アイデンティブ(IDENTIV INC / INVE)の決算書(10-K)分析やニュースについて、2020年末の決算書の内容を含めて更新しました。今回のクロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. アイデンティブ(INVE)について
1-1. 業種
ネットワーク&通信、セキュリティ関連、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
アイデンティブは、RFIDと呼ばれる無線周波数識別技術・装置などのID識別ソリューションとセキュリティを組み合わせた、製品・サービスを提供する企業です。
一般企業や消費者だけでなく、政府、医療、運輸の分野にも顧客がおり、幅広い場面で商品を提供しています。
1-2-1. RFIDとは
RFIDは、ICタグを用いて近距離の無線通信を可能にする製品・技術です。
バーコードと似ていますが、より離れた距離でも読み取れたり、複数のタグをまとめて読み取れたりといった、優れた特徴を持っています。
身近なものだと交通系ICカードや一部の小売店で使用されています。
GUやユニクロの無人レジを利用されたことはないでしょうか?カゴに入った商品をレジの下に入れるだけで、まとめて読み取ってくれるので非常に便利ですよね。ここにも、RFIDの技術が使われているのです。
1-3. チャート
アイデンティブの株価チャートはこのようになっています。2021年4月12日に公募増資が完了した翌日から上昇に転じ、株式市場の圧力の影響などで上下しつつも、少しずつ上がってきています。(2021年5月10日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 当座比率に若干の不安
- 固定比率・自己資本比率は問題なし
- キャッシュフローは悪化
- 決算後2021年4月に増資して改善したはず(増資以降まだ資料が出ていない)
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは不安の少ない”安定タイプ”です。
ただ、流動比率は約130%ですが、当座比率が73%(2019年から7%ダウン)しかありません。
すぐに現金化できる資産の量が少々心許ない状態です。
2019年と比較し現金同等物は増加しているのですが、コロナウイルス援助に基づく手形の締結などが発生し、現金以上に流動負債が増えたことが影響しています。
固定比率は昨年同様100%を下回っているので心配ありません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は昨年より5ポイント程度低下して44%です。低下したものの、まだ問題のない数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、昨年プラスになった営業活動が、純損失額の増加・在庫の増加の影響でマイナスに戻ってしまいました。
財務活動は借入金によってキャッシュが増加し、プラスの結果となっています。
なお、フリーキャッシュフローはマイナスです。
2-1-4. 項目まとめ
資金繰りでたちまち問題が発生することはなさそうですが、昨年より悪化してしまいました。
ただ、この決算の後、2021年4月に公募増資を行い約40百万ドル(手数料等差引前)の資金を獲得しているため、現在(執筆時)は改善していると考えられます。
2-2. 収益性
- 赤字が続いている
- 損失額は年々減少していたが、コロナの影響で再び増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

赤字が続いているため、ROEは毎年マイナスとなっています。
ここ数年は年々損失額を減少させていましたが、2020年はコロナ感染拡大での顧客の施設閉鎖などによって再び損失が増加しました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROEと同様です。
2-2-3. 項目まとめ
損失が出ているので、収益性はまだほとんどありません。減少していた損失額も、2020年はコロナ感染拡大によって再び増加しました。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率はセーフ
- 在庫増加で棚卸資産回転率が低下
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は、約1.1回で最低目標は達成できています。
固定資産回転率は約3.5回、棚卸資産回転率は約4.2回です。
固定資産回転率は前年より若干上昇(0.5回)しましたが、在庫が増加しため、棚卸資産回転率は約1回低下しました。
2-3-2. 項目まとめ
総資本回転率が1回以上あり、資産に対する売上高の最低ラインはクリアしています。
在庫が増加している理由は明言されていませんが、コロナによる一部製品の需要低下も影響していると考えられます。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は年々増加
- 2020年はコロナの影響で損失が増加
- コロナによる新たなニーズに対応した製品を発売
- 研究開発には意欲的
2-4-1. 売上高と営業利益

売上高は4年間ずっと上昇していますが、直近はコロナ感染拡大の影響もあり、伸び率が鈍化しています。

営業利益・純利益ともに出ておらず赤字状態が続いており、年々減少していた損失額も2020年は再び増加してしまいました。
コロナによる顧客施設の閉鎖、原価の増加などが主な要因です。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約87百万ドル、研究開発費は約9.8百万ドルだったので、売上高研究開発費率は11.3%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同規模の米国企業では7.8%程度が平均とされており、平均以上に研究開発に費用を投じている結果です。
なお、昨年は10.30%だったので、今年は更に比率が上がっています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2019年の決算より、成長への期待が薄い結果でした。
2020年の損失増加と売上高伸び率の鈍化はコロナの影響だとされていますが、せっかく順調に黒字に向かっていた数値が悪化したことは残念です。
また、具体的な売上高こそ出ていないものの、コロナによる”健康と安全”の新たなニーズに対応する製品(タッチレスリーダー、温度追跡タグなど)を発売しました。
市場の変化に対応しようとアクションを起こしている点には期待したいです。
3. まとめ
2020年のアイデンティブ(INVE)は、コロナによって成長が鈍化しました。
ただ、研究開発に変わらず力を入れており、コロナによる新しいニーズへ対応した商品を発売するなど、成長する施策を模索している点には期待したいです。
なお2020年決算(2021年第1Q含め)でも、いまだに赤字が続いています。
2021年4月に増資を行って資本体質は改善しているはず(資金繰りで問題が起きることはなさそう)ですが、黒字への転換はもうしばらく先になりそうです。
ちなみにこの記事を作成した際の直近四半期決算となる2021年第1四半期は、EPS・売上高共にアナリスト予想をわずかに上回りました。150万ドルの赤字ですが、売上高は前年同期比で22%増加しています。
今回の記事はIDENTIV INCの決算書及び四半期レポート、コーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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