エヌビディア(NVIDIA Corp / NVDA)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. NVIDIA Corp(NVDA)について
1-1. 業種
半導体、電子テクノロジー、製品
1-2. 事業の概要
エヌビディアは、半導体プロセッサ”GPU”の大手開発企業(製造は委託)です。
PC向けのGPU(Graphics Processing Unitの略で主に画像処理を行う半導体チップ。PCのグラフィックボード、グラボと呼ばれる部品に設置する)”GeForce”などが有名ですが、最近はこの高速な計算処理能力を他に転用するGPUPU(詳しくは後述)に注力しています。
現在、エヌビディアのGPUはグラフィックだけでなく、AI(人工知能)のディープラーニング・計算スピードの向上や自動車の自動運転技術、また仮想通貨(暗号資産)のマイニングなどにも使用されています。
こういった用途拡大に対応し、GPUPU専用の製品やプラットフォームも提供するようになりました。
また、ゲーム市場においてもその地位は揺らいでいません。
任天堂との”任天堂switch”共同開発や、eスポーツ向けの史上最速ゲーミングディスプレイ発表など、様々な取り組みを行っています。
最近話題となっているメタバース(仮想空間)においても、VRのための高性能GPU、VR・ARの5Gストリーミングプラットフォーム(Google cloudと提携済み。VRでの直感的な3Dキャラクター制作、共同作業が可能)の提供など、積極的な展開を見せています。
1-2-1. GPUとGPUPUとは
GPUは元々3Dグラフィックスなどの画像処理のための計算を行う半導体プロセッサでした。
3Dの情報量は2Dよりも多く、それらを滑らかに表示させるには大量の要素を並列で高速計算処理する必要があります。
この並列計算を可能にしたのが、GPUに搭載された数千個ものコアです。
スマホの性能表示でよく”デュアルコア”や”クアッドコア”という表現を見かけますが、これはCPUのコアが2つ、4つという意味を表しています。
コア1つにつき1つの処理を行うことが基本なので、この搭載コア数を見るとGPUの並列処理能力の凄さがわかります。
様々な処理や制御の中枢を担うCPUのような多機能性はありませんが、計算に特化したプロセッサなのです。
この計算能力を他に転用する技術がGPUPUです。
AIの学習や、その一つである自動車の自動運転、仮想通貨のマイニングなど、これらは基本的に大量のデータの計算によって行われています。
そのため、本来の用途以外にもGPUが利用されるようになったのです。
1-3. チャート
エヌビディアの株価チャートはこのようになっています。世界的にコロナ感染拡大が起きた2020年2月頃以降は、停滞した時期もありますが右肩上がりです。
特に2021年10月頃から急激に値上がりしました。(2021年11月29日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- ひとまずの資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は59%
- 有価証券購入に多くの現金を投入
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約409%、当座比率は約356%と短期的な資金繰りには全く問題ありません。
固定比率は75%に抑えられています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は59%と良好な数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業が黒字で営業活動はプラス収支です。
一方、投資活動はメラノックス買収(高速通信インターフェースに強い半導体設計会社)や資産の購入、満期保有・売買目的の有価証券の購入、Arm買収の先行投資などによって大きなマイナス収支となりました。
財務活動は新たな債務を発行したことでプラス収支となっています。
2-1-4. 項目まとめ
買収による固定資産の増加や、新たな債務の発行によって70%あった自己資本比率は59%に低下しました。
また、今期は投資に多くの現金を投じたためキャッシュフローもあまり良いバランスではないですが、事業は安定して黒字となっており、資産の流動性も十分あるのでたちまち資金繰りに困ることは無いと考えられます。
2-2. 収益性
- ROE・ROAともに平均超え
- 2020年1月期は一時的に売上・利益減少
- もしArm買収が実現すれば更に資産が増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年1月期はゲーム用GPUの売上減少に伴い売上・利益が減少し、ROEも低下していました。
しかし2021年1月期にはゲームコンソールSOCの売上成長やメラノックス買収の影響もあり、増収増益となっています。
なお2021年1月期は自己資本額も約46億9,000万ドル(前年比38%)増加した中での数値です。
いずれの年も米国平均を上回るROEを出しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEに近い変動をしていますが、2021年1月期は前年より数値が下がっています。
これは主に買収によって総資産が大きく増加したためです。
こちらも米国平均とされる6~8%の約2倍の数値です。
2-2-3. 項目まとめ
2020年1月期に一度売上・利益が減少していますが、その後再び売上は増加しています。
また、自己資本比率が高い中でもROE・ROA共に米国平均を大きく上回っており、収益性は高いです。
ただ、もしArm買収が実現すれば資産が一気に増加すると考えられるため、利益も同様に上乗せされない場合、ROAは更に低下するかもしれません。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインの半分を超える程度
- 売上に直接関係しない有価証券を多く保有
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は最低ラインの半分程度です。
事業に直接関係しない満期保有・売却が目的の有価証券を多く保有している他、買収によって発生した”のれん”もあり、総資本から見る売上は少々物足りません。
また、製造は委託しているものの在庫として計上されるものはあり、この回転率は製造業と考えた場合、平均的な数値です。
2-3-2. 項目まとめ
回転率はあまり高くありません。
ただ、事業に直接関係のない有価証券を除くと総資本回転率は0.9回となり、許容範囲内の数値になります。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年1月期に売上が減少
- 今期は前年比53%の売上成長
- 営業利益も59%増加
- 記事作成時点の最新決算でも成長継続中
- 売上高研究開発費率は平均の6.7倍
2-4-1. 売上高と営業利益
2020年1月期の売上減少は、ゲーム用GPUの売上が減ったことに影響されたものです。
一方2021年1月期は前年比53%という大きな売上の伸びを記録しました。
2021年1月期のこの成長は、ゲームコンソールSOCの売上増加、データセンター向けの製品の好調な伸び、メラノックスの買収などが影響しています。
また、記事作成時点での最新決算である2022年第3Q(2021年8月~10月)の決算を見ると売上は更に増加しており、2月~10月の9ヶ月間では前年同期比65%の成長を見せています。
営業利益も概ね売上と同様に増減しており、2021年1月期は前年比59%増加しています。
メラノックス買収もあった期ですが、粗利率はほぼ変わらず、売上高営業利益率は26%から27%に若干上昇しました。
ちなみに売上同様に2021年2月~10月の9ヶ月間を見ると、営業利益は前年同期比で134%増加しています。
2-4-2. 研究開発費
2021年1月期の売上高は約16,675百万ドル、研究開発費は約3,924百万ドルだったので、売上高研究開発費率は23.5%で、平均の約6.7倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は3.5%とされている)
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2020年1月期の売上減少が気になりますが、その後の売上の伸びは強いです。
また、コロナ感染拡大を経て社会のIT化が加速した現在、半導体プロセッサ及びそのプラットフォームが必要不可欠であることを考えると、もうしばらく売上を増加させることができるのではないかと考えます。
2-5. Arm社買収
その規模の大きさや、半導体大手企業が”更に強力になる組み合わせ”から大きな話題となったArm社の買収ですが、政府・規制当局の調査が入るなど難航しています。
買収額は400億ドル相当で、既に20億ドルは現金で支払い済みです。
残りは買収完了時に100億ドルの現金と、エヌビディアの株式1億7,750万株を発行しソフトバンク(現在Arm社はソフトバンクが所有)に支払う予定となっています。
ちなみにこの発行予定の株式は契約時点で215億ドル相当でしたが、2021年11月18日時点では562億ドルもの価値となっています。
更に2022年3月締めの会計年度でArm社が特定の業績目標を達成した場合、ソフトバンクは更に追加で最大50億ドルの現金もしくは最大4,130万株のエヌビディア株を受け取る権利が発生します。
”2022年9月までに買収が完了しなかった場合は契約解除が可能”とされていますが、複数の機関が独占禁止に反する懸念を、イギリス政府は国家安全保障上の懸念を示しており、それまでに買収が完了するかはわかりません。
2-5-1. Arm社とは
Armは半導体の知的ライセンスを所有し、それを提供してライセンス料を得ている企業です。
半導体自体の製造は行わず、設計や開発に焦点を当てています。
現在ではスマートフォンや家電、自動車など、非常に多くの製品にArmの技術・チップが使用されており、この技術力とエヌビディアが買収によって統合されることは、半導体業界の大きな脅威になると見られています。
3. まとめ
クロとしては、エヌビディア(NVDA)はもうしばらくの間、展開に期待したい銘柄です。
その技術力の高さや半導体需要、そして世界的な半導体不足という状況を追い風に注目が高まっている企業です。
もうしばらく半導体の供給は需要に追い付かないという報道を見ると、供給側に優位な状況はまだ続き、この強気な成長も継続されるのではないかと考えています。
ただ、買収の行方は気になりますし、注目される理由の一つであるVRやメタバースについては”近く発売が予想されるアップル製品に採用されない見込み”だという報道が出ています。
新しいコロナの変異株”オミクロン株”の影響で市場も不安定なので、様子を見つつ分割して購入していきたいと思います。
今回の記事はNVIDIA Corpの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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