エッチ・ピー(HP Inc. / HPQ)の2021年版最新決算書(10-K)を元に、銘柄分析を更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. エッチ・ピー(HPQ)について
1-1. 業種
コンピューターハードウェア、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
HP Inc.は、PC(パーソナルコンピューター)やプリンターを提供する世界トップクラスの企業です。
元々はヒューレット・パッカード (Hewlett-Packard Company)というコンピューターや電子機器を製造する企業でしたが、2015年に分割され、HP Inc.は「PC」や「プリンター」などユーザーに近い機器を扱う企業となりました。
現在は3つのセグメントで事業を運営しており、パーソナルシステム事業ではデスクトップ・ノートPC、ディスプレイをはじめとした周辺機器、関連アクセサリやソフトウェア、小売りのPOSシステムなどを販売しています。
また印刷事業では消費者・商業用のプリンターやプリントサービスソリューション、関連する消耗品の提供を行う他、3Dプリンター・デジタルマニュファクチャリングのソリューションも取り扱っています。
そして企業投資事業では、HP Labs(研究所)の運営や投資プロジェクトを行います。
1-3. チャート
HP Inc.の株価チャートはこのようになっています。
コロナ感染拡大で株価は一気に下落しましたが、その後はコロナ前の株価以上に値上がりしました。
2021年5月から再び下げに転じたものの、最近は更に上昇しています。
(2021年12月7日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率・当座比率は不安
- 会社分割以来、債務超過状態が続いている
- フリーキャッシュフローは良好
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
純資産がマイナスで債務超過となっています。
なおこれはコロナ感染拡大による不調などではなく、2015年の会社分割によるものです。
流動比率は約76%、当座比率は約34%と低く、昨年よりさらに低下しています。
これだけを見ると資金繰りは非常に良くありません。
(1年以内に支払期限が到来する負債に対して、現金・すぐ現金化できる資産の合計が34%しかない状態)
ただ、短期的な負債の内訳の多くは買掛金で、銀行などからの借金ではありません。
2-1-2. 資本の比率
債務超過のため割愛します。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは、営業活動プラス、投資活動マイナス、財務活動マイナスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローもプラスです。
事業から安定した利益を出しており営業活動はプラス収支、事業買収(Kingston Technologyのゲーミング部門、リモートコンピューティングを提供するTeradiciなど)などで投資活動はマイナス収支となっています。
また、財務活動では今年も自社株の買戻しが行われ、昨年(2020年10月期)の約2倍の金額を投入しています。
2-1-4. 項目まとめ
債務超過状態かつ資産の流動性も非常に低い結果でした。
しかしキャッシュフローを見てみると、事業から多くのキャッシュを生み出せており、安定性が極端に低いということは無いようです。
ただ、万が一商品が売れなくなると支払がたちまち滞る可能性があります。
2-2. 収益性
- 2021年は売上増加・利率上昇で利益も増えた
- オラクルの訴訟収益もありROAは平均の2倍
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
債務超過状態のため割愛します。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
今年は米国平均の2倍以上の数値となっています。
これは売上が増加したことと、オラクルとの訴訟(2011年、オラクルがItanium向けソフトウェア開発を中止したことに対する訴訟が今年決着した)に関する利益17億7,100万ドルが計上されたことが大きな要因となっています。
なお、2020年はコロナ感染拡大によって悪影響を受けており、2018年の高いROAは税務上の利益が発生したためです。
2-2-3. 項目まとめ
売上が増加し、事業からの利益も増えています。
また、今期はそれ以上にオラクルとの訴訟に関する収益が発生し、ROAは非常に高い結果となりました。
なお、この訴訟収益を差し引いて概算するとROAは約12%です。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は十分
- 棚卸資産回転率は低下したが十分
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は十分な数値です。
一方、在庫が増加したため棚卸資産回転率は低下しました。
2-3-2. 項目まとめ
全体的に見ると、比較的効率が良さそうです。
在庫が増えて棚卸資産回転率が低下していますが、製造業として考えた場合は平均程度を維持しています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高・営業利益は増加
- 売上高研究開発費率は平均より低め
2-4-1. 売上高と営業利益
2021年10月期は、売上が前年比12%増加しました。
コロナ感染拡大の影響が続いていることもあってか、デスクトップPCの需要が減り(前年比4%減)、ノートPCの売上が前年比18%増加と大きく伸びています。
また、印刷事業全体では前年比14%の売上増加となりました。
なお企業投資事業では、他事業と比べると少額の赤字が発生しています。
今年は営業利益も前年比53%増加と大きく増えています。
売上高が増加し、更に粗利率は18%から21%へ、売上高営業利益率は6%から8%へ上昇しています。
また、リストラ費用は昨年よりも減少しました。
2-4-2. 研究開発費
2021年10月期の売上高は約63,487百万ドル、研究開発費は約1,907百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約3%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員数1万人以上の大きな米国企業では3.5%程度が平均とされており、この数値と比較すると低めの比率となります。(ただし2020年10月時点のHP Inc.の従業員数は約53,000人)
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
ここ数年の売上・利益の停滞と減少を経て、今年は再び増加に転じました。
また、粗利や営業利益といった利益率が上昇しています。
利益率上昇は喜ばしいですが、数年前まで伸び悩んでいたこともあるので、今後継続的に成長していくかという点については少々不安です。
3. まとめ
クロ個人としては、エッチ・ピー(HP Inc.)の購入は見送ろうと思います。
今年はプリンター関連の売上も伸び返し良い決算内容だったと思いますが、四半期ごとに見るとパーソナルシステム事業、印刷事業それぞれが前年同期比でほぼ変化のない期もあり、今後も継続的に成長していくか少々疑問を感じるからです。
また、キャッシュフローが良くほぼ問題ないのでしょうが、当座比率の低さは個人的に気になってしまいます。
今回の記事はHP Inc.の決算書及び四半期決算、コーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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