一部で逆イールドが発生し、連日景気後退への懸念が強まってきています。
今回は逆イールドとは何か、長期金利・短期金利の現状、そして逆イールドの影響をまとめていきます。
1. 逆イールドとは
逆イールドとは、短期金利が長期金利を上回る状態のことを言います。
本来は、価格変動リスクが高く資金回収までの期間が長い長期金利の方が、短期金利より高い傾向にあります。
しかし、長期金利は景気の見通しに左右されやすく、短期金利は政策金利(先日FOMCで実施が決定された利上げなど)の影響を強く受けるという特徴があり、それぞれが別々の動きをするため、時折これが逆転してしまうことがあるのです。
逆イールドが発生すると景気が後退してきた実績があるため、長期金利と短期金利の差(長短金利差)に注目が集まります。
2. 長短金利差のチャート
では実際に現在の長短金利差を見てみましょう。
2-1. 10年国債利回りと5年国債利回り
まずは10年国債利回りと5年国債利回りの比較です。
10年国債利回りから5年国債利回りを引いた数値がチャートになっています。
最近は0%を下回りマイナスに突入していることがわかります。
この組み合わせでは、既に逆イールドが発生しています。

2-2. 10年国債利回りと2年国債利回り
次のチャートは、10年国債利回りから2年国債利回りを引いたものです。
5年国債利回りよりも更に短期となる2年国債利回りとの比較で、金融市場でも注目される指標の一つです。
こちらはマイナスにはなっていませんが、約0.075%と、かなりゼロに近い数値です。

2-3. 10年国債利回りと3ヶ月債利回り
最後に見ていくのは、10年国債利回りから3ヶ月債利回りを引いた数値のチャートです。
2年国債利回りよりも更に短期の金利との比較になります。
極端な内容に見えますが、この組み合わせも金融市場で注目される指標の一つで、2019年7月のFRBによる利下げ(政策金利の引き下げ)は、この指標がマイナスとなったことが要因の一つだとされています。
この長短金利差は約1.8%で、直近1ヶ月程度は上昇傾向にあります。
逆イールドとは無縁の状態です。

3. 過去の逆イールド発生時
3-1. 逆イールド発生から景気後退までの期間
逆イールドが発生した場合、景気後退がすぐさま起きるのかというと、そうではありません。
逆イールド発生から景気後退期(リセッション)に入るまで、平均で2年前後の時間が空くとされています。
10年債と5年債、10年債と2年債、10年債と3ヶ月債の利回りを比較していったところ、過去20年程で逆イールドが発生したのは、1988年12月、1998年5月~2000年、2005年12月、2019年8月頃です。(10年債と2年債利回り比較を中心とした日付)
そしてこの期間で米国の景気が後退したとされているのは、1990年~1991年頃、2001年~2002年頃、2008年~2009年頃、新型コロナの影響があった2020年頃です。
いずれも、逆イールド発生から約2年後に景気後退期に入ったのがわかります。
3-2. 株式市場の動き
逆イールド発生から景気後退期(リセッション)に入るまでの約2年間、株価は上がる傾向にあるとされています。
実際のチャートを見ていきましょう。
ポイントは、逆イールドが発生した 1988年12月、1998年5月~2000年、2005年12月と、景気後退期とされる 1990年~1991年頃、2001年~2002年頃、2008年~2009年頃です
3-2-1. ダウ・ナスダック・S&P500指数
これは、米国市場の動きを代表する、ダウ指数、ナスダック指数、S&P500指数の変動率を表したチャートです。
ローソクチャートがS&P500指数を、そして水色がダウ指数、オレンジ色がナスダック指数を示しています。
逆イールド発生からしばらくは株価が上昇を続けており、その後下落に転じている(景気後退期へ突入)のがわかります。
また、この期間中、変動が最も大きいのはナスダック指数です。

3-2-2. 金融ETF
長短金利差が縮まると利ザヤが小さくなり、業績に良くない影響があるとされる金融系の株価はどうなっているでしょうか。
ここでは、代表的な金融系ETFの変動率をチャートに表しています。
ローソクチャートがVFH、オレンジ色がXLF、水色がIYFを示しています。
2004年頃のデータしかありませんが、2005年12月の逆イールド発生後もしばらく上昇を続けていたのがわかります。
ただ、2007年に入って数か月後にはチャートが下降し始めており、2008年頃まで上昇を続けているダウ指数、ナスダック指数、S&P500指数と比べると、下落し始めるのは早かったようです。

4. 今回の逆イールド発生
記事作成時点では、10年国債利回りと5年国債利回りでのみ逆イールドが発生していますが、10年国債利回りと2年国債利回りの差がかなりゼロに近づいている点は気になります。
一方、10年国債利回りと3ヶ月債利回りの差は2%近い数値を維持しているので、FRB(米連邦準備理事会)が対応策を打ち出さない現在の状況も、仕方がないのかもしれません。
また、逆イールド発生から景気後退期まで2年前後の期間が空くと見られることから、JPモルガンやゴールドマン・サックスも、ひとまずは株式投資の魅力が十分あるという見方をしているようです。
なお、今回はほぼゼロ金利の状況で逆イールドが発生している点も、利上げが進んだ後に発生してきた過去の逆イールドと異なります。
4-1. 金融系の直近の値動き
これは、ここ一か月間の金融系ETFの変動率のチャートです。
ローソクチャートがVFH、オレンジ色がXLF、水色がIYFを示しています。
3月に入って程なく長期金利が上昇し始めたことにより、金融セクターも上昇傾向にあります。
今回も前回同様、”逆イールド発生によってすぐさま長期的な下落が始まる”ということは、ないのかもしれません。

4-2. 今後の政策金利引き上げ
短期金利の上昇を加速させる(逆イールド化を促す)可能性もある政策金利引き上げですが、市場では5月のFOMCで0.5ポイントという大幅な引き上げ実施という予測が強まっています。
引き続きリスクヘッジを忘れずに資産運用を行っていきたいです。
5. まとめ
逆イールド発生によって、すぐさま株式市場にマイナスの影響が出るとは限らないことがわかりました。
また、今回は10年国債利回りと3ヶ月債利回りの差が十分開いていることから、2019年時のような予防的金融緩和もなく、金融引き締めが引き続き実施されそうです。
利上げが更なる逆イールド発生に繋がる可能性もあるので、今後もリスク管理を念頭に置いておきたいです。
記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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