ダニマー・サイエンティフィック(Danimer Scientific Inc / DNMR)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
ダニマーに期待できる市場規模などについて疑問を投げかける内容となっています。
1. Danimer Scientific Inc (DNMR)について
1-1. 業種
素材産業、化学
1-2. 事業の概要
ダニマー・サイエンティフィックは、生物由来の原料と生分解性原料を利用したプラスチックの開発・製造を行う企業です。
主に、PHAとPLAという、化石由来原料を含まない2種類の生分解性バイオプラスチックを取り扱っています。
従来のプラスチックは石油を原料としており、枯渇問題もさることながら、廃棄による環境汚染、特に海洋汚染が問題になっています。
ポリ袋やペットボトルといった大きなプラスチックごみはもちろん、それらが海へ流れつく過程で劣化・分解されマイクロプラスチック(直径5mm以下)となり、川や海の底への沈殿、海洋生物の誤飲などの被害が出ています。
また、食物連鎖を通じて人体の健康にも被害が出ると指摘されています。
一方、ダニマー・サイエンティフィックが提供するカノーラ油原料の”NodaxPHA”は、100%生分解性(小さくなるだけでなく微生物によって分子レベルまで分解されること。最終的には水や二酸化炭素になって自然へ還る)があります。
”NodaxPHA”は生分解性プラの認証機関最大手と言われるTUV AUSTRIA認証を6つ取得(うち一つは炭素含有量の認証)しており、「ごみ処理場」「家庭用コンポスト(堆肥)」「土壌」「活性汚泥」「海水」の5つの場面での生分解が認められています。
例えば「海水」では、30度の海水で6ヶ月以内に90%以上が生分解すると証明されているのです。
用途が広く食品接触についてもFDA(米国食品医薬品局)から承認を受けているため、ストローや食品容器などに既に使用されています。
また、顧客となるプラスチック製品の製造メーカーが、従来の樹脂(プラスチック)原料からPHAへ切り替える場合も、新たな設備の購入はほとんどの場合不要であるとしています。
他にも、PepsiCoやNestleなどの大手メーカーと、要件を満たす生分解性・バイオベースの樹脂(プラスチック)の共同開発を行っています。
1-2-1. SPAC IPO企業
ダニマー・サイエンティフィックはSPAC IPO企業です。
2020年12月29日にSPAC企業であるLive Oak Acquisition Corp.と合併を完了し、翌12月30日から現在の”ティッカーシンボル DNMR”での取引を開始しました。
1-3. チャート
ダニマー・サイエンティフィックの株価チャートはこのようになっています。SPAC合併発表後にじわじわと上昇し始めましたが、合併直後は一時的に下げ基調となりました。
数日後から株価は大きく上昇しましたが、市場の波もあって2月10日頃から一気に下降しています。その後も上下していますが、現在は合併実施前の株価です。(2021年7月27日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- SPAC IPOしたばかりで資金が潤沢
- キャッシュフローは良くない
- 事業はまだ赤字
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約800%、当座比率は約760%で、短期の資金繰りは問題ありません。
SPAC IPOした直後の決算なので、資金は潤沢です。
固定比率も約40%と低いです。
2-1-2. 資本の比率
現在の自己資本比率は65%あります。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローもマイナスです。
事業が赤字のため営業活動がマイナスです。
また、投資活動では機械設備などを購入してマイナス収支、財務活動はSPAC IPOによる資金調達でプラスとなっています。
2-1-4. 項目まとめ
SPAC IPOしたばかりなので資金は潤沢です。
しかし、キャッシュフローはまだまだ良くありません。
2-2. 収益性
- 事業はまだ赤字
- 2020年は損失減少、自己資本増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

2020年はSPAC IPOによって自己資本が増加した他、純損失が小さくなったことでROEのマイナス値は小さくなりました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様に、マイナスが小さくなっています。
2-2-3. 項目まとめ
現時点では赤字で収益性はほぼない状態ですが、2020年は前年より売上が増加し赤字額が減少しています。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率はまだまだ低い
- 工場設備が必要なため、固定資産も大きい
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は約0.1回で、まだまだ総資本に対して売上が足りません。
また、工場設備などを必要とするため、固定資産回転率も0.3回と低いです。
完成品在庫が増加したこともあり、棚卸資産回転率も約3.5回と低めです。
2-3-2. 項目まとめ
現時点の効率は低いです。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年は売上が増加(伴って原価・費用も増加)
- 売上高研究開発費率は平均の約2倍
- 新プラント建設に着手
2-4-1. 売上高と営業利益

2020年は売上が増加しました。
まだ顧客数はあまり多くなく、総売上の58%を3社で占めています。
また、売上増加には、コロナ感染拡大による一部顧客の在庫積み増しも影響しています。

営業損失が減少していますが、これは主に2019年の元役員との和解費用が、2020年には発生しなかったことによるものです。
売上原価や販売費用などは、販売量の増加に伴って増えています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約47.33百万ドル、研究開発費は約7.85百万ドルだったので、売上高研究開発費率は16.6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は7.8%とされており、研究開発費率は平均の約2倍という結果です。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2020年は売上が増加しましたが、費用や原価も増えています。
ただ、今はまだ工場の拡張などを行っている状態のため、今後工場が安定して稼働するようになった際に、どの程度の原価率なのか改めて確認したいです。
研究開発費率の高さや、2023年中旬~後半にかけてジョージア州で新たなプラントを稼働させる予定があることなどから、まだまだ新商品の開発や生産能力の向上に意欲的なことがうかがえます。
3. まとめ
クロとしては、ダニマー・サイエンティフィック(Danimer Scientific Inc)は市場の様子を見つつ少量保有したい銘柄です。
SPAC IPOなので特にリスクが高いことは念頭に置かなければなりませんが、売上を増加させている点や、純損失が減少している点(事業外の要因もあるが)は比較的良い内容です。
また、生分解性プラスチック専門という事業形態は、サステナビリティやESG投資の観点でも魅力的です。
生分解性プラには、生分解が行われる条件や時間を要することに対する懐疑的な意見もありますが、今の経済活動から完全にプラスチックを廃止することは難しく、生分解性プラは有効な代替手段であると考えます。
ただ、専門ではなくても生分解性プラを扱う企業は他にもあり、中にはTUV AUSTRIA認証を受けているものもあります。ダニマーが単独プレイヤーではないという点は注意しておきたいです。
なお、2021年第1Qは売上が増加したものの、主にワラントの価値変動による費用によって純損失が大きく増加しています。
また、SPACとの合併によって株式報酬費用も増加しています。
今回の記事はDanimer Scientific Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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