エレメント・ソリューションズ(Element Solutions Inc / ESI)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Element Solutions Inc(ESI)について
1-1. 業種
素材産業、化学品
1-2. 事業の概要
エレメント・ソリューションズはエレクトロニクス、インダストリアル&スペシャリティの2つのセグメントで、特殊な化学品を製造・販売する企業です。
エレクトロニクス事業では、電子機器に使用される特殊化学品や材料の研究、配合、販売を行っており、自動車、電気通信、メモリ、医療、航空宇宙などの分野へ提供しています。
具体的には、回路基板・電子機器の組み立てに際し電子回路や部品を接合するアセンブリ材料(はんだ合金やワイヤー、ペーストなど)、表面処理、回路基板製造に関する材料や独自の化学プロセス、半導体めっきなど、回路形成から組み立てまでの幅広い商品が含まれます。
インダストリアル&スペシャリティ事業では、自動車、インフラ(配管など)、印刷、消費財、エネルギー産業などの幅広い産業・工業分野へ、表面強化や産業プロセス改善に役立つ特殊化学品を提供します。
具体的には、工業用金属やプラスチックの表面コーティング剤(自動車部品の硬質クロムメッキや家電の腐食耐性、耐摩耗性の向上など。ジュエリーの表面などの装飾用コーティングもある)、印刷分野へのフォトポリマーの製造・販売、深海での石油・ガスの生産に使用される水性の油圧制御剤などを製造しています。
また、持続可能なソリューションとして、排水処理・リサイクルに関するターンキーなソリューション提供を開始しました。
なお、旧社名は”Platform Specialty Products Corporation”(ティッカーPAH)でしたが、2019年に現在のElement Solutions Incへ変更しました。
1-2-1. 同ティッカーで出てくる企業について
ティッカーシンボル「ESI」で検索すると、サイトによってはITTエデュケーショナル・サービシズ(ITT Educational Services Inc)が出てくる場合があります。
ITTエデュケーショナル・サービシズは、米国最大規模の営利教育機関でしたが、2016年に閉鎖されています。
現在ESIのティッカーシンボルを使用しているのは、エレメント・ソリューションズです。
1-3. チャート
エレメント・ソリューションズの株価チャートはこのようになっています。
2020年2月のコロナ感染拡大によって一時下落していますが、6月頃にはコロナ前の水準まで戻ってきました。
その後11月頃から株価は上昇をはじめ、2021年6月頃からは22~24ドルの間をキープしています。(2021年8月14日時点)
なお、このチャートには社名が変更された時期からしか表示されていませんが、PAHのティッカーでそれ以前から取引されています。(農業事業売却・社名変更前。大まかな値動きとしては、2014年6月~2015年6月頃が最高値で約27ドル。その後下落し一時は6ドルに。2017年頃から11ドル前後で推移を続けた)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 2018年まで借入金が非常に大きかった
- 2020年にキャッシュフローが改善
- 資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は52%
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
流動負債より流動資産がかなり大きく、貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
流動比率は約310%、当座比率は約220%で、短期の資金繰りは問題ありません。
固定比率は約150%ですが、固定資産は純資産と固定負債でカバーできています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約52%で、十分高い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという安定タイプの組み合わせで、フリーキャッシュフローもプラスです。
財務活動のマイナス収支が大きいですが、これは借入額と返済額が大きいためです。
また、自社株買いも行っています。
2019年には事業売却(2015年に買収した農業事業を行う”Arysta”を売却)とその収益での多額の借入金返済があったり、2018年は事業が赤字であるなど、不安な点もありましたが、2020年は内容が改善しています。
2-1-4. 項目まとめ
2020年の安定性は良い結果です。
2-2. 収益性
- 2019年から黒字に転換
- ROE・ROAともに米国平均よりかなり低い
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
事業が黒字化した2019年から、ROEもプラスの数値が出ています。
2020年は純利益が減少しROEも下がっていますが、これはコロナ感染拡大によって自動車関連などの一部売上が減少したことと、為替による損失が発生したためです。
なお、2019年のROEも、米国平均の4分の1程度しかありません。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROEと同様で、2019年から黒字になっています。
ROAも米国平均には届いていません。
2-2-3. 項目まとめ
収益性は低いですが、黒字になったのは良い傾向です。
2-3. 経営の効率
- 総資本に対して売上が足りない
- 買収を繰り返した分資産が大きい
- 棚卸資産の量は問題ない
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は0.4回で、最低ライン1回にはまだまだ足りない数値です。
固定資産回転率も0.5回と低めで、主に過去の買収で得たのれんや無形固定資産が大きく影響しています。
(総資産の半分がのれん、5分の1が無形固定資産)
棚卸資産回転率は約9回で、製造業としては平均程度です。
2-3-2. 項目まとめ
総資本から見た売上はまだまだ足りませんが、在庫管理は問題なさそうです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上・営業利益は停滞気味
- 2020年は一部コロナの影響を受けた
- 売上高研究開発費率は平均の半分程度
2-4-1. 売上高と営業利益
現状の売上は伸び悩んでいます。(この売上は売却事業分を除いたもの)
2019年の売上減少は、電子機器市場や自動車関連など多くの分野での需要低下、市場低迷によるものとしています。
2020年は、買収や半導体・5G通信インフラの需要増加によってエレクトロニクス事業が好調でしたが、コロナの影響による自動車関連の顧客の操業低下などで、一部の売上が減少しました。
なお、2020年の売上の63%はエレクトロニクス事業から生みだされています。
2020年の営業利益は減少しました。
これは主に研究開発費の増加や販売費・管理費等の運営費用の増加によるものです。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約1,854百万ドル、研究開発費は約49百万ドルだったので、売上高研究開発費率は2.6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は5.2%とされており、研究開発費率は平均の約半分という結果です。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
数字からは、あまり成長が感じられません。
半導体や電子機器の需要は強まっているため、エレクトロニクス事業はこれからも伸びる可能性があるでしょうが、一部事業(印刷関連など)は難しいと考えます。
また、売上高研究開発費率が低く、あまり研究開発に意欲的でないようにも取れます。
他に期待できる点としては、2020年にスタートした排水処理・リサイクル事業が挙げられます。
2-5. 構造改革
エレメント・ソリューションズは収益性の改善のためとして、毎年構造改革費用を計上しています。(主に退職金やコンサルティング料)
しかし赤字は続いており、また、債務が大きいことから支払利息は年間3億ドルを超え、利益が圧迫されて(損失に繋がって)いました。
これらが大きく変わったのは、2019年1月31日の”農業部門・Arysta売却”がきっかけです。
売却で得られた42.8億ドルの現金で借入金の多くを返済することができました。
この2019年以降、事業は黒字となっています。
ちなみに、この売却を境に社名・ティッカーシンボルを変更しました。
3. まとめ
クロとしては、エレメント・ソリューションズ(Element Solutions Inc)は少量の保有を検討しています。
理由は、多すぎる債務が改善され黒字となっている点が好印象であること、排水処理事業が現在注目されている”持続可能性”とマッチしていること、そして半導体関連銘柄として興味があるためです。
また、最近の四半期決算では売上が増加しています。
ただ、まだ累積赤字が13億ドル以上(記事作成時での最新決算となる第2Q終了時点)ある点、研究開発費が少ない点、年単位での売上の推移が気になるので、あまり多く保有するつもりはありません。
今回の記事はElement Solutions Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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