ファストリー【FSLY】銘柄分析_動的コンテンツにも対応した高速CDNを提供

米国株の年次決算書・銘柄分析
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ファストリー(Fastly, Inc. / FSLY)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。

  • 安定性(資金繰り)
  • 収益性
  • 経営の効率
  • 成長への期待

それでは見ていきましょう。

1. Fastly, Inc.(FSLY)について

1-1. 業種

電子・情報テクノロジー、サービス、ネットワーク&通信

1-2. 事業の概要

ファストリーは、エッジコンピューティングを用いた”エッジクラウドプラットフォーム”を従量課金制で提供する企業で、現在の主軸はCDN事業です。

エッジコンピューティングとは、あらかじめサーバーを分散配置しておき、ユーザーの端末に近い(エッジ)サーバーでデータ処理などを行う技術のことで、ネットワーク負荷軽減、通信の遅延の抑制・効率化、セキュリティ強化につながります。

ファストリーは世界中にキャッシュサーバーを展開しており、キャッシュの更新速度が速く、動的コンテンツもキャッシュ可能という強みを持っています。
他にも、エッジがプログラミング可能(柔軟性がある)、Google cloudなどと提携したリアルタイムのパフォーマンス分析が行えるといった特徴があり、容量も”145 Tbpsを超える”としています。

1-2-1. エッジコンピューティング/CDNとは?

通常のクラウドサービスでは、各端末が直接クラウドに接続し、データ処理・分析などをクラウドで一括して行っていました。
しかしこれでは、クラウドとネットワークの負荷が大きくなる、毎回クラウドと通信するため遅延が発生するなどの問題が発生します。
そこで注目されたのがエッジコンピューティングです。

クラウドと端末の間にエッジサーバーを挟み、端末に近いエッジサーバーで処理を行う(IoTなどでは端末自身で処理を行う場合もあるが)ことで、クラウドと毎回通信する必要が無くなります。
これによって、ネットワークの負荷軽減や遅延の抑制、セキュリティの強化につながります

このエッジコンピューティングの一つとも言えるのがCDN(Content Delivery Network)で、今のファストリーの主軸事業です。
CDNとは、webコンテンツのデータを、世界中にある”キャッシュサーバー”に一時的に複製し、オリジナルデータの保管される”オリジンサーバー”の負荷軽減・分散、コンテンツ配信の高速化と効率化を実現する技術です。

この場合、オリジンサーバーが前述のクラウド、キャッシュサーバーがエッジサーバーと言えます。

例えば、日本からアメリカのweb新聞記事を閲覧する場合、アメリカにあるデータを読み込むより、日本にあるキャッシュサーバーに一時保存されたデータを読み込むことで、より速く効率的な閲覧が可能になります。
また、注目度の高い記事など一気にアクセスが集中してしまうような場合も、キャッシュサーバーにアクセスを分散させることで、オリジンサーバーの負荷がなくなります。

1-3. チャート

ファストリーの株価チャートはこのようになっています。2019年のIPO後、特別大きな上昇は無かったものの、コロナ感染拡大を受けて2020年5月頃から大きく上昇しました。
しかし、大手顧客だったTikTokからの売上が減少したことなどで見通しが悪化し、決算やガイダンスの発表タイミングで大きな下落が起きています。(2021年8月25日時点)

2. 決算書(10-K)の分析

2-1. 経営の安全性(資金繰り)

  • 短期の資金繰りは問題なし
  • 自己資本比率は高い
  • キャッシュフローは良くない

2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

2020年決算書におけるFSLY貸借バランス

(単位:百万ドル)

貸借バランスは”安定タイプ”です。

流動比率は約280%、当座比率は約240%で、短期の資金繰りに問題はありません。
固定比率も約90%で問題ない数値です。

2-1-2. 資本の比率

IPOからあまり時間が経っていないこともあり、自己資本比率は87%で非常に高い数値です。

2-1-3. キャッシュフロー

2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。

事業の赤字が拡大中で営業活動はマイナスです。
また、有価証券の購入と、セキュリティ強化のためのSignal Sciences社買収で、投資活動の収支は大きなマイナスとなっています。
財務活動は、株式の追加公募を行ったことでプラス収支です。

2-1-4. 項目まとめ

ひとまずの資金繰りは問題ありません。
ですが、キャッシュフローはまだまだ良くない状態です。

2-2. 収益性

  • 赤字のため、ROE・ROAともにマイナス
  • 赤字額は増えているが、資産も増加しているので
    ROE・ROAのマイナス値は減少傾向
  • 売上以上の割合で費用が増加

2-2-1. ROE(自己資本利益率)

FSLYのROE(自己資本利益率)推移【2020年】

ROEは大きなマイナスです。
マイナス値が減少傾向にありますが、これはIPOや増資によって自己資本が増えたためで、損失額は増加しています。

2-2-2. ROA(総資産利益率)

FSLYのROA(総資産利益率)推移【2020年】

ROAもROE同様の上下をしています。

2-2-3. 項目まとめ

資産・損失のどちらも増加しています。
売上以上の割合で費用が増えており、収益性はまだほとんどありません。
2019年から2020年にかけて売上は45%も伸びていましたが、2021年に入ってからは鈍化してきています。

2-3. 経営の効率

  • 総資本回転率は低い
  • 総資産の半分が買収によって生じたのれん
  • 棚卸資産はなし

2-3-1. 各回転率

FSLYの総資本回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率【2020年】

総資本回転率は0.24回と低いです。
IPOや買収によって資産が増加したため、回転率は低下傾向にあります。
固定資産回転率も同様です。

また、棚卸資産はありません。

2-3-2. 項目まとめ

総資産から見ると売上はまだまだ足りません。
特に2020年は買収によって回転率が大きく低下しました。

2-4. 成長している・していく企業か

  • 売上高は順調に増加しているが、
    記事作成時点の2021年での伸びはイマイチ
  • 2020年は営業損失が大きく増加
  • 売上高研究開発費率は25.7%

2-4-1. 売上高と営業利益

FSLYの売上高推移【2020年】

売上は大きく増加しています。
ただ、米中関係の煽りを受け、大手顧客だったTicTok(2020年の売上の12%を占めるとされる)からの売上は大きく減少したようです。

また、2021年に入ってからは売上の伸びが鈍化してきています。

FSLYの営業利益(損失)推移【2020年】

2020年の営業損失(事業の赤字)は大きく増加しています。

これは主に人員補強や買収によって人件費が増加したためで、研究開発費、マーケティング費用、管理費用など全体的に増えてしまっています。

2-4-2. 研究開発費

2020年の売上高は約290.87百万ドル、研究開発費は約74.81百万ドルだったので、売上高研究開発費率は25.7%で、平均の約6倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.4%とされている)

※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019

2-4-3. 項目まとめ

売上が増加していますが、それ以上に損失が増えています。
また、研究開発にはかなりの資金を投じています。

エッジコンピューティングのインフラ整備はまだ完全に確立された技術ではないので、多少の研究開発費用や赤字は仕方ない(競合であるクラウドフレア(NET)も赤字)とも受け取れますが、この赤字が2021年も拡大していること、一方で売上の伸びが鈍化していることは気になります。(記事作成時点で第2Qまで発表済み)

2-5. 顧客数の変化

2019年末の顧客数は1,743社でしたが、2020年末は2,084社へ増加した他、2020年に買収したSignal Science社は280社の顧客を持っています。(ただし、一部はファストリーの既存顧客と重複)

また、過去12ヶ月間に10万ドル以上の売上を上げたエンタープライズ顧客は、2020年末時点で324社あり、この324社は売上全体の89%を占めています。
Signal Sciences社の同様のエンタープライズ顧客は78社ですが、こちらも一部ファストリーの既存顧客と重複するようです。

ちなみにクラウドフレアは有料顧客数11万以上としていますが、売上はファストリーの1.5倍程です。
ファストリーがそれだけ大口の顧客を掴んでいるということでしょう。

2-6. 2021年6月8日の障害

2021年6月8日、ソフトウェアのバグが原因で一時的に大規模な障害が発生し、ファストリーを利用するwebサイトにアクセスできなくなる問題が発生しました。

障害の発生は大手企業やメディアにも多く、ファストリーが開示している以上に有名な顧客が多いことがわかったためか、株価は下落するどころか一時上昇していました。

この障害は1時間も経たずに復旧することができましたが、これ以来Amazonや楽天などがファストリーの利用を取りやめていると言われており、従量課金制のビジネスモデルには痛手となっています。

3. まとめ

クロとしては、ファストリー(Fastly, Inc.)は様子を見て少量保有したい銘柄です。

2021年の売上の伸びの鈍化や赤字の拡大(費用の増加)、更に弱めのガイダンスで株価が下がっている(2021年8月25日時点)銘柄ですが、カスタマイズ性や高速なキャッシュ更新、動的コンテンツへの対応などの強みがあるため、需要がなくなることは無いと考えています。

また、2021年第2Qの顧客数を見ると、2020年末より増加しています。

コロナによるIT特需も落ち着きそうですし、すぐに大きな成長が見られることはなさそうですが、市場全体の流れを見つつ、価格が下がった時に購入しておこうと思います。

今回の記事はFastly, Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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