イグザクト・サイエンス(Exact Sciences Corp / EXAS / イグザクト・サイエンシズとも呼ばれる)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
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1. Exact Sciences Corp(EXAS)について
1-1. 業種
健康&メディカル、バイオテクノロジー
1-2. 事業の概要
イグザクト・サイエンスは、がん検出に焦点を当てる分子診断企業です。
非侵襲的なスクリーニングテスト製品を開発しており、主力商品は、排便のDNAから大腸癌を検査する「Cologuard」です。
また、新型コロナ(COVID-19)の感染拡大を受け、急遽PCR技術を用いた家庭用検査キットを開発し、全米で既に200万件以上の検査を提供しました。
現在は、リキッドバイオプシー(血液などの体液を用いた、患者の負担が小さい医療検査技術)での複数のがんのスクリーニング検査開発に力を入れており、2020年9月には、総合感度(陽性例の識別精度)86%、特異度(陰性例の識別精度)95%を達成したと発表しました。
買収によるノウハウ・技術の取得にも積極的で、がんのスクリーニング検査に関する企業はもちろん、サンプル保存技術、海外の販売ネットワーク(子会社設立を行った)などを買収によって獲得しています。
1-3. チャート
イグザクト・サイエンスの株価チャートはこのようになっています。2020年9月、リキッドバイオプシーなどの発表を受けて株価が急上昇しています。また、10月にも、買収や四半期決算の評価で株価は大きな上昇を見せました。
その後も緩やかに上昇していましたが、2021年2月の年次決算がアナリスト予想を大きく下回ったことなどから下降に転じました。直近はテクノロジー銘柄の波による上下も見られます。(2021年6月13日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 増資で自己資本が増加し、資金繰りは問題ない
- 事業は赤字続き
- キャッシュフローは良くはないが、営業活動がプラスに転換
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
流動比率は約380%、当座比率は約360%で、短期の資金繰りは問題ありません。転換社債の発行や株式公募などで増資をしたため、現金が潤沢にあります。
固定比率は約100%でひとまず問題はないですが、買収によってのれんや無形固定資産が増加した状態です。
※後日決算数値の修正・変更があり、流動負債633百万ドル、固定負債2,056百万ドル、純資産2,236百万ドルとなりました。
しかし、貸借バランスや比率の評価としては大きく変わりません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約57%でしたが、後日修正され45%となりました。
それでも比較的良い数値という評価は変わりません。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
過去、営業活動はマイナス続きでしたが、2020年は資産の償却・減損などを加味した結果、プラスに転じました。
投資活動は買収によってマイナス、財務活動は増資によってプラスが続いています。
2-1-4. 項目まとめ
事業はまだ赤字続きのなか、買収を繰り返したことで資産が膨らんでいます。しかし、増資を行っているため、ひとまず資金繰りでの問題はありません。
なお、累積赤字は約20億ドルです。
2-2. 収益性
- ROE、ROAともにマイナス
- 2020年は損失額が前年の数倍に
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

赤字続きなので、ROEはマイナスです。
2020年は2019年の約10倍の純損失が発生し、ROEにも反映されています。
※項目まとめに決算書の修正点有り。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROEと同様にマイナスですが、総資産は年々増加し、ROAのマイナス値がより小さく表れやすくなっています。
2-2-3. 項目まとめ
収益性はまだほとんどない状態です。
2020年の売上はコロナの検査販売も追加され前年比70%増となりましたが、買収の影響などによって費用が大幅に増加したため、純損失額が前年の10倍となってしまいました。
※後日決算数値の修正・変更があり、数値が変動しています。
2019年の純損失が84百万ドルから213百万ドルとなったため、2020年と2019年の純損失の差は約10倍から約4倍に小さくなりました。
ただ、現状は収益性が低いという点では大きく変わりません。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対する売上高はまだまだ低い
- 買収や増資によって資産が増加し回転率低下
- 棚卸資産も増加したが、売上の増加が上回り回転率は上昇
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は0.3回で、最低ライン1回よりかなり低い数値です。増資による現金の増加が、回転率の面では効率低下(回転率低下)として表れました。
また、固定資産回転率(2020年は約0.6回)が低下傾向にあるのと同様、買収による固定資産増加も大きく影響しています。
一方、棚卸資産が年々増えている中でも棚卸資産回転率は上昇してきており、棚卸資産の増加より売上の増加の方がより大きいことがわかります。
2-3-2. 項目まとめ
売上高は年々増加していますが、買収や増資による資産の増加に追い付いていないため、総資本・固定資産回転率は低下してきています。
一方、棚卸資産の増加はそれらより緩やかで、回転率が年々上昇しています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は年々大きく増加している
- 損失額も年々増加している
- 売上高研究開発費率は平均以上
- 2020年は買収の影響による費用が大きかった
2-4-1. 売上高と営業利益

売上高は年々増加しており、伸び率70~90%の高成長が続いています。
新型コロナの検査であるCOVID-19テストも多く販売され、売上高の増加を後押ししています。

営業損失も年々増加しています。
特に2020年は買収によって追加の費用が発生しましたが、中でもBase Genomics社買収は資産買収となり研究開発費413百万ドルが計上されたため、大きな影響を与えました。
なお、この研究開発費増加を省くと、355百万ドルの損失でした。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約1,491百万ドル、研究開発費は約554百万ドルだったので、売上高研究開発費率は37.2%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は5.2%とされており、イグザクト・サイエンスの研究開発費率は平均の約7倍となります。
ただし2020年は資産買収処理というイレギュラーがあったため、これを省いて計算すると9.5%となり、平均の2倍弱の数値です。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上高の伸びからは強い成長を感じます。
また、がんリスクは世界的に無視できないものであり、今後も需要はあると考えます。
現在はまだ売上の増加より費用の増加が大きく損失も増えていますが、買収を繰り返しつつ新規開発を行っている状況なので仕方ない部分でもあります。
3. まとめ
クロとしては、イグザクト・サイエンス(EXAS)は今後の成長に期待したい銘柄です。
がんの罹患リスクは国を問わずあるもので、特に早期発見が重要となります。
中にはがんによる死亡率が減少している国もあるものの、患者数は世界的に増加しており、非侵襲性の検査需要は高いと考えます。
増資や買収を繰り返している点、累積赤字が増え続けている点などからリスクが高い銘柄であることは否めませんが、今後の開発の成果や買収費用を抑えることで、黒字になる可能性はありそうです。
今回の記事はExact Sciences Corpの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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