JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase & Co. / JPM)の決算書(10-K)分析、事業内容などをまとめました。クロの判断は以下の通りです。
なお、銀行系の決算書や規制はやや特殊なので、主に利息や全般的な収益・利益、事業ごとの伸び率に焦点を当てて見ていきます。
また、前回テーパリング実施時やその前後の業績の大まかな変化もまとめました。
- 売上は増加
- 金利上昇で利益が減少もROE・ROAは悪くない
- 貸倒引当金増加も利益を圧迫
- 投資銀行事業が好調
- 前回テーパリング前後は投資事業の伸びが無し
それでは見ていきましょう。
■2021年更新版はこちら
1. JPMorgan Chase & Co.(JPM)について
1-1. 業種
金融、銀行
1-2. 事業の概要
JPモルガン・チェースはアメリカを代表するメガバンクの一つ(正しくは持株会社)です。
銀行支店などを通じて、預金業務やローン、クレジットカード業務を行う”消費者・コミュニティバンキング事業”、”投資銀行事業”、包括的な金融ソリューションの提供を行う”商業銀行事業”、”資産運用事業”の4つを軸にしています。
また、SPACの引き受けにはあまり積極的ではありません。
1-3. チャート
JPモルガン・チェースの株価チャートはこのようになっています。上下しつつも長期的に見ると右肩上がりとなっており、特にコロナ社会からの脱却が報じられるようになってきた2020年11月頃からしばらくは強い上昇が続きました。(2021年7月4日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 売上高と利益の推移
- 全体的な売上は増加を継続
- 純利益は前年比20%減少
- 金利低下によって、金利による収益が減少
- 投資銀行事業が好調
2-1-1. 総売上高
総合的な収益(売上)は、年々増加を続けています。
2-1-2. 金利による収益
銀行の本業とも言える金利による収益ですが、2020年は減少しました。
金利の引き下げによる影響が大きく出ています。ただ、支払利息も減少したことから、差し引きした”利息による利益”では、ある程度相殺されています。(金利収益では23%減だが、同利益は5%程度の減少にとどまる)
2-1-3. 純利益
純利益も増加傾向でしたが、2020年は前年比20%の減少となりました。
2-1-4. セグメント別の売上
以下はメインの4事業の売上高の推移です。(調整前の数値のため、総売上と若干のズレあり)
消費者・コミュニティバンキング事業では、2020年はクレジットカードローンなど消費者関連の売上が減少した他、貸倒引当金を増加させた分、純利益が減少しました。
投資銀行事業は、株式・債務の引受手数料の増加や、貸し付け収益の増加も影響し、売上を大きく伸ばしました。
貸倒引当金も2019年の約10倍に増やしましたが、純利益も増加しています。
商業銀行事業や資産運用事業の売上は微増で、他の事業同様に貸倒引当金を多く計上しています。
その影響で、商業銀行事業の純利益は前年比35%減少しています。
2-1-5. 項目まとめ
投資銀行事業が最も好調で、次点で資産運用事業が売上と利益を伸ばしています。
総合的な売上は増加を続けていますが、最も大きな割合を占める消費者・コミュニティバンキング事業の業績が下がってしまいました。
また、もしもの備えと言える貸倒引当金を増やした影響もありますが、純利益が大きく減少しており、売上増加を手放しでは喜べません。
2020年はコロナ感染拡大という特殊な状況だったため、これが収束し経済活動が活発になること、金利の上昇で、業績回復することを期待したいです。
2-2. 財務状況・キャッシュフローについて
- 自身の預金、顧客の預金どちらも増加
- 投資に関する資産・負債も増加
→この資産増加で営業活動キャッシュフローがマイナス収支
2-2-1. 資産・負債・資本について
2020年は、銀行への預金、トレーディング資産(住宅ローン担保証券や政府の債務証券など)、保有有価証券などが増加し、2019年に26,874億ドルだった資産は、33,848億ドルまで増加しました。
また負債では、顧客からの預金が前年比37%増加と大きく増えた他、トレーディング負債(空売り増加による債務など)も増加し、24,260億ドル(2019年時)から31,067億ドルとなっています。
2-2-2. キャッシュフロー
2020年のキャッシュフローは、営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
営業活動によるキャッシュフローがマイナスなのは、主にトレーディング資産が増加したマイナス(キャッシュの支出)調整によるものです。
投資活動でも、有価証券の購入で大きく支出が計上されています。
財務活動は、主に預金の増加によってプラスとなりました。
2-3. 収益性
- 2020年は利益減少で収益性低下
- それでも十分な数値を出している
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年の純利益減少に伴って、ROEは約25%低下しました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROEもROAと同様の推移ですが、顧客からの預金増加などで負債が大きく増加したため、減少幅は前年比で37%と大きな結果となりました。
2-2-3. 項目まとめ・ROTCE
2020年は純利益が減少したため、ROE・ROAどちらも低下しました。
負債の増加が大きかったため、特にROAの数値低下が顕著です。
ROE・ROAは一般企業と比較するとかなり低い(良くない)結果ですが、銀行業としては十分良好な数値です。
なお、2020年のROTCE(有形自己資本利益率)は14%でした。
2-4. 2014年テーパリング前後はどうだった?
以下のテーパリング中やその前後の決算を見た結果、金融緩和が出口に向かったからといってすぐに売上・金利の収益増加にはつながっていませんでした。
また、2020年のような投資銀行事業の急激な伸びは、前回テーパリング前には起きていませんでした。
- 前回テーパリング等実施時期
- テーパリング実施示唆…2013年5月22日
- テーパリング実施期間…2014年1~10月
- 短期金利(FF金利)上昇スタート…2015年10月頃
これらの期間の収益を見ていくと、2011年の総売上972億ドル以降、2015年まで1.5%~1%未満の減収が続きました。同期間は金利による収益も減少しましたが、一部費用削減や一時的な利息以外の収入増加があり、最終的な純利益は2013年に一時的に減少しただけで、翌年にはプラスに転じています。
2-4-1. 事業別の概要
消費者・コミュニティバンキング事業の売上が2013年から2015年まで減少を続けています。
純利益は2013年まで増加を続けたものの2014年に減少し、その後しばらく2013年の利益額に戻れませんでした。
投資銀行事業、商業銀行事業は若干の上下をしつつほぼ横ばいの売上高で、2016年にはっきりとしたプラスに転じました。
一方、資産運用事業は2012年以降も売上増加をキープしていた唯一の事業ですが、2016年に一度微減しました。その後は再び増加しています。
2-4-2. 事業ごとの売上に占める割合
テーパリング実施直前の2013年の事業別売上の割合は、消費者・コミュニティバンキング事業46%、投資銀行事業34%、商業銀行事業7%、資産運用事業11%でした。
その前後も大きな割合の変化は無く、2020年のような投資銀行事業の大きな伸び(2020年は売上の約40%を占めた)はありませんでした。
※事業別の売上・利益は課税等調整前の数値による
(同時期の株価チャート変動率を金融ETFや他銘柄と比較した記事もこちら↓にあります。)
3. まとめ
クロとしては、JPモルガン・チェース(JPM)は堅調な決算に期待したい購入候補の一つだが、他銘柄と比較したいと思います。
コロナによる消費者向け事業の業績悪化は残念ですが、それでも投資銀行事業が好調で、全体的な売上が確保できたことは一つの強みです。
しかし、前回テーパリング時期の決算を見ると、金利収益が増加するには時間がかかりそうです。
2021年第1Qでも金利による収益が前年同期比で減少しています。
消費者・コミュニティバンキング事業の収益も前年同期比で6%マイナスとなっており、全体的な売上・当期純利益が増加したとはいえ、まだコロナ前と同様の運営はできていません。
また、前回のテーパリング時は株価が伸び悩んでいた点も考慮したいです。
今回の記事はJPMorgan Chase & Co.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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