今回はピー・ティー・シー(PTC Inc / PTC)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
■2021年更新版はこちら
1. ピー・ティー・シー(PTC)について
1-1. 業種
ソフトウェア、電子テクノロジー、サービス
1-2. 事業の概要
PTC Incは、優れたSaaS型3次元CADとPLM(製品ライフサイクル管理)に関連した、ソフトウェアやサービスを提供する企業です。
顧客は主に製造メーカーで、各部門を一元的にデジタル管理するシステムやコンサルティングにより、事業の効率化(生産性向上、コスト削減・最適化、新製品投入の推進など)を提供しています。
中には産業用IoT技術や拡張現実(AR)技術によるソリューションもあり、現場のリアルタイムの可視化、離れた場所からの適切な指示管理を可能にしています。
1-2-1. 例えば…?
拡張現実(AR)技術を利用して、離れた場所からでも”現場を見ながらわかりやすい指示”が出せます。
スマートフォンなどのデバイスを用いたテレビ通話を行いながら、画面に直接指示を書き込むと(例えば該当箇所に丸印を付けたり、矢印によって工程を指示するなど)それらの書き込みはリアルタイムで共有され、離れた相手にも伝わります。
これによって責任者や技術者がその場にいなくても現場の指示管理が可能となりますし、例えば現在のコロナ影響下でも、人と直接接触せずにリモートで作業を進めることが可能となります。
1-3. チャート
PTC Incの株価チャートはこのようになっています。
コロナ感染拡大で株価は一時下がっていますが、その後は上がり続け最高値を更新し続けています。(2021年4月5日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 買収などの影響で固定資産が多い
- 自己資本比率は良い数値
- 2020年度は買収の影響が大きい
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは“ギリギリ運用タイプ”です。
(貸借バランスのポイントについては、こちら↓の記事で紹介しています)
しかし流動比率は約120%、当座比率は約110%あるため、短期の資金繰りにはそこまで不安はありません。
2019年に売掛金が前年比約2.8倍となったため、数値が一気に改善しました。
また、固定比率は約180%で、自己資本だけでは固定資産をカバーしきれていませんが、自己資本と固定負債でまかないきれています。
ひとまずはセーフといった内容です。
(貸借貸借表の各比率については、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は43%で、良好な部類です。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは、営業活動プラス、投資活動マイナス、財務活動プラスという”投資&資金調達タイプ”の組み合わせです。
2020年はOnshapeの買収の影響があり、投資活動のマイナス額が大きくなっています。
そのため、フリーキャッシュフローは300百万ドル近いマイナスとなってしまいました。
また、この買収資金のために新たにシニア債を発行したので、財務活動がプラスとなる結果になりました。
(キャッシュフロー計算書の注目ポイントなどを、こちら↓の記事で紹介しています)
2-1-4. 項目まとめ
貸借バランスはあまり良い形ではありませんが、流動資産の中でも当座資産が大きいため、短期の資金繰りはひとまず問題なさそうです。
自己資本比率が比較的高いのも良いポイントです。
また、2020年度は買収の影響が大きく、フリーキャッシュフローが一時的に悪化しています。
買収が有益なものであれば、いずれキャッシュフローの営業活動にもプラスの影響が出てくるはずなので、今後の数値にも注目しておきたいです。
2-2. 収益性
- ROE、ROAは米国平均の半分程度しかない
- 2020年は大きく増収増益
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年のROEは9%と、米国平均といわれる16~18%の半分程度しかありません。
また、2019年は前年より売上が増加したものの赤字となっています。
これは主に従業員の再編と本社移転に関連しリストラが行われ、その費用が利益を圧迫したためです。
また、過去2015年~2016年は減収減益が続いており、2016年は赤字でした。
この理由には、マージン改善戦略としてライセンス契約形態の変化(永久ライセンス→サブスクリプション形式)、一部サービスをパートナー委託へシフトしたこと、経済環境、通貨の為替レートの影響が挙げられます。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様の上がり下がりをしています。
また、ROAも米国平均(6~8%程度とされている)の半分程度で、現状は低い数値です。
2-2-3. 項目まとめ
過去に赤字があること、大きな増収増益となった2020年もROE、ROAともに平均の半分程度しかないことを考えると、まだまだ収益性はあまり高くないと言わざるを得ません。
ただ、現在はライセンスの契約がサブスクリプションへほぼ移行完了しているので、減収となる要因が一つ解決したとも言えます。
決算書内でも”今後リモートワークのサポートの需要は強まると考えている””当社のソリューションの多くはリモートワークをサポートしている”という旨の発言があり、今後に期待したくなる面もあります。
2-3. 経営の効率
- 固定資産が大きく、回転率は低い
- 事業の性質上、在庫は持っていない
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は、約0.4回です。
これは低い数値です。買収を繰り返した影響で固定資産が大きく、資産額から見た売上はまだ足りない状態です。
固定資産回転率は約0.6回です。
直近に大きな買収があったため、ここ数年で一番低い数値となってしまいました。
なお、事業の性質上、在庫はありません。
2-3-2. 項目まとめ
回転率から見る効率は良くありません。
特に買収の影響が大きく、まだその費用に見合った売上があげられていない状態だと言えます。
また、基本的にソフトウェアやサービスを販売しているので、在庫を持つ必要がない事業形態です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年は売上・営業利益共に増加
- コストの増加額より売上の増加額が大きく、
営業利益は230%の伸び率 - 研究開発にもかなり投資している
2-4-1. 売上高と営業利益
売上高は2018年・2019年ではほぼ横ばい、2020年は大きく増加しています。
2019年は前年より減益となっていましたが、2020年の営業利益は大きく増加しました。
(2019年はリストラに関する費用が利益を圧迫した)
2020年の売上は前年比で約200百万ドル増加したのに対し、原価となるコストや販売管理費などの営業費用は約55百万ドルしか増加しなかったため、営業利益の伸び率は約230%にもなりました。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約1,458百万ドル、研究開発費は約257百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約17.6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員数が同程度の企業平均は4.1%とされているので、それと比較すると4倍以上の高い数値となります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
全体的に今後の成長に期待したくなる内容です。
2020年は売上高以上に営業利益がかなり大きく伸びました。
原価や営業費用といったコストがあまり増えていないことやその事業内容から、PTCのコストは固定費と呼べる部分が大きく、売上高が一定ラインを超えれば以降は利益は大きく上がる構造であると考えられます。
ただ、研究開発にもかなりコストを投じているので将来が楽しみな反面、比率が高すぎるようにも受け取れます。
事業の性質を考えると、今後成熟期に入ってもこの費用はあまり削れない可能性もあります。
2-5. 補足:記事作成時直近の四半期決算
2020年10月~12月の内容をまとめた四半期決算を見てみると(PTCは9月決算)、2019年の同期間よりも売上高は増加しています。
一方で、2020年は法人税等の引当金がかなり大きくなり、純利益は2019年よりも減少しました。
また、特に新規や顧客拡大に関してAR関連の成長が大きく、コロナの感染拡大による需要増加の影響も出ているようです。
3. まとめ
クロとしては、ピー・ティー・シー(PTC Inc)は「現時点では収益性が低いが、今後に期待したい」銘柄です。
2020年に大きく増収増益したとはいえ、まだROE・ROAが平均より低く、効率的に収益を得ているとは言えない状況です。
しかし、ライセンス契約の移行がひと段落ついたことや、Onshape買収によるフルクラウド3D CADサービスなど製品設計・データ管理をますます強化していること、コロナ感染拡大による社会の変化とテレワークサポートがマッチしていることなどから、今後更に売上を拡大する可能性は十分にあると考えられます。
また、2020年の収益と費用の関係を見ると、売上が伸びれば収益を大きく増加させられる性質がありそうなので、今後収益性が改善されるのではないかと期待しています。
資産の面でも、ある程度の流動性が確保されているため、すぐに大きな問題が起こることはなさそうです。
今回の記事はPTC Incの決算書及び四半期決算、コーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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