エバースピン・テクノロジー(Everspin Technologies,Inc. / MRAM)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
※記事作成時の最新Qを考慮
- 収益性
※記事作成時の最新Qを考慮
- 経営の効率
- 成長への期待
※市場への期待込み
それでは見ていきましょう。
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1. Everspin Technologies,Inc.(MRAM)について
1-1. 業種
半導体、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
エバースピン・テクノロジーは、MRAM(磁気抵抗メモリ)を主力として開発・製造を行う企業です。
MRAMは2006年にフリースケール・セミコンダクタが初めて商用化したとされており、その後同社からMRAM事業をスピンアウトして生まれたのがエバースピン・テクノロジーです。
スピンアウト後も新世代技術の開発を行い、MRAMの市場を牽引し続けています。
半導体ファウンドリから購入したウェーハ(半導体の材料。シリコンを薄い円板に切り出したもので、様々な加工を施された後にチップ状に切り離される)に加工・処理を施すことで、各市場に適したMRAMを提供しています。
また、顧客のニーズに合わせて設計を行うことが多く、販売サイクルには3ヶ月~18ヶ月かかる場合もあります。
なお、航空宇宙分野におけるMRAMの耐放射線基本設計技術ライセンスも取得しています。
1-2-1. MRAMとは
MRAMとは、電源を切ってもデータが保たれる”不揮発性”の半導体メモリのひとつです。
読み書きが高速で行え、耐久性が高く、消費電力も非常に小さいというメリットを持った、まさに次世代のメモリです。
容量不足が課題だとされてきましたが、各半導体メーカーが日々開発を進めており大容量化が進んでいます。
また、電力供給に依存せずにデータを保持するため、産業、医療、自動車、航空宇宙、データセンターなどでも重要な役割を果たします。
今後MRAMは、揮発性のDRAM・SRAMや、埋め込みフラッシュメモリの代替となり得ると考えられています。
現状、PCのメインメモリ(主記憶装置。アプリなどが動く作業スペースのイメージ)として使用されるDRAMやSRAMは揮発性メモリのため、電力供給がなくなるとデータが消えてしまいます。
そのため、不揮発性のHDDなどの補助記憶装置を使用し、データを保持しているのです。
もしこのDRAMやSRAMがMRAMに置き換えられれば、主記憶・補助記憶装置といった概念がなくなり、利便性の向上、予期せぬデータ消失のリスク軽減、実行速度の飛躍的向上が期待でき、データベースのシステム簡素化などにもつながります。
また、消費電力は1/100~1/1,000になるとも言われ、PCに限らず様々なIoT端末に革命が起きると期待されているのです。
また、埋め込みフラッシュメモリは不揮発性メモリですが、MRAMの読み書き速度や省エネルギー性、耐久度の高さ(書き換え可能回数が多い)には優位性があるとされます。
1-2-2. MRAMの将来性
フランスの市場調査会社Yole Developpmentが2019年に発表した”MRAM Technology and Market Trends(MRAMの技術と市場の動向)”では、MRAMの市場規模は2024年には17億8,000万ドルに達するとされており、2018年~2024年の間の成長率は年平均85%だと予測されています。
現在の市場規模がまだまだ小さいということもありますが、今後の成長に期待が持てる内容です。
参考資料:Yole Developpment MRAM Technology and Market Trends(https://www.flashmemorysummit.com/Proceedings2019/08-05-Monday/20190805_MRAMDD_Plenary_Bertolazzi.pdf)
1-3. チャート
エバースピン・テクノロジーの株価チャートはこのようになっています。長く5ドル~7ドル前後で推移していましたが、2021年11月11日の四半期決算発表を期に急上昇しました。(2021年11月22日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- ひとまずの資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は50%超え
- 2020年のキャッシュフローはイマイチだが
2021年第3Q(記事作成時点での最新決算)では改善
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約275%、当座比率は約217%と短期的な資金繰りには全く問題ありません。
固定比率は25%に抑えられており良好です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は54%と良い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
この時点の事業は赤字で営業活動がマイナス収支となっています。
ただ、最新(記事作成時点)決算となる第3Q、またその前の第2Qでは事業が黒字に転じていて、2021年9ヶ月間のトータルはプラス収支となりました。
2020年の投資活動のマイナス収支は、不動産や設備の購入によるものです。
また、財務活動は増資や従業員のストックオプション行使によってプラス収支となっています。
2-1-4. 項目まとめ
現金を多く保有しており、自己資本比率も十分高いです。
また、記事作成時点では最新となる2021年第3Qを見ると、キャッシュフローも改善しています。
安定性には問題ないでしょう。
2-2. 収益性
- 2020年までは赤字続きだが、年々損失額減少
- 2021年第2Qから黒字化
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

2020年までは赤字続きで、ROEもマイナスです。
しかしこの後、2021年第2Qから黒字に転じています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様、2020年までマイナスが続いています。
総資産の減少もあってROAの数値は多少上下していますが、純損失額は年々減少していました。
2-2-3. 項目まとめ
2020年までは赤字続きでしたが、年々損失額が減少しています。
その後、2021年第2Qから黒字となりました。
2-3. 経営の効率
- 回転率は問題なし
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は最低ラインの1回を十分超えています。
また、固定資産回転率も高めで、棚卸資産に関しては少々仕掛品が多いものの、特別悪い数値ではありません。
2-3-2. 項目まとめ
資産を問題なく効率的に利用できています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 長期的に見ると売上は上下している
- 2021年の売上は好調
- 営業損失は年々減少
- 2019年に企業再編を行っている
- 売上高研究開発費率は平均の3倍以上
2-4-1. 売上高と営業利益

売上は上下しており、一貫した増収とはなっていません。
2019年の売上減少は一部顧客を失ったためだとされています。
一方、2020年は新製品の販売量が増え、売上は再び増加しました。
この年は売上の大半を占める製品販売が増加したのに対し、ライセンス収益は減少しています。
なお地域別では、APAC(アジア太平洋)での売上が増加し、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)での売上が減少しました。
ちなみに記事作成時点の最新決算である2021年第3Qまでの9ヶ月間を見ると、特許の売却、米国政府とのRAD-Hard契約(技術・設計ライセンス、開発の下請け)によってライセンス収益が著しく(成長率は400%超え)増加しています。
このライセンス収益は変動性が高く、今後も同じ額が見込めるとは限りません。

営業損失は年々減少しています。
特に2020年は共同開発契約に関する費用の減少や、2019年に行った企業再編による人員削減によって、研究開発費、一般管理費、マーケティング費用など全体的に小さくなっています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約42.03百万ドル、研究開発費は約10.90百万ドルだったので、売上高研究開発費率は25.9%で、平均の約3.3倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は7.8%とされている)
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
MRAMの市場拡大に合わせて製品供給ができれば、成長の可能性はあると考えます。
年単位で見ると売上の伸びはあまりないように見えますが、2021年の直近の四半期決算(記事作成時点の最新は第3Q)では毎期売上を伸ばしています。
ただ、その売上成長の大きな要因であるライセンス収益は、エバースピン自身も”変動性の高い収益項目”だとしているので、今後も同様に売上に貢献するかは少々不安でもあります。
第3Qでは製品売上も増えているので、この製品需要に期待したいです。
3. まとめ
クロとしては、エバースピン・テクノロジー(MRAM)はMRAMの今後の市場拡大に期待して少量購入しておこうと思います。
直近の四半期(記事作成時点。2021年第3Q)の売上成長が著しいですが、特許の売却などの影響もあるため、純粋な製品販売はそれほど伸びていません。(2021年の終了した9ヶ月間で前年同期比4%の成長。ただし第3Qに限って比較すると26%成長)
ただ、MRAM自体の市場がまだまだ小さいため、今後もっと需要が高まれば、技術力の確かなエバースピンが成長する可能性はあると考えています。
第2Q、第3Q連続黒字という点は評価したいですが、更なる成長は市場次第という面もあり、リスクは高い銘柄です。
今回の記事はEverspin Technologies,Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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