今回はイーストマン・コダック(Eastman Kodak Company / KODK)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Eastman Kodak Company(KODK)について
1-1. 業種
電子テクノロジー、機械、印刷・プリント、化学原料
1-2. 事業の概要
イーストマン・コダックは、かつて富士フイルムとシェアを二分していたフィルム・カメラの大手メーカーです。
デジタル化の波に乗り遅れ2012年に一度破産しましたが2013年に再び上場しました。
現在は、従来の印刷、デジタル印刷、先端材料と化学品(工業用製品や映画フィルムなど)、ブランド(サードパーティへのライセンス供与を含む)の4つの事業を主軸としています。
他にも写真の無断使用をAIで追跡しカメラマンの著作権を守るプラットフォーム”KodakOne”や、そのライセンス支払いに用いられる独自の仮想通貨”KodakCoin”、更に政府からの融資を受けた医薬品分野への進出(コダック・ファーマシューティカルズ立ち上げ)などが発表されたこともありますが、これらは事実上ほぼストップしています。
特にコダック・ファーマシューティカルズの一件は、株価の急騰・暴落を起こしました。
1-3. チャート
イーストマン・コダックの株価チャートはこのようになっています。
2020年7月、医薬品分野進出への7億6500万ドルの融資が報じられた際に急騰していますが、その後は下落が続いています。
多少の上下はあるものの、最近は4ドル前後での推移です。(2022年3月16日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は30ポイント上昇し許容範囲内の数値に
- キャッシュフローはまだ良くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは“おおむね安心タイプ”です。
流動比率は261%、当座比率は174%で、ひとまずの資金繰りには問題ありません。
固定比率は175%ですが、期限の長い固定負債と純資産で固定負債をまかなえているので、こちらも許容範囲内です。
昨年は、流動負債こそ少ないものの、固定比率が800%と非常に高くなっていましたが、今年は純資産が増加して改善されています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は36%で、十分な数値です。
昨年の6%からかなり改善しました。
この自己資本の増加は株式発行などによるものではなく、新たな年金・退職金の調整の影響です。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは営業活動マイナス、投資活動マイナス、財務活動プラスという不安な組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
2021年度は特に財務活動での資金調達(ローンによる)が大きいです。
2-1-4. 項目まとめ
キャッシュフロー計算書にはまだ不安がありますが、昨年よりかなり改善しました。
ひとまずの資金繰りには問題ないと考えられます。
2-2. 収益性
- 2021年は黒字だが事業外の要因による
- ROE・ROAともに低い
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年まで自己資本が非常に小さかったため、ROEは高く出ていました。
2019年、2021年は黒字ですが、営業利益は出ておらず、事業外の要因によって純利益が出ています。
なお、2020年は赤字、2018年は赤字かつ債務超過でした。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEと同様の動きをしています。
2-2-3. 項目まとめ
ROE、ROAともに米国平均よりかなり低い数値です。
また、事業外の要因による利益で黒字となっているものの、営業利益は出せていません。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインの半分程度
- 回転率は低下気味
2-3-1. 各回転率
売上が減少気味の中、資産が増加しており、回転率は低下傾向にあります。
総資本回転率は最低ラインとされる1回の半分程度です。
棚卸資産回転率は昨年よりわずかに上昇しましたが、それでも製造業の平均(7~10回とされる)より低いです。
2-3-2. 項目まとめ
回転率は低めで、低下傾向にあります。
総資産は増加傾向、売上は減少傾向ですが、2021年度は売上が前年を上回りました。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年は売上増加
- 営業損失の削減が続く
- 事業別に見ると赤字のものもある
- 売上高研究開発費率は平均以下で更に低下
2-4-1. 売上高と営業利益
売上高は減少が続いていましたが、2021年に前年比12%増加しました。
全ての事業の売上が増加していますが、特に大きな割合を占める(2021年度の実績では57%を占める)”従来の印刷”セグメントは前年比11%の成長率となっています。
2021年度も営業損失の削減は継続されました。
粗利率は13%から14%へ1ポイント上昇し、事業に関する費用の増加が抑えられたことが影響しています。(販売費・管理費が5百万ドル増加したものの、研究開発費が1百万ドル減少、リストラ費用が11百万ドル減少)
リストラなどによるコスト削減の成果がしっかりと出ているようですが、事業別に見ていくと、デジタル印刷、先端材料と化学品の2つはEBITDAがマイナスとなっています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約1,150百万ドル、研究開発費は約33百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約2.9%です。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員数を抱えた米国企業の平均は5.2%とされているので、コダックの売上高研究開発費率は平均以下ということになります。
なお、昨年の3.3%から若干低下しています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
昨年同様、営業損失が削減されたのは良い傾向ですが、売上はコロナ前の2019年の実績に及びませんでした。
2020年はコロナによる悪影響があったとしていたので、2021年にその前の売上に戻れなかった点は残念です。
研究開発費の比率も低下しており、起死回生のきっかけとなるものがあまり見当たらない状態です。
3. まとめ
クロとしては、イーストマン・コダック(KODK)の購入は引き続き見送りたいと思います。
2021年度は売上が増加しましたが、成長したというよりも、2020年の打撃から回復してきたといった印象です。
営業損失は着実に減少していますが、それでもまだ4,600万ドルあるため、黒字へ転換するにはまだまだ時間がかかりそうです。
今回の記事はEastman Kodak Companyの決算書及びコーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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