インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical Inc / ISRG)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待※特許切れをリスクとして考慮
それでは見ていきましょう。
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1. Intuitive Surgical Inc(ISRG)について
1-1. 業種
健康&メディカル、先端医療機器、ロボット
1-2. 事業の概要
インテュイティブ・サージカルは、内視鏡手術支援ロボット”ダ・ヴィンチ・サージカル・システム(ダビンチサージカルシステム / da Vinci Surgical System)”を主力とする医療ロボットメーカーです。
このダ・ヴィンチシリーズをはじめとしたロボットシステム(他にも、肺の低侵襲生検を可能にする管腔内システム”イオン”がある)や器具の開発・製造・販売やサポートの他、クラウド対応のシミュレーション・プラットフォームなどトレーニングプログラムも提供しています。
ダ・ヴィンチ・サージカル・システムは外科医の低侵襲手術(患者の体への負担が少ない手術)を支援する医療機器で、執刀医は手術室内のコックピットで高倍率3DHD技術を用いた鮮明な術野画像を見ながら、人間以上の可動域や手振れ補正を備えた器具を使って、複雑かつ繊細な手術を行うことが可能です。
ロボットに人間以上の可動域があることにより、開腹手術などよりも傷口が小さく済んだり、出血量も少なく抑えることができるのです。
このダ・ヴィンチ・サージカル・システムは、2000年にFDAから最初の承認を受け、その後少しずつ承認手術は増加しています。
また、これらのロボット手術は、5Gが実用化されれば、患者や執刀医の移動が不要の遠隔手術が可能になると、大きく期待されている分野でもあります。
1-3. チャート
インテュイティブ・サージカルの株価チャートはこのようになっています。2020年2月にコロナ感染拡大で下落したものの、7月にはコロナ前の価格を超え、その後急速に上昇しています。
現在は過去最高値の水準です。(2021年6月17日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りに不安はない
- 自己資本比率も非常に高い
- 近年はフリーキャッシュフローもプラス
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約670%、当座比率は約550%で、短期の資金繰りは問題ありません。
固定比率は約47%と優秀です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約87%と非常に高いです。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”組み合わせで、フリーキャッシュフローはプラスです。
投資活動では、有価証券の購入・売却(満期含む)や事業の買収を行っています。
また、財務活動においては、従業員へのストックオプションで普通株式を発行していますが、一方で株の買戻しも行っています。
2-1-4. 項目まとめ
安定性は十分です。医療ロボット市場で圧倒的なシェアを持っており、売上・利益共に安定しているので、キャッシュフローも健全です。
2-2. 収益性
- ROEは平均程度だが2020年は低下
- ROAも低下したものの2020年も平均以上をキープ
- 2020年はコロナの影響で減収減益
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2019年まで米国の平均に近いROEでしたが、2020年は低下しました。
これはコロナ感染拡大によって、多くの病院で手術が後回しになったことや製品の購入が先延ばしにされたこと(売上の減少)、更に生産性の低下や運賃の増加(費用の増加)がおき、利益が減少したことを表しています。
また、インテュイティブ・サージカルは自己資本が大きいため、ROEは低く出やすくなっています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に、2020年は低下しました。
しかしROAは2020年も米国平均以上の数値です。
2-2-3. 項目まとめ
収益性は平均~平均以上と良いのですが、2020年はコロナの影響で減収減益となりました。
また、2021年第1Qはまだ生産性が低下したままの可能性もあるとしています。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対する売上高はまだまだ低い
…売上に関係のない有価証券などが影響 - 在庫が増加を続けて棚卸資産回転率は低下中
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は0.4回で、最低ライン1回より低い数値です。
2020年は売上の減少で例年より低いものの、元々0.5回程度と低いです。
直接売上に関係ない投資の資産(米国債や企業などの有価証券)を多く持っていることが影響しています。
また、設備やプラントがあるものの固定資産回転率は約1回です。
棚卸資産は近年増加傾向にあり、2017年は13回あった回転率が、2020年は約7.2回と下がっています。
2-3-2. 項目まとめ
投資目的の有価証券が多く、総資本回転率は高くありません。
また棚卸資産が増加傾向にあり、特に2020年は完成品の在庫が前年比11%増えています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2019年までは売上・営業利益ともに増加傾向
- 2020年はコロナの影響で減収減益
- 売上高研究開発費率は平均の3倍以上
2-4-1. 売上高と営業利益
順調に増加していた売上高ですが、2020年はコロナ感染拡大の影響を受け製品購入を見送る(先延ばしにする)顧客が増え、約3%減少しました。
なお、売上高の約70%が米国からのものです。
営業利益も売上高同様に2020年は減少しましたが、売上高以上の下げ幅(約24%)です。
この要因には、コロナによる生産効率の低下や運送費の増加、旧型の過剰在庫など、費用が大きくなったことが挙げられます。
また、従業員数の増加に伴い、人件費も増加しています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約4,358百万ドル、研究開発費は約595百万ドルだったので、売上高研究開発費率は13.7%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.1%とされており、研究開発費率は平均の約3倍となります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2020年は減収減益となりましたが、それまでの伸び率は大きく、研究開発にも資金を投じていることから、成長性はある程度あると考えます。
ただ、後述する特許切れリスクを考慮しておきたいです。
2-5. 特許切れ
発売から20年以上が経ち、ダ・ヴィンチの特許の多くが期限切れとなりました。
これを受け、他の企業がロボット手術業界に参戦するため続々と開発を行っています。
元々ダ・ヴィンチシリーズは高価で、病院側は導入費用をペイできないと言われており、より安価な競合商品が表れた際はインテュイティブ・サージカル一強の時代が終わる可能性もあります。
その競合となり得る1つとして、日本のメディカロイド(川崎重工業とシスメックスの共同出資。非上場)があります。同社の”hinotori サージカルロボットシステム”は2020年12月4日から国内で販売を開始しており、既に複数回の手術に成功しています。
また、センハンス・サージカル・システムを販売するアセンサス・サージカル(ASXC)、Googleと合弁会社を立ち上げたジョンソン&ジョンソン(JNJ)も競合としてよく挙げられる企業です。
現時点(記事作成時点)ではインテュイティブ・サージカルと同等に、複数の手術へ対応(承認含む)し、国際的な市場へ販売可能な高性能の競合ロボットはなく、今後もしばらくはインテュイティブの独占状態が続きます。
しかし、実際に国内でも手術ロボットが完成したことを考えると、いずれ競争が起こる可能性は高いです。
3. まとめ
クロとしては、インテュイティブ・サージカル(ISRG)はコロナ後の巻き返しに期待したいが、特許切れのリスクは無視できないと考えます。
ダ・ヴィンチシリーズは世界中に納入されており、ロボット手術の分野で圧倒的なシェアと実績を持っていること、財務諸表も健全であること、そして5GやAI(人工知能)と組み合わせた際の可能性などから、今後の展開に期待が高まります。
ただ、2019年からの特許切れで競合が出現し始めており、シェアの低下や価格競争による利益減少はいずれ避けられないと考えるため、優良企業ではありますが、比率を抑えるか、競合の動向をチェックしておくことが必要になります。
今回の記事はIntuitive Surgical Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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