マクサー【MAXR】銘柄分析_世界最高峰の衛星画像を提供

米国株の年次決算書・銘柄分析
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今回はマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies, Inc. / MAXR)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。

  • 安定性(資金繰り)
  • 収益性
  • 経営の効率
  • 成長への期待

それでは見ていきましょう。

1. マクサー・テクノロジーズ(MAXR)について

1-1. 業種

ネットワーク&通信、航空宇宙、電子テクノロジー、防衛

1-2. 事業の概要

マクサー・テクノロジーズは、人工衛星の製造や衛星からの写真・地図データのサービス、ブロードバンドネットワークの提供などを行っている企業です。

現在も宇宙で稼働中の、商用地球観測衛星WorldViewは非常に高性能で、商用利用できるものの中では最高峰と言われる高解像度の画像データを地球に届けています。
この画像データの精度の高さは日本でも評価されており、トヨタの自動運転技術への提供を行ったりもしています。

また、NASAのアルテミス計画への参加も発表されました。

1-3. チャート

マクサー・テクノロジーズの株価チャートはこのようになっています。
2018年12月末にWorldView-4が故障したことを受けて、当時下降中だった株価はさらに下がりました。
しかし2020年夏頃からはかなり上昇してきています。

2. 決算書(10-K)の分析

2-1. 経営の安全性(資金繰り)

  • 流動比率・当座比率は不安
  • 固定比率、自己資本比率もあまり良くない
  • 自己資本が徐々に増加してきている
  • キャッシュフローはあまり良くない

2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

2020年決算書におけるMAXR貸借バランス

(単位:百万ドル)

2020年の決算書では、流動資産よりも流動負債が多く”不安タイプ”に分類されます。
(貸借バランスのタイプ判断については、こちら↓の記事にて紹介しています)

流動比率は約70%、当座比率にすると約50%と、資金繰りが不安になる数値です。
固定比率は400%を超えています。2018年の約650%から段々と下がってきてはいますが、依然として非常に高い数値です。

(貸借貸借表の各比率については、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)

2-1-2. 資本の比率

自己資本比率約20%です。
こちらも固定比率と同じく2018年(自己資本比率13%)から徐々に改善してきていますが、まだ低い部類の数値です。

2-1-3. キャッシュフロー

2020年のキャッシュフローは、営業活動がプラス、投資活動がプラス、財務活動がマイナスでした。
合計金額で見ると営業活動の割合は18%程度しかなく、投資活動が約30%、財務活動が約50%です。

本業を含めた営業活動がプラスなのは良いことですし、2019年からフリーキャッシュフローがプラスに転じています。
また、投資活動のプラスは一部事業の売却を行ったことによるもので、財務活動の比率が大きいことには長期債務からの収入が小さかったことが影響しています。
債務の返済、社債の償還も行っており、金額が大きすぎるようにも感じますが、活動内容としては良い傾向です。
(キャッシュフロー計算書を見る際のポイントや判断基準はこちら↓の記事で詳しく紹介しています)

2-1-4. 項目まとめ

経営の安全性については、少々不安のある結果となりました。
自己資本が徐々に増えたり、フリーキャッシュフローもプラスになってきてはいるので、今後もこの調子で改善されれば多少安心できそうです。

2-2. 収益性

  • 2018年12月の衛星故障の影響が大きい
  • 2019年、2020年は最終的に利益が出ているが
    資産売却の影響が大きい

2-2-1. ROE(自己資本利益率)

MAXRのROE(自己資本利益率)推移

2018年に大きな損失が出ています。
これは高性能商用衛星WorldView-4の故障によって画像の収集に影響が出たことや、在庫や設備の価値(使用頻度の減少など)の低下などで約580百万ドル(5.8億ドル)の減損、損失が計上されたことによるものです。

2020年のROEは32%となっていますが、この年の利益はほぼ事業売却によるもので、事業自体の利益(営業利益)は2百万ドルしかありませんでした。

また2019年の利益についても、WorldView-4の故障による保険金回収183百万ドル、建物の売却による不動産売却益136百万ドルが大きく影響しています。

2-2-2. ROA(総資産利益率)

MAXRのROA(総資産利益率)推移

ROAもROE同様の上げ下げをしています。
固定負債(他人資本)が大きいため、ROEよりもかなり数値が下がっています。

2-2-3. 項目まとめ

現状はあまり期待の持てない内容です。
2019年、2020年は最終的に黒字となっていますが、保険金の受取や不動産・事業の売却による面が大きく、事業自体の収益性はあまり感じられません

2-3. 経営の効率

  • 総資本回転率、固定資産回転率は低い
  • 棚卸資産(在庫)は減損処理済みで少ない

2-3-1. 各回転率

MAXRの2020年総資本回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率

総資本回転率は低く、約0.4回です。
衛星故障以前の2017年も0.2回程度なので、元々あまり良くなかったようです。

2017年と比較し、2020年の売上は増加しており、逆に総資本は減少しています。
この総資本の減少は事業・不動産の売却や在庫・固定資産などの減損処理の影響が大きく、最終的に回転率は上がっていますが、手放しで喜べる内容ではありません。

固定資産回転率も約0.4回です。
過去~2020年にかけて何度も買収を行っており、のれんなどの固定資産が大きいことが影響しています。

棚卸資産回転率は約55回です。
非常に高い数値で、効率的な運用ができているように見えますが、ここにも減損処理が影響しています。(2018年に事業見通しが大幅減少し約66百万ドルの減損処理)
ただ、この大きな減損処理を行う前から約12回と比較的高い数値を出していました。
在庫の多くは衛星のためのものなので、受注生産など、元々在庫が増えにくい事業形態なのでしょう。

2-3-2. 項目まとめ

総資産、固定資産から見ると現時点ではあまり効率的な運用ができていません

ただ、在庫から見る回転率は良好です。
回転率が高すぎる(在庫が足りない可能性がある)ようにも見えますが、衛星という特殊な製品のため、この数値で問題はないとクロは考えます。

また、かなりの額の(2018年は前年比3分の1以下となった)在庫の減損処理をすでに終えているため、今後もし減損が発生しても問題は小さくて済むでしょう。

2-4. 成長している・していく企業か

  • 売上高は伸び悩み中
  • 営業利益も安定していない
  • 研究開発費用は抑えられている(低い)

2-4-1. 売上高と営業利益

MAXRの売上高推移

売上高は現在伸び悩んでいます
ただ、2020年は前年より増加しているので、コロナ感染拡大の影響はあまり大きくないようです

MAXRの営業利益(損失)推移

2018年に大きな損失が出ています。
これは、高性能商用衛星WorldView-4の故障、衛星事業の悪化による減損、顧客からの信用度低下による減損などが影響したものです。

2019年の利益も資産売却の影響が大きいため、黒字になったとはいえ、まだまだ楽観視はできません。

2-4-2. 研究開発費

2019年、売上高は約1,723百万ドル、研究開発費は約15百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約0.8%となります。これはかなり低い値です。
大きな損失を出した2018年(純損失1,250百万ドル)までは5%近くありましたが、現在は費用を抑えているのでしょう。

ちなみに自社での研究開発は縮小されていますが、2020年は高解像度画像を使用した3Dモデルの作成を専門とするVriconの残りの株式を購入し(元々は50%を保有)完全子会社化しています。 

2-4-3. 項目まとめ

数値からはあまり成長を感じられない内容でした。
ただ、損失をなんとか抑えようとしたり、新たな技術を買収によって取り入れようとしていることは感じられます。

2-5. 補足:ニュース


2021年1月27日、シリウスXM(Sirius XM Holdings Inc.)から「SXM-7衛星」の故障と、その損害の確認を行っていることが発表されました。
「SXM-7衛星」はマクサー・テクノロジーズが製造し、2020年12月13日、シリウスXMによって打ち上げられた衛星です。

マクサー・テクノロジーズは”2020年末の時点では予定通りに機能していた”とし、トラブルシューティングを継続していましたが、シリウスXM側は「全損」だと主張しています。

シリウスXMが故障を発表した2021年1月27日には大きな株価の変動はありませんでしたが、このSXM-7に関する未回収の売掛金は2020年12月末時点で29百万ドルあり、この回収に影響が出る可能性があります。
また、全損であることが認められれば、賠償金の問題に発展する恐れもあります。

3. まとめ

クロとしては、マクサー・テクノロジーズ(MAXR)は、現時点では一旦様子見したい銘柄です。

自己資本比率を高めようとしたり、新たな技術を取り入れようとしたりといった改善の姿勢・立て直しの努力はありますし、長期債務の減少も数字に表れています。

しかし、衛星事業が不調というのは決算書内でも述べられており、2019年、2020年の利益が連続して本業からのものでないことが気になります
資産の流動性も低く、現状はあまり資金繰りに余裕がなさそうです。
さらに売掛金の回収が脅かされる「SXM-7衛星」の故障というニュースもあるので、現時点では”成長への期待”よりも”リスク”が大きいと判断しました。

ただ、現在(2021年3月21日時点)の株価自体は、WorldView-4故障前の2018年10月頃と同じくらいであり、まだまだこの企業に期待をしている投資家もいます。
特に2021年1月中旬から株価は大きく上下していますし、ARKXの影響もありそうです。
(ARKXについて、詳しくはこちら↓の記事で紹介しています)

今回の記事はMaxar Technologies, Inc.の決算書及びコーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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