今回はナプコ・セキュリティ・テクノロジーズ(NAPCO Security Technologies, Inc / NSSC)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性※コロナ状況下
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
なお、2021年9月に、2021年6月締めの最新年次決算が発表されています。
この最新決算について分析・まとめを行った記事はこちら↓にあります。
1. ナプコ・セキュリティ・テクノロジーズ(NSSC)について
1-1. 業種
ネットワーク&通信、セキュリティ関連、建築製品
1-2. 事業の概要
ナプコ・セキュリティ・テクノロジーズは、主にセキュリティ製品を製造する大手メーカー企業です。
ドアロックやコントロールパネル、警報システムなどの製品の他、現在は通信サービスも可能なラインナップを販売し、恒常的に収入を得られる監視サービスも提供しています。
これらの商品は商業施設や住宅をはじめ、スタンフォード大学などの学校や、政府機関にも導入されています。
1-3. チャート
ナプコ・セキュリティ・テクノロジーズの株価チャートはこのようになっています。
2020年12月に代表が所持していた株の一部売却があったため、その価格に収束しているのがわかります。
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率、当座比率、固定比率は安心
- 自己資本比率も優秀
- 2020年は、過去2年間なかった長期債務が発生
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
(貸借バランスのタイプ判断については、こちら↓の記事にて紹介しています)
負債が少ないため、流動比率は約450%、当座比率は約230%あります。
固定比率も約35%と、かなり安心な数値です。
負債が返済できない状況に陥ることはほぼないと言えます。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は、約73%です。2017年から約80%前後だったため、2020年は少し下がりました。
しかし、73%も非常に良い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
本業を含む営業活動のキャッシュフローは最終的にプラスで、本業で継続的に利益を出せています。
一方で投資活動のキャッシュフローはマイナスで、詳細を見ると機械設備などへ投資されていました。また、財務のキャッシュフローはプラスでした。2020年は、昨年にはなかった固定負債が発生しているので、この借入分が反映された数値です。
営業がプラス、投資がマイナス、財務がプラスという組み合わせなので「投資&資金調達タイプ」だと言えます。
新たな資金調達と聞くと心配になりますが、本業は黒字ですし、未来のために投資も行っていることを考えると、そこまで不安になる必要もないでしょう。
(キャッシュフロー計算書を見る際のポイントや判断基準はこちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-4. 項目まとめ
全体的に不安要素が少ない結果です。
強いて言うなら、過去2018~2019年には必要なかった長期債務が、2020年は約10百万ドル発生していることが気になります。
しかし、今後の発展に向けて投資する場合は借入金が必要な場面もあるため、債務の発生が一概に悪いことだとも言えません。
現状は黒字を維持しているため、経営難からの借入ではないと判断します。
2-2. 収益性
- 2020年はコロナの影響でROE、ROA低下
- ROAは、低下後も平均程度はある
- 売上高、利益額が減少するも黒字を維持
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
黒字を維持していますが、2020年は売上高が約1.5百万ドル減少し、最終的な利益も2019年より減少してしまいました。
ROEは10%をキープする数値となり、米国の平均が16~18%と言われている中では、わりと低めの値です。
ナプコ・セキュリティ・テクノロジーズは自己資本比率が高いため、ROEが小さな数値になりやすいという影響は多少なりあるかと思います。ただ、それでも前年より悪化してしまったことには変わりありません。
また、この売上高(と利益)の減少は、コロナの影響でハード機器の売れ行きが悪化したのが主な原因と発表されています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に、2020年は前年より下がり約8%となりました。
ただ、ROAは米国の平均が6~8%程度と言われているので、2020年も平均程度の数値に踏みとどまっていることがわかります。
2-2-3. 項目まとめ
それまで上昇を続けていたROE、ROAですが、2020年はコロナ感染拡大の影響を受けて低下してしまいました。
純利益額を見ると2019年は約12.2百万ドル、2020年は約8.5百万ドルとなっており、伸び率を計算すると20%近くマイナスという結果です。
売上高や利益の減少は残念ですが、黒字を維持しています。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率、固定資産回転率は問題なし
- 在庫が多く、棚卸資産回転率が気になる
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は約1回です。1回にはギリギリ届いていませんが、そんなに気にする程の数値ではないでしょう。
なお、過去数年間はしっかりと1回を超えています。
固定資産回転率は問題ありません。
棚卸資産回転率は、製造業として考えると低い数値です。
製造業では7~10回程度が平均と言われているので、この数値は在庫を持ちすぎている可能性を示しています。
2-3-2. 項目まとめ
2020年は3つの指標全て低下してしまっていました。
また、棚卸資産回転率はずっと3.5回前後という低めの数値で落ち着いています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上・営業利益が2020年は減少
- 2015~2019年は売上・営業利益共に増加し続けていた
- 2020年も黒字はキープ
2-4-1. 売上高と営業利益
上昇し続けていた売上高ですが、2020年で下降に転じました。
営業利益も同様に、2020年は減少しています。
子会社ののれんの減損費用を計上した影響で、営業利益は売上高以上に減ってしまいました。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約101百万ドル、研究開発費は約7.3百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約7%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同規模の米国企業では5.2%程度が平均とされているので、将来の事業拡大に向けて、平均より多くの投資を行っている企業だと言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2015年から増加を続けていた売上高と営業利益が、2020年は減少しました。
コロナの影響と言われると仕方ない気もしますが、今回のパンデミックのような状況下では売上減少のリスクがある会社ということでもあります。
ただ、その中でも黒字を維持していることは「資産を減らさない」重要なことです。
過去には継続的な売上と利益の増加があるので、コロナによる不安・問題が解消された時、再び成長する可能性はあるでしょう。
2-5. 補足:2020.9四半期決算・2020ニュース
2020年第2四半期までの6ヶ月間の財務諸表を見ても、ハード機器の売上は2019年と比べて減少しています。
その一方で、セキュリティサービスの売上は増加しており、ハードの減収分をある程度カバーしています。セキュリティサービスはハードを売るよりも利益率が高く安定して収入を得られるため、この成長はプラスに評価できます。
また、12月には代表が所持していた株式を約230万株売却しました。
一時その売り出し価格まで株価が下落しましたが、現在(2021年2月26日)はそれよりも上昇しています。
3. まとめ
ここまで見てきた結果、クロとしてはナプコ・セキュリティ・テクノロジーズ(NSSC)は「成長に期待したい」株です。
棚卸資産回転率以外あまり気になる点もなく、安定性はかなり高いので、たちまち経営が立ちいかなくなることはないでしょう。
また、コロナの影響による不況から治安への不安が高まる可能性もあり、セキュリティ自体のニーズがなくなることは考えにくいです。
コロナによって減収減益となっても黒字を維持しており2020年12月までの四半期のレポートでもしっかりと利益が出ているので、このような特殊な状況下でも、ある程度の耐久度があると考えられます。(ただし2020年7~12月と2019年7~12月を比較すると減収・減益)
2020年に入って借入や増資を行っている点が気にはなりますが、これらを行わないと首が回らないような経営状況でもないので、今後のために適切に使用されるのではないかと思っています。
もう一つ念頭に置いておきたいのが「当面の間、配当金の支払いをしない」と決算書に明記されていることです。
これは配当金は望めませんが、「企業の成長に積極的に投資する」という経営判断とも取れます。
この宣言や研究開発費、サービスの売上増加から、成長の可能性有りと判断しました。
今回の記事はNAPCO Security Technologies, Incの決算書及び四半期レポート、コーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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