2022年2月18日の夜、ドラフト・キングズ(DraftKings Inc / DKNG / ドラフト・キングスとも呼ばれる)の株価が21%以上下落しました。
決算ではアナリスト予想のEPS・売上をクリアし、更にガイダンスを引き上げたにもかかわらず、なぜ株価が下がってしまったのでしょうか?
今回は、このドラフト・キングズの株価下落理由、そしてこれから益々発展していきそうな事業内容も詳しく紹介していきます。
1. ドラフト・キングズと事業について
1-1. ドラフト・キングズの事業内容
ドラフト・キングズを一言で言うとオンラインでのギャンブルプラットフォームを提供している企業で、事業の柱は、ファンタジー・スポーツ(DFS)、スポーツ・ベッティング(Sports book)、オンラインカジノ(iGaming)の3つです。
2020年12月にSPAC IPOした企業(合併したSPACはダイヤモンド・イーグル・アクイジション社)で、消費者に向けたサービスが売上のほとんど(2021年は96%。広告もこちらに含む)を占めますが、業者や政府が運営する宝くじなどに自社のサービスを提供しており、企業間取引(BtoB)による売上も発生しています。
また、ドラフト・キングズの事業ではユーザーの獲得が特に重要となるため、マーケティングに力を入れていることをアピールしています。
ソーシャルメディアなど様々な広告チャネルを駆使している他、新規ユーザーの紹介でインセンティブが得られる”友達紹介プログラム”、更にプロスポーツチームとの提携によるブランド強化など、幅広い取り組みを行っています。
なお、スポーツと強く結びついた事業のため、シーズンオン・オフといった季節性が売上に影響を与えるのも特徴です。
具体的には、NFLとNBAのシーズンが重複する第4Qが、ユーザーが最もアクティブな季節だとしています。
では、事業の柱となっている3つのサービス内容を詳しく見ていきましょう。
1-1-1. デイリー・ファンタジー・スポーツ(DFS)
ファンタジー・スポーツとは、自分の好きな競技と選手を選び、架空のチームを作って楽しむオンライン・ゲームです。
他のユーザーのチームとコンテストで競うことになるのですが、この際、現実での選手の実績が反映されるのが特徴です。
100%運で勝負が決まるのではなく、ユーザー自身の選手の選択が結果に関わってくるという面白さがあります。
ドラフト・キングズは、このファンタジー・スポーツのコンテストを毎日開催し、ユーザーから集めた参加費と賞金の差額を収益として得ています。
1-1-2. Sports book
Sports bookはスポーツ・ベッティングサービスで、スポーツを対象としたギャンブルです。
ドラフト・キングズがスポーツイベント(試合など)に対してオッズを決定し、ユーザーは掛け金を支払います。
そしてユーザーが賭けた通りにイベントが進めば(ユーザーの予想が当たれば)、ドラフト・キングズがオッズに沿った掛け金を支払うのです。
このサービスでは、ユーザーが何に賭けるか、その予想が当たるか、という点でドラフト・キングズの支払額が変わるため、収益が変動するリスクがあります。
1-1-3. iGaming
iGamingはオンラインカジノサービスで、ユーザーは、ブラックジャック、ルーレット、バカラ、スロットマシンなどを遊ぶことができます。(ちなみにiGamingという言葉はオンラインギャンブルの総称でもある)
基本的には通常のカジノと同様のサービス内容ですが、iGamingではユーザーへの平均リターンを統計やルールに基づいて簡単に予測できるため、現実世界のカジノよりもボラティリティが低いとしています。
1-1-4. その他・NFTマーケットプレイス
ドラフト・キングズは、2021年第3Qに、スポーツ関連のアイテムを集めたNFTのマーケットプレイスを立ち上げました。
NFTとは、日本語だと”非代替性トークン”と表されます。
NFTを利用することで、唯一無二のデジタル資産(スポーツであれば選手の名シーンなど)にブロックチェーン技術を用いた所有証明書を記録でき、そのデジタル資産の所有者が明確になります。
マーケットプレイスでは、デジタル資産の販売だけでなく、ユーザー同士の売買も行うことができます。
1-2. スポーツ賭博の合法化の流れ
現在米国では、スポーツ・ベッティングを合法とするかどうかは州ごとに判断に任せることになっており、合法となる地域が拡大しています。
記事作成時点では、スポーツ・ベッティングを合法としている州は約30州、オンラインでのスポーツ・ベッティングを合法としている州は18州だとされます。
ドラフト・キングズとしては、2022年1月にニューヨーク州とルイジアナ州へ事業範囲を拡大したことで、”米国人口の約36%を占める17の州”でオンライン・スポーツ・ベッティングサービスを提供することになりました。
また、2022年には更に多くの州がオンライン(モバイル)・スポーツ・ベッティングを合法とする法律を導入すると見られています。
2. 株価下落と決算・ガイダンスの内容
では、今回の株価下落のきっかけとなった決算発表、今後のガイダンスについて見ていきましょう。
2-1. 2021年第4Qの結果・ガイダンス
2-1-1. 売上・損失・ユーザー
これは最近のドラフト・キングズの四半期決算結果です。
EPS、売上の実績値と、アナリスト予想との差を表しています。
この表の期間以前も、ほとんどの四半期でアナリスト予想のEPSに達しておらず、今四半期(2021年第4Q)は久しぶりのクリアとなりました。
また売上に関しては、四半期で前年同期比47%増加、通年では111%増加と大きく成長しています。
ただ損失も増えており、通年では前年比24%増加の15億2,300万ドルにもなりました。(なお売上は12億9,600万ドル。損失の増加率は一部負債の再測定による修正後の数値を使用)
また、MUP(月間ユニーク支払ユーザー)は前年同期比32%増加し、今四半期は平均200万人がドラフト・キングズのサービスを利用したことを表しています。
MUPあたりの平均収益は77ドルとなり、こちらも前年同期比19%の成長となりました。
2-1-2. ガイダンス
ガイダンスでは、2022年通年の売上を18億5,000万ドル(1,850百万ドル)~20億ドル(2,000百万ドル)と見込んでいます。これは前年比43%~54%の成長を示す数値です。
なお、以前は17億ドル~19億ドルと予測しており、今回はこのガイダンスを引き上げたことになります。
通年売上のアナリスト予想(※Yahoo!financeより)は1,900百万ドルでガイダンスの範囲内ではありますが、ガイダンスの幅は広いため、予想値を超える可能性もあります。
ただ、調整後EBITDAを-925百万ドル~-825百万ドルと予測し、売上の半分近い金額の損失が出る見込みであることを同時に発表しました。
この点が、アナリスト予想を大きく下回っています。アナリスト予想の調整後EBITDAは、573百万ドル(※こちらはMotley Fool記事を参照)でした。(なお、2021年の同数値は676百万ドル)
また、その他のガイダンスとしては、2022年通年での貢献利益(売上から変動費を差し引いた利益)が、現在展開している全ての州でプラスになる予想であること、2021年末以降に新しい州へ進出しなかった場合は2022年第4Qの調整後EBITDAがプラスとなっていただろうこと(ただしこれは仮説で、実際は既にニューヨークとルイジアナに進出済み)が示されています。
また、既にモバイル・スポーツ・ベッティングを合法としているメリーランド州、プエルトリコ、オハイオ州への進出の可能性を示唆しており、進出に成功した場合、米国人口の約43%をカバーすることになります。
2-2. 株価チャート
ドラフト・キングズの株価チャートはこのようになっています。
新型コロナ感染拡大による悪影響が落ち着いてスポーツ業界が動き出すのに伴い、株価は上昇しています。
しかし2021年3月頃をピークに下落に転じ、現在までその傾向が続いています。(2022年2月21日時点)
2-3. なぜ下落したのか
今回の下落の主な理由は、先ほどガイダンスの項目で紹介した”調整後EBITDA”です。
アクティブユーザーが増え、ユーザーあたりの平均収益も増加している中で、予想を超える大きな損失が出る見込みであることを発表したため、市場の嫌気を誘ってしまいました。
次々に新しい州へ参入するのは悪いことではありませんが、そのための費用が増加の一途を辿っており、2021年には1,296百万ドル(約12億9,600万ドル)の売上に対して、982百万ドル(約9億8,200万ドル)ものマーケティング費用が発生しました。
もちろんマーケティング以外にも費用は発生するので、最終的な損失は1,523百万ドル(15億2,300万ドル)となり、売上高を大幅に超える赤字となっています。
2. まとめ
ドラフト・キングズ(DKNG)は売上、ユーザー数を急速に伸ばしている成長企業ですが、赤字がどんどん膨らみ続けています。
グロース銘柄が大きな損失を出すことは珍しいわけではありませんが、ここまでシェアを拡大した上で売上を超えるほどの金額の赤字を出していること、アナリスト予想との差が大きいことなどが株価にマイナスの影響を与えてしまいました。
成長していきそうなセクターではあるので、今後の業績にも目を向けておこうと思います。
記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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