フューエルセル・エナジー(FuelCell Energy, Inc. / FCEL)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
■2021年更新版はこちら
1. FuelCell Energy, Inc.(FCEL)について
1-1. 業種
電子テクノロジー、機械装置、サービス、再生可能エネルギー
1-2. 事業の概要
フューエルセル・エナジーは、企業や政府機関、自治体、病院などを顧客とし、主に定置型燃料電池発電所のソリューションを提供しています。よく競合に挙げられるプラグパワーと大きく異なる点は、分散型発電所に注力していることです。
天然ガスやバイオガスで発電できるSureSourceシリーズを展開しており、最も小さい”SureSource 1500”はテニスコート程度の広さで、1.4MWの電力を供給することができます。(ちなみに1MWが米国の平均的な家庭約1,000軒分の電力に相当する)また、排出ガスが極めて少なく、実質的に汚染はないとしています。
この発電所機器のみの販売や、設計・設置・サービスを一括しての提供を行う他、PPAでの収入も得ています。
その仕組みには、炭化水素系燃料を電気化学的に燃焼させて発電する溶融炭酸塩燃料電池を用いており(純粋な水素による発電ではないが、利用できる燃料が幅広い)多少の二酸化炭素の排出もありますが、排ガスから二酸化炭素を抽出し隔離できるまで精製する技術、燃料電池が内部で生成した二酸化炭素を抽出し浄化する技術を開発しており、従来より二酸化炭素の排出量を大きく削減することに成功しています。
また、水素を利用した長時間のエネルギー貯蔵(水を電気分解して水素を製造→貯蔵し、必要な時にその水素を使って発電するハイブリッド運転)である可逆性固体酸化物燃料電池(RSOFC)システムの性能強化に向け、米国エネルギー省から資金提供も受けています。
1-3. チャート
フューエルセル・エナジーの株価チャートはこのようになっています。大統領選挙の結果を受けて株価は上昇を始め、順調に値上がりしていましたが、プラグパワーと同様に2月上旬から下降へ転じました。
現在は8~10ドルで推移しています。(2021年6月2日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率・当座比率は問題なし
- キャッシュフローはまだ不安な内容
- 償還可能優先株を省いても自己資本比率は悪くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
(※純資産に償還可能優先株約60百万ドルを含んで計算。これを省いた際の純資産は約194百万ドルで、おおむね安心タイプに変更はない)
流動負債が少なく、流動比率は約400%、当座比率は約280%と安心できる数値です。
固定比率は100%を超えていますが、自己資本と固定負債で十分まかなえているので、ひとまず問題はありません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は償還可能優先株を省いても約37%と比較的良い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
まだ赤字続きのため営業活動はマイナスの年が多く、また、資産への投資も積極的に行っています。特に2020年は借入も多く、株式公募も行ったため、財務活動の割合(プラス)が非常に大きくなっています。
2-1-4. 項目まとめ
資産の流動性はあるので、短期の資金繰りは問題ありません。ただ、キャッシュフローはまだまだ不安の多い内容です。
営業利益、最終的な利益どちらも赤字(損失発生)が続いており、まだ企業として発展途上の段階です。
2-2. 収益性
- ROE、ROAともにマイナス
- 2020年はコロナの影響などで製造コストが低下
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

赤字続きのためマイナスが続いています。損失額と自己資本が同じ上げ下げをしており、ROEもそれに連動して変動しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様にマイナスです。
2-2-3. 項目まとめ
収益性はまだあまりない状態です。
2020年は資産の減損がなかったことや、コロナ感染拡大による製造施設の一時操業停止により売上原価が抑えられました。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率はかなり低い
- 固定資産は年々増加し、回転率低下
- 棚卸資産は減少傾向
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は約0.1回で非常に低い数値です。
固定資産回転率も約0.2回と低いです。PPAを締結しているプロジェクトなどがあるため固定資産が大きく、また年々増加していることが影響しています。
棚卸資産回転率は約1.4回と、あまり高い数値ではありません。棚卸資産は減少傾向にありますが、近年は売上高も減少する年が多く、回転率は改善していません。
2-3-2. 項目まとめ
全体的に回転率がかなり低く、効率面を考えると資産に対して売上高が足りない状態です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は減少傾向
- 事業によっては売上高より原価が高くなっている
- 売上高研究開発費率は平均以上程度
2-4-1. 売上高と営業利益

売上高は減少傾向です。2016年には1億ドル(100百万ドル)を超えていましたが、2020年の決算では約71百万ドルでした。
内訳を見てみると発電所などの製品売上が減少しており、2020年決算ではゼロでした。
事業戦略として、発電ポートフォリオの拡大・PPAに注力するため、発電所プロジェクトの完成時売却から方針転換を行っているようですが、現時点のPPAによる収入だけでは減少した売上をまかない切れていない状況です。
なお、総売上高は減少傾向ですが、PPAを含む発電による売上、顧客や政府の後援によるアドバンステクノロジー収益は増加傾向にあります。
また、韓国のPOSCO Energy社との契約終了(同意なしのスピンオフや専有情報開示などの問題が起きている)によって、アジア市場へのアクセスがしづらい状況が続いています。

毎年営業損失が発生しており、事業別では製品売上、発電による売上は、原価の時点で売上高を上回っています。
発電による売上は、2018年以前は原価よりも売上高が高かったものの、2020年の売上総損失率は約40%です。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約71百万ドル、研究開発費は約5百万ドルだったので、売上高研究開発費率は7%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.7%とされており、研究開発費率は平均以上だと言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上高や損失額からは、すぐに成長しそうな気配は感じられませんでした。売上原価が売上高を超えてしまっている事業もあり、利益が出るようになるにはまだ少し時間がかかりそうです。
しかし、売上高研究開発費率は平均以上なので、比較的力を入れているのがうかがえます。
また、米国エネルギー省からの支援や、トヨタ自動車との共同プロジェクト(乗用車や大型トラックへの燃料供給のための水素製造、トヨタ自動車の施設や地域の送電網への電力供給)があることから、フューエルセル・エナジーの技術への期待が高いことがわかります。
3. まとめ
クロとしては、フューエルセル・エナジー(FCEL)は、一旦購入を見送りたいと思います。
決算を見る限り黒字化には時間がかかりそうですし、すぐに大きな売上が上がることもないと判断しました。ただ、フューエルセル・エナジーの先端技術に米国政府やトヨタが注目している事実もあり、それらの技術開発が成功したら株価にも反映されると考えられます。
なので、市場の波やテーパリングなどで価格がもう少し下がった時に、直近の四半期決算などを見て改めて購入検討するつもりです。
今回の記事はFuelCell Energy, Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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