今回はミリアド・ジェネティクス(Myriad Genetics, Inc. / MYGN)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性※コロナ状況下
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Myriad Genetics, Inc.(MYGN)について
1-1. 業種
バイオテクノロジー、医療用品、健康&メディカル、ゲノム
1-2. 事業の概要
ミリアド・ジェネティクス(ミリアド・ジェネティックスとも呼ばれる)は、将来発症する病気のリスク診断などを提供するバイオ医薬品企業で、遺伝性乳がん・卵巣がんの分子診断検査を世界で初めて発売した企業でもあります。
遺伝性がんのリスク評価テスト、出生前検査、がん患者の腫瘍テストなど、患者や医療従事者が一人一人に最適な選択を行えるよう手助けする、様々なツールの開発・販売を行っています。
また、メンタルヘルスの分野においても、遺伝子が抗うつ薬へ与える影響を調べるGeneSightテストを提供しています。
1-3. チャート
ミリアド・ジェネティクスの株価チャートはこのようになっています。
2019年はGeneSightの保険適用によっての急騰や決算による急落などがありました。
現在はコロナ前の水準に戻ってきています。(2021年4月20日現在)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 貸借バランスはおおむね安心
- 流動比率、当座比率、自己資本比率は良好
- 固定比率も問題はない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは“おおむね安心タイプ”です。
(貸借バランスのポイントについては、こちら↓の記事で紹介しています)
2020年の流動比率は約225%、当座比率も約200%です。
短期の資金繰りは問題ありません。
また、固定比率は約120%なので、比較的安心できる数値です。
100%を超えていますが、自己資本と固定負債でカバーできているので、ひとまず心配ありません。
(貸借貸借表の各比率については、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は65%と良い数値です。
ただ、2018年から少しずつ下降傾向にあります。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは、営業活動プラス、投資活動プラス、財務活動マイナスという組み合わせです。
本業を含む営業活動がプラスとなっているのは良いポイントです。
投資活動がプラスとなっているのは、主に子会社の売却と有価証券の購入と売却・満期が相殺された結果です。
2020年のフリーキャッシュフローはプラスです。
過去数年はプラスとマイナスが交互となっており、安定はしていません。
(キャッシュフロー計算書の注目ポイントなどを、こちら↓の記事で紹介しています)
2-1-4. 項目まとめ
貸借対照表の内容は過去数年遡っても問題ありません。
ただ、現時点では十分な数値がありますが、2018年をピークに各比率が少しずつ悪化傾向にあります。
また、キャッシュフローの内容は良くも悪くもなく、現時点では安定していません。
2-2. 収益性
- 2020年はコロナ感染拡大の影響で赤字
- 売上減・コロナなどの状況変化によって資産も減少
- 2019年は買収の影響で資産増加&利益減少
- 2019年までは利益が出せていた(黒字)
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年は減収減益かつ赤字となったため、ROEもマイナスとなっています。
また、2019年は前年比114%の売上でしたが、買収に伴う費用などが膨らんで利益を圧迫したこと(純利益は2019年比で3.5%にまで落ち込んだ)、買収に伴って株式発行が行われた(自己資本が増加した)ことが原因となり、ROEは大きく低下しました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEと同様の動きをしています。
2020年の赤字は、主にコロナ感染拡大の影響で分子診断検査の需要が大きく減少したためです。
また、これによって売掛金が減少し、のれん・無形固定資産の減損、子会社の売却もあったため、2020年は資産も減少しました。
2-2-3. 項目まとめ
2019年は買収の影響で数値が悪化していますが、この時までは黒字なので、ある程度の収益性はあると言えます。
ただ、2020年はコロナ感染拡大の影響を受け、主要商品である分子診断検査の需要が落ち込み、売上が減少かつ赤字となりました。
これにはコロナによる社会情勢の変化などを鑑みた、のれん・無形固定資産の減損費用(赤字を増加させた)も影響しています。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は足りない数値
- 売上減少や買収での資産増加で数値が低下している
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は約0.5回、固定資産回転率は約0.6回、棚卸資産回転率は約22回です。
総資本から見た売上高はまだ足りない状態です。
総資本回転率、固定資産回転率は少しずつ低下してきており、コロナ感染拡大を克服した社会での数値改善に期待したいです。
2-3-2. 項目まとめ
総資本から見ると売上高が足りない状態です。
また、買収によって固定資産が増加しており、回転率が少しずつ低下しています。
コロナの影響が落ち着いて、再び検査や診断の需要が高まった時に、数値がどれだけ改善するか注視しておきたいです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年は減収減益
- コロナ感染拡大の影響で主要商品の需要が低下
- 売上高研究開発費率は平均の約2倍
2-4-1. 売上高と営業利益
売上高は少しずつ増加していましたが、2020年はコロナ感染拡大の影響で分子診断の需要が縮小し、売上減少につながりました。
2019年は買収費用によって利益が圧迫され、2020年はコロナ感染拡大によって売上減少・のれんと無形固定資産の減損費用が発生(コロナ感染拡大が社会情勢・経済に影響を与えていることによる)したことによって赤字となりました。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約639百万ドル、研究開発費は約77百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約12%です。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員数を抱えた米国企業の平均は5.2%とされているので、ミリアド・ジェネティクスは約2倍の比率で研究開発費を投じていることになります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
既に、ある程度事業を確立しているゲノム・バイオテクノロジー企業ですが、2020年はコロナの影響を受け赤字となりました。
2019年は利益がかなり少ないですが、買収を行ったり、研究開発費にも資金を割くなど将来に投資をしている企業です。コロナによる影響が落ち着けば再び成長に転じる可能性は十分にあると考えます。
2-5. 補足:2020年7月~12月
ミリアド・ジェネティクスは2021年から12月決算とするため、2020年の7月~12月の決算書も公開しています。
2020年12月末時点では総資産に大きな変化はありません。
また、売上高は300百万ドルで、2020年決算(2019年7月~2020年6月)の約640百万ドルの半分に達することができませんでした。
なお、純損失額は94百万ドルでした。(2020年決算時は約223百万ドル)
3. まとめ
クロとしては、ミリアド・ジェネティクス(Myriad Genetics, Inc.)は、コロナの影響で不調だが、再び売上拡大に転じる可能性がある銘柄だと考えます。
医療が発達し人々の寿命が延びるにつれ、がんリスクに関心のある消費者は今後も増えると考えられます。
その中でミリアド・ジェネティクスは既に事業を確立しているうえ、研究開発にもある程度資金を投じており、今後の成長に期待したい銘柄です。
ただ、2019年の買収の成果がコロナ感染拡大の影響によって判断がつかないため、今後も注視していきたいです。
子会社の売却については、そこまで大きな金額ではなかったため、あまり影響はないと考えています。
今回の記事はMyriad Genetics, Inc.の決算書及びコーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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