ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson&Johnson 略称:J&J / JNJ)の決算書(10-K)・銘柄分析を、2021年度最新決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Johnson&Johnson(JNJ)について
1-1. 業種
健康&メディカル、医薬品、先端医療機器、消費者向け製品、ロボット
1-2. 事業の概要
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、医薬品や医療機器をはじめ、消費者向けの救急用品やベビー用品を開発・製造・販売する多国籍の超大手メーカーで、絆創膏の”バンドエイド”やコンタクトの”アキュビュー”などは、日本でもおなじみの商品ブランドの一つです。
医薬品では、抗HIV薬への長年の取り組みをはじめ様々な治療薬を提供しており、新型コロナ(COVID-19)についても、1回の接種で済むワクチンを開発し、承認を得ています。
また、2019年にコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が流行した際には、エボラ治験ワクチンの寄付を行っていました。
長年増配を続けていることでも有名で、2022年1月に発表された直近の配当も含め、59年間増配を維持しています。
医療機器の面でも幅広い取り組みを行っていますが、近年はOttavaという外科用手術ロボットの開発にも注力しており、過去にはAlphabetとの合弁会社立ち上げや複数の買収などを行っています。
ただ、2021年10月の発表では、技術開発の課題やサプライチェーンの問題によって2年の開発の遅れが生じているとされており、2022年の臨床試験という目標の達成は難しそうです。
1-3. チャート
ジョンソン・エンド・ジョンソンの株価チャートはこのようになっています。
上下も大きいですが、長期的に見ると右肩上がりの傾向です。
ただ直近一年間のみを見ると、大きく上下しつつ横ばい気味です。(2022年2月20日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動性が少々低めだが許容範囲内
- 自己資本比率はやや高め
- キャッシュフローは優秀
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”ギリギリ運用タイプ”です。
流動比率は約135%、当座比率は約97%で、少々低いですが許容範囲内という数値です。
固定比率は約164%と高いですが、純資産と固定負債でまかなえているのでひとまず問題はないでしょう。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約41%で、やや高めの数値です。
また、昨年よりも5ポイント上昇しました。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”組み合わせで、フリーキャッシュフローもプラスです。
事業で安定した利益を出しており、投資活動では有価証券の売買を、財務活動では配当や株式の買戻しを通じた株主への積極的な還元を行っています。
また、債務の借入による資金調達・返済も行っています。
2-1-4. 項目まとめ
資産の流動性が少し低めな点が気になりますが、キャッシュフローは優秀です。
また、J&JはS&Pの格付けが高いため、現時点で資金の調達に困ることはほぼないと考えられます。
2-2. 収益性
- 2021年は売上・利益増加
- ROE・ROAも平均を超える
- 利益増加の背景には、訴訟費用の減少も
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

2018年~2020年にかけて純利益が少しずつ減少していましたが、2021年は訴訟費用の減少、そして売上の伸びに伴って利益が大きく増加し、ROEも上昇しました。
近年は米国平均とされる16%~18%を大きく超えています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様の推移をしています。
また、2021年は米国平均とされる6%~8%を超える結果となりました。
2-2-3. 項目まとめ
2021年は利益が増加し、ROE・ROA共に上昇しました。
この理由としては、売上の増加以外にも訴訟費用の減少(2020年の51億ドルに対し、2021年は23億ドル)が挙げられますが、本来あまり発生するべきではないものですし、2021年の収益性は平均以上と言えるでしょう。
なお、2020年は赤字となっていたコンシューマーヘルスセグメントが、2021年には黒字に戻りました。
ただ、2019年の同セグメントの利益と比較すると37%減少しています。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対する売上高は半分程度
…売上に関係のない有価証券・買収による資産増加が影響 - 棚卸資産回転率は製造業の平均程度
- 毎年回転率は安定している
2-3-1. 各回転率

回転率は昨年と大きく変わっていません。
直接売上に関係ない投資目的の有価証券や、過去の買収による”のれん”の増加などが影響し、総資本回転率は最低ラインの半分程度です。
固定資産についても、のれんなどによって低めの回転率となっています。
棚卸資産回転率は製造業の平均程度です。
2-3-2. 項目まとめ
総資本回転率は低いですが、世界各地に拠点を持つ大企業と考えると、資産が膨れ上がるのは仕方ない部分もあります。
過去の買収や積極的な投資も、資産の増加に影響しています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年は売上・利益が大きく増加
- 訴訟費用が51億ドル→23億ドルに減少
- 売上高研究開発費率は高い
- 毎年大きく成長している企業ではない
2-4-1. 売上高と営業利益

過去数年は売上の伸びがかなり小さくなっていましたが、2021年は前年比14%近く増加しました。
コンシューマーヘルス、医薬品、医療機器という3つのセグメント全ての売上が増加(前年比)していますが、特に伸び率が大きいのは医療機器セグメント、医薬品セグメントです。
医療機器セグメントは前年比18%、医薬品セグメントは前年比13%の成長となりました。
また、2021年からは新型コロナ(COVID-19)ワクチンの売上も発生しています。

営業利益は減少傾向にありましたが、2021年は前年比38%増加しました。
これは、原価を抑えつつ売上を増加させたこと(粗利率は66%から68%に上昇)や、訴訟費用が減少したことなどによるものです。
なおこの訴訟費用は、2019年~2020年に約51億ドル、2021年は約23億ドルとされています。
また、2020年のコンシューマーヘルスセグメントは売上が増加したにもかかわらず、訴訟費用によって赤字となっていましたが、2021年は黒字に戻っています。(ただ、利益額自体は2019年と比較して37%少ない)
2-4-2. 研究開発費
売上高は約93,775百万ドル、研究開発費は約14,714百万ドルだったので、売上高研究開発費率は15.7%となります。
J&Jは14万人以上の従業員を抱える大企業ですが、最新技術の必要な医薬品・医療機器セクターということもあり、売上高の約16%分(昨年より1ポイント増加)を研究開発に投じています。
科学技術・学術政策研究所によると※11,000~4,999人の従業員規模をピークに、従業員数が増えるほど売上高研究開発費率の平均は下がる傾向にあるとされており(資料内の最大規模の数値は従業員10,000人以上の場合で3.5%)J&Jの研究開発費率は高いと言えるでしょう。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2021年は売上が大きく増加し、訴訟費用が削減されたことで利益も大幅に増えました。
2020年に新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けた医療機器セグメントが回復し、医薬品・処方薬事業が好調だとされていますが、サプライチェーンの混乱や新型コロナ再拡大による手術件数の減少はマイナス要因となっています。
これらの悪影響が落ち着けばもう少し業績が上がるかもしれませんが、毎年グングン成長を続けている企業ではありません。
2-5. 訴訟リスク
ジョンソンエンドジョンソンは、タルク製ベビーパウダーなどの訴訟問題を抱えています。
特に大きな影を落としていたタルク製ベビーパウダーに関しては、2021年10月14日に、タルク訴訟の請求権などを管理する子会社を設立し破産申請をすることで(この訴訟の責任を負う子会社を作り、その子会社の破産申請を行った)この問題に関する負債を切り離しましたが、今もなお事態は完全に収まっていません。
まず、この破産申請はまだ承認されていませんし(記事作成時点)J&Jは先日、子会社に関するこの一連の動きを報じたロイターに対し”機密文書に基づく内容だ”として差し止めを求める訴えを起こすなど、未だに論争は続いています。
また、タルクの原告委員会は”訴訟解決のために破産を利用するのは認められるべきではない”という主張をしていますし、既にアメリカとカナダでの販売を中止している同商品の、全世界での販売中止を求める声もあります。
しかしジョンソンエンドジョンソンは自社のベビーパウダーに問題があったことは認めておらず、アメリカとカナダでの販売中止に関しても”安全性に関する誤った情報の影響で売上が低迷したため、販売を中止した”というスタンスを取っています。
今後の動きに注意が必要です。
また、別件であるオピオイド訴訟に関しては、昨年(2021年)和解案が公表されており、ジョンソンエンドジョンソンは50億ドルの支払いを行うとされています。
3. まとめ
クロとしては、J&J(JNJ)は引き続き訴訟リスクが無視できない銘柄だと考えます。
子会社の設立・破産申請を行ってタルク問題に関しては解決するかと思われましたが、批判の声は未だ強いです。
安定した業績や配当などによる株主還元姿勢、手術ロボットの開発によるプラスアルファの成長への期待など、魅力的な面も大きいですが、新しい発表・報道には気を配っておきたい状況が続いています。
今回の記事はJohnson&Johnsonの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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