ダニマー・サイエンティフィック(Danimer Scientific Inc / DNMR)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Danimer Scientific Inc (DNMR)について
1-1. 業種
素材産業、化学
1-2. 事業の概要
ダニマー・サイエンティフィックは、生物由来の原料と生分解性原料を利用したプラスチックの開発・製造を行うSPAC IPO企業です。
主に、PHAとPLAという、化石由来原料を含まない2種類の生分解性バイオプラスチックを取り扱っています。
PHAはバクテリアの発酵プロセスで生産され、PLAはトウモロコシやサトウキビ由来の成分で生産されていますが、PLAは自社製造ではありません。
従来のプラスチックは石油を原料としており、枯渇問題・環境汚染(前年度分析記事でもう少し詳しく紹介しています)が問題になっています。
一方、ダニマー・サイエンティフィックが提供するカノーラ油原料の”NodaxPHA”は、100%生分解性(小さくなるだけでなく微生物によって分子レベルまで分解されること。最終的には水や二酸化炭素になって自然へ還る)があります。
”NodaxPHA”は生分解性プラの認証機関最大手と言われるTUV AUSTRIA認証を6つ取得(うち一つは炭素含有量の認証)しており、「ごみ処理場」「家庭用コンポスト(堆肥)」「土壌」「活性汚泥」「海水」の5つの場面での生分解が認められています。
例えば「海水」では、30度の海水で6ヶ月以内に90%以上が生分解すると証明されているのです。
用途が広く食品接触についてもFDA(米国食品医薬品局)から承認を受けているため、ストローや食品容器などに既に使用されています。
また、顧客となるプラスチック製品の製造メーカーが、従来の樹脂(プラスチック)原料からPHAへ切り替える場合も、新たな設備の購入はほとんどの場合不要であるとしています。
他にも、PepsiCoやNestleなどの大手メーカーと、要件を満たす生分解性・バイオベースの樹脂(プラスチック)の共同開発を行っています。
1-3. チャート
ダニマー・サイエンティフィックの株価チャートはこのようになっています。
SPAC IPO後の大きな上下の後、2021年11月頃まで株価は13ドル~20ドルで推移していました。
しかしその後は下落が続いています。(2022年3月27日時点)
なお、2021年9月15日に起きた株価急落の要因の一つと思われる投資会社のレポートをこちらの記事で紹介しています。
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- SPAC IPOで得た資金はまだ残っている
- 債務による資金調達あり
- キャッシュフローは良くない
- 事業はまだ赤字
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率、当座比率は700%を超えており、ひとまずの資金繰りは問題ありません。
固定比率は100%で昨年から60ポイントも上昇しましたが、純資産でまかなえているのでこちらも問題はないでしょう。
なおこの上昇の主な要因は、買収や資産購入で固定資産が増加したことです。
2-1-2. 資本の比率
現在の自己資本比率は60%あります。
昨年から5ポイント低下しましたが、十分高い数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローもマイナスです。
事業が赤字で営業活動はマイナス収支です。
また、株式報酬が大きく、その戻入れが55百万ドルあります。
投資活動では機械設備などの購入と買収による支出が大きく、財務活動は債務による資金調達やワラント行使によってプラス収支となっています。
2-1-4. 項目まとめ
SPAC IPOによって得た資金はまだかなり残っているので、ひとまずは問題ありません。
しかし、キャッシュフローは悪く、債務も増加しています。
2-2. 収益性
- 事業はまだ赤字
- 2021年は損失が前年の7倍近くに
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
赤字のため、ROEもマイナスです。
2021年は純損失が前年の7倍近くに増加し、同時に自己資本も増加しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に推移しています。
2-2-3. 項目まとめ
現時点では赤字で収益性はほぼない状態です。
売上が増加し赤字額が減少した2020年とは一転し、2021年は売上が24%増加、純損失は約7倍に増加(いずれも前年比)となっています。
2-3. 経営の効率
- 回転率は非常に低く、低下傾向
- 工場設備が必要なため、固定資産も大きい
2-3-1. 各回転率
売上の以上に資産は増えており、回転率は全体的に低下しました。
総資本回転率は約0.1回で、最低ライン1回の10分の1にも達しません。
また、工場設備などを必要とするため、固定資産回転率も低いです。
棚卸資産回転率も昨年から更に約1回低下しました。
2-3-2. 項目まとめ
現時点の効率は低いです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上の成長率は24%
- 売上高研究開発費率は平均の約7倍
- 損失が大きく増加
- 工場がフル稼働しておらず、生産効率はまだわからない
2-4-1. 売上高と営業利益
売上は年々増加していますが、成長率は昨年の46%から24%に低下しました。(前年比の成長率)
ただ、特定の顧客への依存は小さくなっています。
2019年には大口顧客4社が売上全体の65%を占め、2020年でも3社が58%を占めていましたが、2021年は売上の10%以上を占める顧客は2社であり、その合計は全体の35%程度でした。
大口顧客が減ったとも取れますが、特定の顧客からの受注に売上が左右されにくくなったと言えます。
また、出荷量が17%、平均販売価格は6%上昇していますが、新型コロナの影響でPLAの売上が減少しました。
営業損失は前年の6倍以上に増加しました。
原価が売上とほぼ同額となっており、更に販売費・一般管理費、研究開発費が発生しています。
原価の増加については、生産規模を拡大しつつも工場のフル稼働とはならなかったため、その分の効率低下(固定費の吸収など)が影響しています。
また、SPAC IPOに伴って株式報酬などが45.5百万ドル発生し、損失を拡大させました。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約58.75百万ドル、研究開発費は約20.27百万ドルだったので、売上高研究開発費率は34.5%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.7%とされており、研究開発費率は平均の約7倍という結果です。
なお昨年の売上高研究開発費率は16.6%で、2021年はこの2倍の比率で資金を投じているのがわかります。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
費用の増加が著しい一方で、売上があまり大きく増えていません。
SPAC IPOに関連した一時的な費用もあるでしょうが、来年度に一気に好転するとは考えにくい状況です。
生産能力を拡大している最中のようなので、生産コストと粗利などの効率を知るにはまだまだ時間がかかりそうです。
3. まとめ
クロとしては、ダニマー・サイエンティフィック(DNMR)は様子を見つつ、少量の購入を検討したい銘柄です。
ただ、期待で買われるSPAC IPO銘柄であり、更に損失度外視で事業を拡大している状態であることを考えると、個人的には売上の成長率が物足りないと感じています。
また、生分解性プラスチック自体に懐疑的な意見があることや、過去に投資会社から生産・開発能力に疑問を呈するレポートが出ている点は、今後の力強い成長に不安を感じさせる部分です。
一方期待できる点としては、大手企業と共同研究を行っていること、現在フル稼働していないケンタッキー州の工場が今後運用効率を高める見込みであること、ジョージア州の新しい生産施設をはじめ、生産体制の拡大を図っていることなどが挙げられます。
今回の記事はDanimer Scientific Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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