イルミナの株価暴落は一体なぜか?【ILMN】

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2021年8月19日、イルミナ(Illumina, Inc. / ILMN)の株価が暴落しました。
この記事を書いている時点では、約50ドル(約10%)近く下落しています。
この理由をまとめました。

2022年7月13日にECの管轄権を問う判決が下されました。
この裁判・判決についてはこちらで詳しくまとめています。

2022年5月の株価急落についてはこちら

1. GRAILの買収を完了させたこと

今回のイルミナの株価下落の原因は、まさにこのGRAIL社の買収です。

イルミナは現在、Grail社の買収が”今後の競争・技術発展の妨げにならないこと”を審査されている立場でした。
それにも関わらず買収を完了させてしまったことで、市場はマイナスの反応を示しています。

1-1. 買収へのこれまでの歩み

年次決算・銘柄分析四半期決算の記事でも触れていますが、GRAIL社はバイオの力での早期の”がん発見”技術の開発に注力している企業です。

元々はイルミナからスピンオフして始まった企業で、イルミナの遺伝子テクノロジーを利用して血液からがんを早期検出するスクリーニング検査を開発しています。
この検査「Galleri test」は、一度の検査で50種類以上ものがんを調べることができるとされ、イルミナと合併することで新たなサービスとなり得る反面、”この合併は他の遺伝子検査開発企業と直接競合することになり公平性が欠ける”、”将来の競争を阻害することになる”として、連邦取引委員会(FTC)から訴訟を起こされていました。

更に7月には欧州委員会(EC)も同様の理由でイルミナへの調査を開始し、この調査は最低でも3ヶ月間はかかる見通しとなっています。

それにも関わらず、今回イルミナが買収完了の発表をしたことで、株価は大きく下落しています。

1-2. 買収の何が問題なのか

買収自体は問題が無いことなのですが、一番の懸念点は、欧州委員会の調査期間中に買収を完了させてしまったことです。

具体的には、規則違反として罰金を科される可能性が一番高いです。

実際に2018年、フランスのAltice社が”承認を得る前に買収を完了した”として約1億4,600万ドルの罰金を科せられたことがあります。
この罰金は企業の総売上の10%にも及ぶとされており、2020年のイルミナの売上から考えると3億ドルを超える罰金となることも考えられます。

報道を見ると、欧州委員会から”遺憾である”、”義務違反を深刻に捉えている”という旨の発言が出てきており、イルミナの買収は歓迎されないものであったことは明らかです。

また、欧州委員会だけでなく連邦取引委員会の訴訟も解決には至っておらず、場合によっては罰金だけでなく、買収が強制的に終了させられる可能性もあります。

1-3. なぜ買収を進めたのか

イルミナは、欧州委員会の調査に協力するとしながらも、”米国拠点の2社の取引を審査する管轄権を、欧州委員会が主張するのは前例がない。世界中の企業がEU合併規則の今後の適用について不透明な状況に置かれる”という旨の発言をしており、管轄権の無効化訴訟を起こすなど、欧州委員会の介入に疑問を呈していました。

そもそもGRAIL社はEUでの事業を行っておらず、EUの合併基準を満たしていないとされています。
そのような買収に介入されては、イルミナとしても管轄権の有無を訴えるのは妥当なようにも感じられます。

また今回、GRAIL社の買収を完了させたとはいえ、欧州委員会の審査機関中の合併はせず、別会社として保有することを明言しています。

なお、EUの裁判所がイルミナの行った管轄権の異議申し立てを審理するのは2021年後半の予定だとされており、イルミナは”最終的に裁判所が下した結論には従う”と明言してしています。
また、プレスリリース内では、GRAIL社を分離しておくことで最終的な判断に従うことができるという発言もあります。

ちなみに、買収完了(もしくは買収しないことが決定)まで、GRAIL社に対して毎月3,500万ドルの支払いが発生しており、これも買収を完了させたかった一因かもしれません。

2. 買収強行の余波

今回の買収を受け、投資銀行SVB Leerinkはイルミナを格下げしました。
目標株価は510ドルから425ドルにまで引き下げられています

また、繰り返しになってしまいますが、米国の連邦取引委員会からの訴訟自体もまだ解決していない状態です。
買収を完了させたことで差止命令の申請ができなくなったとはいえ、リスクがゼロになったわけではなく、さらに複雑な事態を招く可能性もあります。

2021年9月13日追記
8月24日にFTC(米連邦取引委員会)が”買収取り消し”を求めると発表していますが、その後の動きはまだないようです。

3. まとめ

イルミナの今回のGRAIL買収完了はとても残念なニュースでした。

買収完了自体が予想外の出来事なのでこの先どうなるかわかりませんが、クロとしては一時的にポジションを下げたいと思います。
事業自体は魅力的なのでいずれ買い戻したいですが、今はリスクが高いと判断しました。

記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

2022年7月、ECの管轄権についての裁判でイルミナの訴えが棄却された件については、こちらで詳しく紹介しています。

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