デュオリンゴ(Duolingo Inc / DUOL)の決算書(10-K)・銘柄分析について2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Duolingo Inc(DUOL)について
1-1. 業種
電子テクノロジー、ソフトウェア、インターネットサービス
1-2. 事業の概要
デュオリンゴは、外国語学習アプリケーションを提供するテクノロジー企業です。
英語だけでなく、スペイン語、フランス語、中国語などの40言語以上(2021年末時点)を学ぶことができ、MAU(月間アクティブユーザー)は約4,200万人となりました。
言語学習アプリながら、ゲーム性の強い内容で飽きずに取り組めるように工夫されており、アルゴリズム・AIによって、間違えた問題もしっかり復習できるように作られています。
また、毎日5億以上のチャプターがクリアされ、AIの更なる学習、システムのABテストの積み重ねに貢献しています。
デュオリンゴは基本的には無料のアプリですが、広告オフや無制限利用(デュオリンゴにはゲームのようにHPが設定されており、問題を間違えると減少する)、間違い直しレッスンといった機能・コンテンツを利用するにはサブスクリプションへの加入が必要です。
このサブスクがデュオリンゴの主な収益源で、他には広告収入、英語力認定試験、アプリ内課金も収益源として挙げられます。
特にこの英語力認定試験”Duolingo English Test”は、2020年に急成長した事業です。
急成長の要因には、TOEFLなどより手頃な価格で受けられる(1回49ドル)、自宅で受験できる・スマホでも受験できるという利便性もあるでしょうが、更にその価値を高めているのは、イェール大学やコロンビア大学などの一部の教育機関が入学条件にデュオリンゴの英語試験スコアの使用を認めていることです。
また2021年末時点では、3,000以上の高等教育プログラムで、留学生の英語力証明に使用できるようになっています。
ちなみに創業者兼CEOのルイス・フォン・アン氏は、CAPTCHA(歪んだ文字列の入力による認証)の考案者であり、reCAPTCHAを開発・Googleへ売却した実績があり、現在はルート(ROOT)の取締役でもあります。
1-3. チャート
デュオリンゴの株価チャートはこのようになっています。
2021年9月頃から大きく上下していましたが、10月末からの株価は下降傾向にあります。(2022年3月8日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- IPOで資金は潤沢
- 自己資本比率は78%と高い
- 事業は赤字も、キャッシュフローはプラス収支
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
IPOしたばかりということもあり、貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率、当座比率ともに500%前後と非常に高く、短期の資金繰りに問題はありません。
固定比率も約8%と低く安心です。
2-1-2. 資本の比率
IPOの影響が大きく、自己資本比率は78%とかなり高い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはプラスです。
事業は赤字ですが、株式報酬の戻入れ、サブスクによる繰延収益が大きく、営業活動はプラス収支となっています。
また、投資活動では、事業に必要な資産購入を行いました。
財務活動では、IPOに伴う資金調達が非常に大きな割合を占めています。
2-1-4. 項目まとめ
IPOの影響もあって資金は潤沢です。
事業はまだ赤字ですが、キャッシュフローの面ではプラス収支となっています。
2-2. 収益性
- 赤字のため、ROE・ROAともにマイナス
- 2021年は損失額が前年の約4倍に増加
- 2021年はIPOで自己資本・総資産増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

赤字のため、ROEはマイナスです。
なおマイナスの縮小は自己資本の増加によるもので、純損失額は増加しています。
特に2021年はIPOに伴う自己資本の増加が著しかったため、純損失額が前年の約4倍となっても、ROEのマイナスは小さくなりました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもマイナスです。
2-2-3. 項目まとめ
現時点では収益性はあまりありません。
2021年は売上が約251百万ドル、純損失が約60百万ドルという結果です。
2-3. 経営の効率
- IPOで資本が増加し回転率は低下
- 棚卸資産はなし
2-3-1. 各回転率

2021年は、IPOによる資本の増加、新しいオフィスの契約によるリース資産(固定資産)増加といった変化がありました。
そのため、総資本回転率、固定資産回転率ともに低下しています。
なお、2021年も棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
回転率が大きく低下し、特に総資本回転率は低い数値となりました。
売上は増加しているので、今後の改善に期待したいです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は大きく増加したものの成長率は大幅低下
- 営業損失は大きく増加
- 売上高研究開発費率は平均の約9.5倍
- 売上成長率は今後も低下予定(詳細は次の項目)
2-4-1. 売上高と営業利益

2021年は前年比55%の売上増加となりました。
十分大きな成長ですが、2020年の129%と比較すると、伸び幅は少々小さくなったように見えます。
売上の内訳は、サブスク、広告、英語テスト、その他(アプリ内課金など)に分けられ、全てのカテゴリで売上が増加しました。
中でも成長率が最も大きかったのは、アプリ内課金などが含まれる”その他”カテゴリです。
売上全体に占める割合は約3%程度(2021年度の実績)ですが、前年比246%の成長を見せました。
次に大きな伸びがあったのは英語テストで、前年比63%の増加となっています。
ただ、英語テストに関しても売上に占める割合は小さく、全体の10%程度(2021年度)しかありません。
売上の中で最も大きな割合(72%。2021年度)を占めるサブスク収益は、前年比54%の成長となっています。

2021年は営業損失が前年の4倍近く(前年比275%増)増加しました。
粗利率は0.8ポイント上昇し72.4%になりましたが、全体的に営業費用が膨らんでいます。
IPOに伴って発生した費用や株式報酬などももちろんありますが、特に研究開発費用の増加率が前年比96%と大きく、またその金額自体も、他の営業費用である一般管理費やマーケティング費用を超えています。
研究開発費用が大きくなるのは、昨年同様ユーザーエンゲージメント(顧客との繋がり、愛着)や顧客満足度の向上に重点を置いた運営を行っているためです。
なお一般管理費は前年比80%の増加、マーケティング費用は前年比69%増加となっています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約250.77百万ドル、研究開発費は約103.83百万ドルだったので、売上高研究開発費率は41.4%で、平均の約9.5倍です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.4%とされている)
昨年の32.8%から更に上昇しています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
今後も売上は増加すると思われますが、研究開発費がかなり大きく、黒字化するのはもう少し先になりそうです。
また、2021年までの実績や後述するガイダンスを含め、売上の成長速度(伸び率)は低下していく見込みです。
英語力テストの爆発的な普及など、大きな要因がなければ、急速な成長は難しそうです。
2-5. ガイダンス・ユーザー数推移
ガイダンスでは、2022年第1Qの売上を75.5百万ドル~78.5百万ドル、通年売上は332百万ドル~342百万ドルだと見込んでいます。
この通年売上は前年比32%~36%の成長が反映された数値です。
なおアナリスト予想(※Yahoo!financeより。2022年3月8日閲覧)では、第1Q売上が77.43百万ドル、通年売上が339.02百万ドルとされており、現在はガイダンスの範囲内の数値です。
また、2021年第4QのMAU(月間アクティブユーザー)は4,240万人、DAU(デイリーアクティブユーザー)は1,010万人、第4Q末時点のサブスク加入者は250万人です。
サブスク加入者をMAUと比較すると、約6%がサブスクリプションに加入している計算になります。
2021年第2Qでは前年同期のMAUを下回っていた(2020年第2QのMAUは3,920万人、2021年第2Qは3,790万人)ため、少々気がかりでしたが、第4Qを見るとしっかりとユーザー数は増えているようです。
3. まとめ
クロとしては、デュオリンゴ(DUOL)は一旦購入を見送りたいと思います。
事業は魅力的ですが、売上の成長率の低下が大きい点が気になります。
ただ、アプリケーションの範囲に止まらない取り組みを行い、ユーザー数も着実に増加しているので、今後も追っていきたい銘柄の一つです。
今回の記事はDuolingo Incの決算書・目論見書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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