インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical Inc / ISRG)の決算書(10-K)・銘柄分析内容を、2021年決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
※特許切れは念頭に置きたい
それでは見ていきましょう。
1. Intuitive Surgical Inc(ISRG)について
1-1. 業種
健康&メディカル、先端医療機器、ロボット
1-2. 事業の概要
インテュイティブ・サージカルは、内視鏡手術支援ロボット”ダ・ヴィンチ・サージカル・システム(ダビンチサージカルシステム / da Vinci Surgical System)”を主力とする医療ロボットメーカーです。
このダ・ヴィンチシリーズをはじめとしたロボットシステム(他にも、肺の低侵襲生検を可能にする管腔内システム”イオン”がある)や器具の開発・製造・販売やサポートの他、クラウド対応のシミュレーション・プラットフォームなどトレーニングプログラムも提供しています。
ダ・ヴィンチ・サージカル・システムは外科医の低侵襲手術(患者の体への負担が少ない手術)を支援する医療機器で、執刀医は手術室内のコックピットで高倍率3DHD技術を用いた鮮明な術野画像を見ながら、人間以上の可動域や手振れ補正を備えた器具を使って、複雑かつ繊細な手術を行うことが可能です。
ロボットに人間以上の可動域があることにより、開腹手術などよりも傷口が小さく済んだり、出血量も少なく抑えることができるのです。
このダ・ヴィンチ・サージカル・システムは、2000年にFDAから最初の承認を受け、その後少しずつ承認手術は増加しています。
また、これらのロボット手術は、5Gが実用化されれば、患者や執刀医の移動が不要の遠隔手術が可能になると、大きく期待されている分野でもあります。
1-3. チャート
インテュイティブ・サージカルの株価チャートはこのようになっています。
7月にコロナ前の価格を超えて以降、上下しつつも上昇し続けていました。
しかし市場全体の波の影響もあって350ドル前後で停滞し、2021年末頃から下落が続いています。(2022年1月21日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りに不安はない
- 自己資本比率も非常に高い
- キャッシュフローも安定
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は508%、当座比率は397%で、資金繰りには問題ありません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約88%で、昨年から1%上昇しました。非常に高い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業は安定して黒字で、営業活動はプラス収支となっています。
投資活動のマイナス収支は、売買や満期保有を目的とした有価証券の購入に多額の資金を投じたためです。
また、財務活動のプラス額は非常に小さく、これは従業員のストックオプションに関する株式発行によるものです。
2-1-4. 項目まとめ
安定性は十分あります。
2-2. 収益性
- 2021年は回復したもののコロナ前には及ばず
- ROAは平均以上の数値
- 2020年はコロナの影響で減収減益
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

2020年はコロナ感染拡大によって手術件数が低下し、売上や利益が減少していましたが、2021年は改善しました。
米国平均値には達していますが、コロナ前よりは低い値です。
なお、インテュイティブ・サージカルは自己資本が大きいため、ROEは低く出やすくなっています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様に推移しています。
また、ROAは米国平均を超えています。
2-2-3. 項目まとめ
コロナ前の数値には戻れていませんが、2020年よりかなり回復しました。
既に米国平均を超える収益性が戻ってきているようです。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対する売上高は低いまま
…売上に関係のない有価証券などが影響 - 棚卸資産回転率は平均程度
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は0.42回で、前回同様あまり良い数値ではありません。
今年も直接売上に関係ない投資の資産(米国債や企業などの有価証券)を多く保有しており、これが影響していると考えられます。
棚卸資産回転率は、製造業と考えると平均程度の数値です。
2-3-2. 項目まとめ
投資目的の有価証券が多く、総資本回転率は高くありません。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年はコロナの影響で減収減益
- 2021年は回復2019年比でも売上・利益増加
- 売上高研究開発費率は平均の3倍近い
2-4-1. 売上高と営業利益

2020年に新型コロナ感染拡大の影響を受け減少に転じた売上高ですが、2021年は31%増加しました。

営業利益も増加に転じ、前年比では73%という大きな成長を見せました。
なお、コロナ前の2019年と比較しても32%増加しています。
粗利率を見ると、2020年の66%から約3%上昇しました。
2-4-2. 研究開発費
2021年の売上高は約5,710百万ドル、研究開発費は約671百万ドルだったので、売上高研究開発費率は11.8%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.1%とされており、研究開発費率は平均の約3倍近い数値です。
なお、2020年の13.7%から比率は低下しましたが、研究開発費自体は増加しています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
コロナ禍が落ち着くにつれて、業績は回復しました。
2019年から見ても売上・利益が増加しているため、特許切れの懸念が消え去ることはないものの、社会のコロナ克服と併せ、成長に期待が持てる内容です。
2-5. 2021年第4Qの概要
1月20日分の四半期決算まとめでも触れていますが、インテュイティブ・サージカルは2021年第4Qもアナリスト予想をクリアしました。
前年同期比で、売上は17%増加、純利益は4%増加しています。

また、ダ・ヴィンチ・サージカル・システムを用いた手術件数は、第4Qでは前年同期比19%増加、2021年通年では前年比28%増加しています。
コロナ前の2019年から2021年の複合年間成長率を見ると14%になるとしており、今後も11%~15%の成長を見込んでいます。
■手術件数や出荷台数は事前に公表された内容をまとめたこちらの記事で詳しく紹介しています。
3. まとめ
インテュイティブ・サージカル(ISRG)の業績は良い状態をキープしていますが、クロとしては、現状の株式市場の不安定さを注視すべき時期だと考えています。
また、カンファレンスコールで2022年第1Qの見通しの懸念点が示された通り、新型コロナの感染再拡大は不安要素です。
また、特許切れに関しても気になりますが、現状(記事作成時点)はまだまだシェアを大きく奪われるような状態にはなっていません。
高価な製品なので安易な買い替え(他メーカーへの乗り換え)が難しいといった点や、人体への手術に使われるという点で、技術・品質と実績が信頼できるインテュイティブが選ばれているのではないかと考えます。
今回の記事はIntuitive Surgical Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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