35%程度はサードパーティの販売によるものです。
1-3. チャート
PTC Incの株価チャートはこのようになっています。
コロナ感染拡大で株価は一時下がっていますが、その後大きく上昇し、2月、4月、7月に約150ドル前後という自身の最高値をつけました。しかし、その後は下がり基調です。(2021年11月25日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 買収などの影響で固定資産が多い
- 自己資本比率は良い数値
- 2021年9月期も買収の影響が大きい
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは“ギリギリ運用タイプ”です。
流動比率は約138%、当座比率は約111%あるため、短期の資金繰りはほぼ問題ありません。
固定比率は約168%と高すぎますが、純資産と固定負債でまかなえているのでひとまずセーフといったところです。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は45%で、良好な部類です。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは2020年9月期と同じく、営業活動プラス、投資活動マイナス、財務活動プラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業の黒字に加え株式報酬の戻入れもあり、営業活動によるキャッシュフローはプラス収支です。
また、前年に引き続き2021年9月期もSaaS型PLMのArenaという買収を行ったため、投資活動は大きなマイナス収支となっています。
財務活動にもこの買収が影響しており、買収資金の大半を借り入れたことでプラス収支となりました。
なお、2020年にいったんストップしていた株式の買戻しが、今期は金額が小さくなりながらも行われています。
リリース内には、負債等が落ち着けば、この買戻し額を過去の割合に戻す(増額となる)予定であるという発言もありました。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りには問題ありません。
ただ、一時的だとは思いますが、連続した大型買収でキャッシュフローの内容が良好とは言えない状態になっています。
2-2. 収益性
- ROE、ROAは米国平均を超える結果に
- マージン改善戦略が成功
- 今期は保有株式の株価変動・
法人税の調整も純利益増加に寄与
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2021年9月期のROEは23.4%で、米国平均とされる16~18%を超えています。
以前の決算書から言われていた、契約形式の永久ライセンスからサブスク形式への変更、一部事業のパートナー委託へのシフトといったマージン改善戦略の成果が出始めたと考えられます。
ただ、今期は保有するMatterport Incの株価変動、法人税の調整によって純利益が一部上積みされているので、事業からの利益のみだと少々低い数値(概算するとそれでも16%程度)となります。
なお、2019年のマイナスは従業員再編と本社移転に関連した費用が発生したためです。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEと同様に上昇し、今期は10.58%と、米国平均の6~8%を超える結果となっています。
2-2-3. 項目まとめ
マージン改善が達成され、収益性は大きく上昇しました。
今期は保有株式の株価変動や法人税の調整という事業外収益がありましたが、それを差し引いても利益率は上昇しています。
2-3. 経営の効率
- 資本から見ると売上はまだまだ足りない
- 買収によって資産が増加し回転率は低下気味
- 事業の性質上、在庫は持っていない
2-3-1. 各回転率
全体的に回転率は低いです。
また、2020年9月期よりも若干回転率は低下しました。
低下の主な要因は、買収による”のれん”の増加、それに伴う債務の増加です。
なお、事業の性質上、在庫はありません。
2-3-2. 項目まとめ
回転率は低く、売上の更なる増加が望まれます。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年は売上・営業利益共に更に増加
- 営業利益は81%増加
- 売上高研究開発費率は平均の4倍
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は前年比24%増加しました。
長期間の契約獲得などで特にライセンスによる収入の増加が大きく、前年比45%の成長となっています。
ライセンス収入とサポート収入をまとめてソフトウェアからの収益としていますが、この増加額は335百万ドル(前年比25%増加)で、そのうち29百万ドルは今年買収したArenaからのものでした。
また、地域別に見ても全てのエリアで売上は増加しています。
営業利益は前年比81%増加しています。
これはライセンス収益に関する粗利率の上昇と、各種事業費用の増加(株式報酬の増加、買収に関連する費用・人件費の増加など)を若干上回る売上の伸びによるものです。
2-4-2. 研究開発費
2021年9月期の売上高は約1,807.16百万ドル、研究開発費は約299.92百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約16.6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員数が同程度の企業平均は4.1%とされているので、それと比較するとほぼ4倍の高い数値となります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2021年9月期は、売上、事業からの利益の両方が増加し、利益率も上昇するという良い結果でした。
注目を浴びるグロース銘柄と比較すると売上の伸びは少々控えめですが、今後も堅実に成長していくことを期待したいです。
2-5. 構造改革の出費予定
2021年11月に改めて従業員・施設の再編成計画をアナウンスしており、2022年第1Q(2021年10月~12月)には4,500万ドル~5,000万ドルの費用が発生する見込みとなっています。
また、この計画に関する現金支出は、2022年第1Qに計上されないものも含め、約5,000万ドル~5,500万ドルの予定です。
3. まとめ
クロとしては、ピー・ティー・シー(PTC Inc)は成長に期待したい銘柄です。
今期も売上は成長を続けており、更に収益性も向上するなど、良い結果となっています。
買収によって膨らんだ”のれん”と債務(借入など)が気になりますが、当座比率が100%を超えているので、ひとまずの資金繰りはなんとかなりそうです。
また、構造改革によって再び費用が発生し一時的に利益率は下がるでしょうが、現在進行中のマージン戦略が上手くいっているので、次回も経営陣の手腕に期待したいです。
なお、記事作成時点では株価が下降傾向にあるため、テクノロジー株の中では比較的割安な部類に入ります。(ただ来年度のコンセンサス予想の利益額が今期より減少しているため、予想値のPERは実績値よりかなり高いです)
以下は黒字の代表的なテクノロジー銘柄との比較です。
- PTC:PER(実)26.95/(予)46.81
- PYPL:PER(実)52.68/(予)52.82
- SQ:PER(実)448.42/(予)505.04
- FB:PER(実)33.36/(予)24.50
- AAPL:PER(実)28.57/(予)28.20
- ADSK:PER(実)46.65/(予)101.90
- INTU:PER(実)89.56/(予)92.21
PERはいずれも楽天証券を参照させていただきました。(2021年11月25日閲覧)
今回の記事はPTC Incの決算書及び四半期決算、コーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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