パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies Inc. / PLTR)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Palantir Technologies Inc.(PLTR)について
1-1. 業種
電子・情報テクノロジー、ソフトウェア、AI
1-2. 事業の概要
パランティア・テクノロジーズは、ビッグデータ分析のソフトウェア、プラットフォームを提供する企業です。
独自のAI技術によって、写真やレポートなどの膨大で不揃いなデータであっても統合・解析し、パターンや傾向を見つけることができます。
パランティアの商品には、パターンの識別に特化した、主に防衛・諜報機関向けの”Gotham”、データの統合・分析に特化した、主に民間向けの”Foundry”の2つのプラットフォームがあり、それぞれ単独での使用はもちろん、統合して使用することも可能です。
更に2021年には、ソフトウェアの安全かつ迅速な配信・更新・運用管理のための、クラウドに依存しないプラットフォーム”Apollo”を提供し始めました。
また、”データ収集や販売は行っておらず、顧客の既に持っているデータを統合し分析するプラットフォームを提供する”と宣言している点、”パランティアのソフトウェアはアメリカ、ヨーロッパ及び同盟国のために使用される”としており、敵対国への提供は行わないと明言している点も特徴です。
顧客は政府や非営利団体、大企業が多く、2021年の売上の58%が政府関連によるものです。
2021年の1社あたりの平均収益額は650万ドルで、昨年の790万ドルから減少していますが、一方で上位20社による過去12ヶ月間の平均収益額は4,360万ドルとなり(昨年は3,320万ドル)、既存の大口顧客による売上が更に大きくなったことを示しています。
なお、国防のイメージが強いパランティアですが、営利企業・団体の顧客でも、石油企業のコスト削減、製造工場の品質管理向上・効率化などの実績を上げています。
ただ、一部の顧客(コカ・コーラやナスダックなど)はパランティアの使用を途中でとりやめました。
1-2-1. 国防・諜報機関での活用について
パランティアの商品は現在も国防・国家安全保障において活用されていますが、初めての顧客はCIAで、ウサマ・ビンラディン氏の所在地を突き止めたのはパランティアだとも言われています。(ウサマ・ビンラディン氏をパランティアが見つけたという証拠はなく、あくまで噂)
次第にアメリカの各地の警察や司法機関にもパランティアの商品は広まり、データ分析によって、再犯率の高い人物の推測や重点的に警備すべきエリアの特定が行われるようになりました。
パランティアは”個人のプライバシーを保ちつつ、テロを防ぎ命を救えるソフトウェアを作る”といった趣旨で生まれた企業ですが、現在もCIAと取引があることや、様々な個人情報を扱う事業の性質上、一部の人々は不信感を持っており、度々それらが報道されることがあります。
1-3. チャート
パランティア・テクノロジーズの株価チャートはこのようになっています。2020年10月のIPOから1ヶ月程経過すると株価が上昇しはじめ、一時は30ドルを超えていました。
しばらくは上下しつつも大きな価格変動はありませんでしたが、2021年11月から下落し始め、先日の決算発表で更に株価は下がっています。(2022年2月28日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 株式報酬によって自己資本増加
- 赤字だが営業活動キャッシュフローがプラス収支に
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約434%、当座比率は約411%で、短期の資金繰りに問題はありません。
固定比率も約17%と優秀な数値です。
2-1-2. 資本の比率
IPOしたばかりだった昨年から更に上昇し、自己資本比率は71%と高い数値になっています。
これは、株式報酬やストックオプション行使といった理由で株式を発行しているためです。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
今年は事業の赤字が減少し、株式報酬の戻入れが大きいことによって(昨年よりは減少したが)、営業活動がプラス収支になりました。
投資活動では主に売買・満期保有目的の有価証券購入を行っています。
財務活動では借入金の返済などを行っていますが、ストックオプション行使による株式発行でプラス収支となりました。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りは問題ありません。
株式報酬で自己資本が増加しているのは一概に良いとは言えませんが(株式価値の希薄化が懸念されるため)この株式報酬が営業活動によるキャッシュフローのプラス収支に繋がりました。
事業を行う上で、現金の支出を収入が上回った点は良い傾向だと言えます。
2-2. 収益性
- 赤字のため、ROE・ROAともにマイナス
- 損失額減少・資産増加でマイナス値縮小
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
赤字のため、ROEはマイナスです。
2020年のIPOによって自己資本が増加し、ROEのマイナス値がかなり小さくなりました。
2021年のマイナス値減少は、株式報酬による自己資本増加、純損失の減少の両方を反映しています。
なお純損失は2020年に飛び抜けて大きく(1,166百万ドル)、2021年は520百万ドル、2018~2019年は580百万ドル程度です。
※2019年は転換優先株式を自己資本に含めて計算。それを省くと債務超過。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
総資産は増加の一途を辿っているので、ROEとは少々違う推移となっています。
2-2-3. 項目まとめ
損失が大きく、現在は利益を出せていません。
2021年に赤字を削減できましたが、これが続くかどうかが重要となりそうです。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は今の2倍は欲しい
- 棚卸資産はなし
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は最低ラインの半分程度です。
固定資産は昨年より若干減少し、売上が増加したこともあって、固定資産回転率の約1.5回の上昇に繋がりました。
棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
売上は増加を続けていますが、総資産から見るとまだ足りない状況です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は増加を続けるも直近は失速気味
- コスト削減で営業損失は65%減少
- 売上高研究開発費率は平均の約5倍
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は増加を続けています。
ただ、2021年は前年比41%の伸び率となり、昨年の47%という実績を下回りました。
上半期を見た際は前年同期比49%増加していたため、下半期で失速したことが伺えます。
また、売上増加額449.22百万ドルのうち、279.2百万ドルは既存顧客からのものでした。
2021年は営業損失をかなり大きく削減(前年比65%減少)できました。
粗利率は2020年の68%から78%へ大きく上昇しており、営業費用も株式報酬の減少などによって削減されています。
なお、non-GAAPでは営業利益が出ており(ほとんどが株式報酬に関する調整)、2020年は約190百万ドル、2021年は約473百万ドルとなっています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約1,541.89百万ドル、研究開発費は約387.49百万ドルだったので、売上高研究開発費率は25.1%で、平均の約5倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は5.2%とされている)
比率で見ると、昨年の約半分に圧縮されました。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上は少々失速気味ですが、粗利率や営業損失は改善傾向にあります。
ただ、ガイダンスでは”2025年まで売上成長率30%以上をキープする”という目標や、2022年通年でのnon-GAAP営業利益率を27%とする予測が出されていますが、このいずれも2021年の実績を下回るものです。(2021年は売上成長41%、non-GAAP営業利益率31%)
売上高が大きくなるにつれて成長率が鈍化するのはある程度仕方ないですが、営業利益率が低下する予測であるという点は気になります。
株式報酬の大きさにも左右されるnon-GAAP指標ではありますが、今後どうなっていくのか注視したい内容です。
3. まとめ
クロとしては、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)は一旦購入を見送りたい銘柄です。
粗利率の改善や営業費用の削減、売上高研究開発費率の大幅な低下などから、事業の黒字化を目指していくのかとも思いましたが、ガイダンスの営業利益率低下が気になります。
2021年の改善の主な要因は、収益構造の改善を行ったというより、2020年のIPOに伴った一時的な支出がなくなったことだと考えた方が良さそうです。
新商品Apolloは気になりますが、売上の内訳(上位20社の平均収益増加や既存顧客の売上増加)を見ると一部の顧客への依存度が高まっているようなので、もうしばらく様子を見たいと思います。
今回の記事はPalantir Technologies Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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