オクタ(Okta Inc / OKTA)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2022年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Okta Inc(OKTA)について
1-1. 業種
SaaS、電子テクノロジー、セキュリティ
1-2. 事業の概要
オクタは、アイデンティティ(ID)の安全な管理プラットフォームを提供する企業です。
近年、会計や人事、社内チャットや会議など、多くのソフトウェアがクラウド上でサービスとして提供(SaaS)されるようになりました。
ソフトウェアを導入する企業からすれば一括で買い上げて導入するより初期費用が安く済みますし、ソフトウェアの販売者側も、長期的な収入・関係構築を期待できます。
しかしそれに伴い、IDやパスワードの使いまわしや、簡単に予測できる内容(123456など)が設定されるなど、セキュリティ面での問題が生じています。
特に、クラウド上にデータを保管することが増えている今、この問題は大きなものでした。
これらを解決したのがオクタです。
オクタの提供する、信頼性・拡張性に優れた、IDやパスワードを一元管理できるクラウドプラットフォーム”Okta Identity Cloud”を使用することで、ユーザーは安心してサービスやソフトウェアに接続することができます。
シングルサインオン(SSO / 一度認証・ログインすれば、以降は紐付けられた複数のシステム、ソフトウェアを認証なしで利用できる仕組みやサービス)をはじめ、多要素認証、APIアクセス管理など、幅広いサービスを提供しており、ユーザーの利便性と、企業にとって重要なセキュリティの信頼度を両立しています。
また、企業の管理者は、従業員ごとのアクセス権限付与、履歴のチェックも容易になります。
オクタは主に、これらのSaaSビジネスにおける、サブスクリプション収益を売上としています。
2022年1月末時点で15,000を超える顧客が”Okta Identity Cloud”を使用しており(なお2021年1月末は10,000を超える顧客としていた)、統合済みのプロバイダーは7,000以上にのぼります。
このプロバイダーには、AWS、シスコ、クラウドストライク、Google Cloudなどをはじめとした、多様なインフラ、セキュリティ、アプリケーションが含まれます。
1-3. チャート
オクタの株価チャートはこのようになっています。
リモートワーク関連銘柄として、一時は非常に力強く上昇しましたが、次第に停滞気味となり、2021年11月頃からは下落に転じています。(2022年3月21日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は高い
…買収に伴う株式発行が大きく影響 - 事業は赤字だが、営業活動からの収入はプラス
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約245%、当座比率は約233%で、短期の資金繰りに問題はありません。
固定資産の急増に伴い固定比率は約104%となり、昨年から44ポイント上昇してしまいましたが、固定資産は純資産と固定負債でまかなえているので、ひとまずは許容範囲内です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は64%に急上昇しました。
これは主にAuth0の買収に伴って株式を発行したためです。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業は2022年度(1月締め)も赤字でしたが、繰延収益・株式報酬の戻入れなどによって営業活動の収支はプラスとなっています。
また、投資活動では有価証券の購入による支出、満期や償還による収入が大きいです。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りは問題なく、営業活動のキャッシュフローもプラスが続いています。
自己資本比率もかなり高くなりましたが、同時に買収によるのれんの計上などで固定資産が急激に膨らんでしまいました。
2-2. 収益性
- 赤字のため、ROE・ROAともにマイナス
- 資産の増加が著しく、ROE・ROAに損失の増加が上手く反映されていない
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

ROEは大きなマイナスです。
年々損失額は増加しているものの、それ以上に純資産が大きくなっているため、マイナス値は縮小しています。
特に2022年度もマイナス値がかなり小さくなりましたが、損失額は前年度比219%も増加しました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

純資産のみを分母とするROEと違い、総資産で計算するROAのマイナス値は、2022年度に大きくなっています。
2-2-3. 項目まとめ
ROE・ROAはマイナスで、損失額自体は増加しています。
まだ収益性は低い状態です。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は低い
- 米国債などの短期投資に多額の資金を投じている
- 買収によってのれん資産などが急増
2-3-1. 各回転率

2022年度も売上は増加しているものの、資本・資産の増加に伴って回転率は大きく低下しました。
短期投資に多くの資金を投じている点は変わりませんが、買収によってのれん資産が非常に大きくなりました。
2022年度末(2022年1月末)では総資産の6割近くを占める大きさです。
なお、棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
総資産から見た売上はかなり小さい状態です。
実際の事業に関係のない短期投資や、実体を持たないのれん資産などが回転率の低下に影響しています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 買収の影響もあり売上成長率は56%
- 営業損失は前年度の3倍以上に急増
- 売上高研究開発費率は36%
2-4-1. 売上高と営業利益

2022年度の売上成長率は56%で、2021年度の43%、2020年度の47%を上回りました。
なお、2022年度の売上には、買収したAuth0の売上約140百万ドルが含まれています。(これを除いて計算すると、成長率は約39%)
また、近年はサブスクリプション収益の割合が増加傾向にあり、2020年度は売上全体の94%、2021年度は95%、2022年度は96%となっています。
なお残りの数%は専門サービスとその他収益です。
年間契約額が10万ドルを超える顧客が前年度の1,950から3,100に増えた点も、サブスクリプション収益の増加に貢献していると考えられます。

2022年度の営業損失は非常に大きく増え、前年度比276%増加となりました。
買収やそれに伴う資産の償却などによって粗利率が74%から70%に低下し、更に営業費用が全体的に大きく膨らんでいます。
特に買収したAuth0の収益は粗利率が低いとされており、この点が改善するには時間がかかりそうです。
なお、事業費用が膨らんだ主な要因には、買収の影響や人員の増加が挙げられています。
2-4-2. 研究開発費
2022年度の売上高は約1,300.20百万ドル、研究開発費は約469.26百万ドルだったので、売上高研究開発費率は36.1%となり、平均の約9倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.1%とされている)
昨年度と比較すると9ポイント上昇しています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上の成長は続いており、顧客数・年間契約額が10万ドルを超える大口顧客も増えています。
しかし研究開発費をはじめとした費用の増加は著しく、2022年度の損失は売上以上に拡大しました。
一部買収に伴う一時的な費用も含まれているでしょうが、現状はまだ損失度外視で事業を拡大している段階だと考えられます。
2-5. ガイダンス
ガイダンスでは、2023年度第1Qの売上が388百万ドル~390百万ドル(前年同期比55%の成長)、通年での売上が1,780百万ドル~1,790百万ドル(前年比37%~38%の成長)と予測されています。
更に通年のnon-GAAPでの営業損失は185百万ドル~180百万ドルと見込まれています。
2022年度のnon-GAAP営業損失は74百万ドルだったため、GAAP数値からの調整内容にはよりますが、今年度の2倍以上の損失が予測されている可能性があります。
3. まとめ
クロとしては、オクタ(OKTA)の購入は見送ります。
売上の増加を続けていますが、損失が更に大きくなっている点が気になるからです。
また、売上の成長率は鈍化傾向にあります。
2023年度も売上成長率が下がり、損失が増える見込みのようなので、一旦様子を見たいと思います。
また、買収によって粗利率が低下し、のれんが急増する(場合によっては減損のリスクも高まる)など気になる点が増えました。
ただ、地域別に見ると、2022年度は米国外の売上が約2倍に急増しています。
いまだに売上の大半は米国が占めていますが、米国外での成長によって更に売上を伸ばすことも可能かもしれません。
今回の記事はOkta Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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