イグザクト・サイエンス(Exact Sciences Corp / EXAS / イグザクト・サイエンシズとも呼ばれる)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
※研究開発次第
それでは見ていきましょう。
1. Exact Sciences Corp(EXAS)について
1-1. 業種
健康&メディカル、バイオテクノロジー
1-2. 事業の概要
イグザクト・サイエンスは、がん検出に焦点を当てる分子診断企業です。
非侵襲的なスクリーニングテスト製品を開発しており、主力商品は、排便のDNAから大腸癌を検査する「Cologuard」、がんの再発性や化学療法の効果などを遺伝子から検査する、各種”オンコロジーテスト”です。
また、新型コロナ(COVID-19)の感染拡大を受け、急遽PCR技術を用いた家庭用検査キットを開発し、全米で既に200万件以上の検査を提供(2020年末の数値)しました。
この検査はいずれ需要が減少すると予測されていますが、2021年末時点の需要は、ある程度キープされています。
買収によるノウハウ・技術の取得に積極的で、がんのスクリーニング検査に関する企業はもちろん、サンプル保存技術、海外の販売ネットワーク(子会社設立を行った)などを買収によって獲得してきました。
2021年だけでも、DNA検査ラボ PreventionGenetics、乳がん治療に関するヘルスケア企業 PFS Genomics、シーケンシングラボ Ashion、MCED検査(血液による多種類のがんの早期発見検査)開発企業 Thriveを買収しています。
2020年9月、リキッドバイオプシー(血液などの体液を用いた、患者の負担が小さい医療検査技術)での複数のがんのスクリーニング検査で、6種類のがんに対して総合感度(陽性例の識別精度)86%、特異度(陰性例の識別精度)95%を達成したと発表していましたが、更に今回、買収したThriveの初期MCEDテストで10,000人の患者を対象とし、10種類のがんを検出しました。
今回検出した10種類のうち7種類は現在、推奨されるスクリーニング検査の無いがんであり、誤検出もほとんどなかったとしています。
1-3. チャート
イグザクト・サイエンスの株価チャートはこのようになっています。
2020年9月、リキッドバイオプシーなどの発表を受けて株価が急上昇し、その後も上昇傾向が続きました。
しかし2021年2月の決算(アナリスト予想を大きく下回った)辺りから下落に転じ、現在も下降傾向にあります。(2022年3月23日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- ひとまずの資金繰りには問題なし
- 自己資本比率は50%超え
- 事業は赤字続き
- キャッシュフローは良くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
流動比率は約276%、当座比率は約241%です。
昨年よりも数値は低下しましたが、まだ短期の資金繰りには余裕があります。
固定比率は約155%です。
固定資産は純資産と固定負債でまかなえているので、ひとまず問題はないですが、買収によってのれんや無形固定資産がどんどん増加しています。
また、純資産と固定資産の増加要因は、買収のための株式発行、負債の増加などです。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約51%と比較的良い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
事業の赤字が大きく、株式報酬の戻入れなど大きな調整もあったものの、営業活動によるキャッシュフローは最終的に102百万ドルのマイナス収支となっています。
投資活動では、満期保有や売買目的となる”市場性のある有価証券”の購入に1,164百万ドルの資金を投じています。
満期となった有価証券からの収入もありましたが、企業買収に500百万ドルの支出があったこともあり、最終的には大きなマイナス収支となりました。
2-1-4. 項目まとめ
事業はまだ赤字続きで、買収を繰り返したことで資産が膨らんでいる点も昨年と変わりません。
しかし、ひとまずの資金繰りには問題なさそうです。
なお、2021年末時点での累積赤字は約26億ドルとなりました。
2-2. 収益性
- ROE、ROAともにマイナス
- 資産は年々増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

赤字続きなので、ROEはマイナスです。
2021年は前年より純損失を削減でき、自己資本も増加したため、マイナス値は小さくなりました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROEと同様にマイナスです。
2-2-3. 項目まとめ
収益性はまだほとんどない状態です。
また、買収などによって年々資産が増加し続けています。
なお、2021年に純損失は小さくなりましたが、これは法人税等の調整によるものです。
営業損失は前年と変わりません。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対する売上高は低い
- 買収で資産が増加し回転率低下
- 棚卸資産回転率は上昇
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は0.3回で、最低ライン1回よりかなり低い数値です。
特に2021年は買収を何度も行ったため、その影響が大きく表れています。
一方、棚卸資産の増加スピードは緩やかなので、棚卸資産回転率は上昇傾向です。
2-3-2. 項目まとめ
売上高は年々増加していますが、買収などによる資産の増加が大きく、全体的な回転率は低いです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は毎年増加も伸び率低下
- 営業損失は更に大きく
- 売上高研究開発費率は高い
- 2021年も買収関連の費用が大きい
2-4-1. 売上高と営業利益

2021年も売上は増加しましたが、前年の70%という成長率と比較すると、2021年の18%という伸びは少々小さい結果です。(各伸び率は前年比)
2020年は特にオンコロジーテストとCOVID-19テストの売上が急激に増加した(2019年はCOVID-19テストの売上はなし)ため、2021年の伸び率低下につながりました。
なお、2021年はCOVID-19テストの売上が前年より減少していますが、その他は増加しています。

営業損失は、特に大きかった2020年をも上回る結果となってしまいました。
買収や人員の増加などで営業費用は全体的に膨らんでいます。
また、ファイザーとのプロモーション契約において、Cologuardの営業を行っていたファイザーの営業担当者400名を採用しました。(なおプロモーション契約は11月に終了)
なお2021年も資産買収は行われましたが、2020年の413百万ドルに対して85.3百万ドルだったため、研究開発費は前年より小さくなりました。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約1,767.09百万ドル、研究開発費は約385.65百万ドルだったので、売上高研究開発費率は21.8%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.1%とされており、イグザクト・サイエンスの研究開発費率は平均の約5倍となります。
ただし2021年も資産買収処理がありました。
これを省いて計算すると17%となります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
開発中の技術・製品には将来性がありますし、現状の製品に対する需要も引き続きあるでしょう。
ただ、短期間に買収を繰り返したこともあり、費用・損失はかなり大きくなりました。
そんな中、売上の伸び率がかなり小さくなってしまった点が気になります。
これまでの買収を活かし、更なる販路の拡大や、画期的な新製品の開発などを達成しないと、今以上の成長は難しそうです。
3. まとめ
クロとしては、イグザクト・サイエンス(EXAS)に期待していますが、リスクヘッジを忘れないようにしたい銘柄です。
がんのスクリーニング検査は世界的に需要があると考えますが、最近は事業買収などで費用・損失が急激に増えています。
人員の増加などは今後も継続的に利益を圧迫するので、しばらくは損失が大きい状態が続く可能性があります。
また、売上の伸び率が鈍化した点も気になるので、現状はあまり多く保有するつもりはありません。
今回の記事はExact Sciences Corpの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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