ディスカバリー(Discovery, Inc. / 旧名:ディスカバリー・コミュニケーションズ / DISCA・DISCK・DISKB)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Discovery, Inc.(DISCA)について
1-1. 業種
放送
1-2. 事業の概要
ディスカバリーは、オリジナルの番組を制作し配信する世界的なメディア企業です。
YouTubeでも動画の一部が配信されていますし、サバイバルやハードな節約術など、日本のテレビ番組とは一風変わったコンテンツを見たことがある人もいると思います。
配信形態には、有料・無料のテレビ放送やデジタル配信、サブスクリプションサービス”Discovery+”などがあり、総合すると米国をはじめ220以上の国と地域、50以上の言語で動画を配信しています。
なお、現在ディスカバリーの株式にはクラスA~Cの3種類(議決権の差。それぞれ株価が異なり、1株10議決権のクラスBは他2種の2倍近い価格。2021年7月19日時点)がありますが、後述する経営統合に伴って株式も統合される予定です。
1-2-1. アルケゴスによる株価暴落
2021年3月末に、DISCA、DISCKのティッカーで上場しているクラスA株式、クラスC株式の価格が50%以上暴落しました。
これは、5~8倍ものレバレッジをかけた取引を行っていたアルケゴスという会社が、担保の追加保証金を払えなくなったことが原因です。
これによるアルケゴス自身の投げ売りや、金融機関によるアルケゴスのポジション解消のための保有株式売却(ブロック取引ではあったが影響は食い止められなかった)の影響で、株価は急激に下落しました。
この対象となった(アルケゴスに大量に保有されていた)銘柄の一つがディスカバリーだったのです。
1-2-2. ワーナーメディアとの経営統合・スピンオフ
2021年5月17日、AT&Tの子会社であるワーナーメディアとの経営統合が発表されました。
AT&Tはアメリカ大手の電話会社やワーナーメディアを擁する持株会社で、ワーナーメディアは映画会社”ワーナー・ブラザース”、ニュース専門チャンネル”CNN”などが複合する企業です。
今回の経営統合では、ワーナーメディアがAT&Tからスピンオフする形となり、2022年を目途に、ディスカバリーと共に新しい会社を設立する予定です。
これによって動画配信サービスのグローバル展開が強化されるとしていますが、発表当日の株価は瞬間的に上昇し、すぐに下落に転じました。
ちなみに統合後は1株につき1票の議決権を持つ単一クラスの株式となる予定なので、クラスBを保有している株主には少々不利な変換と言えます。
1-3. チャート
ディスカバリーの株価チャートはこのようになっています。2020年2月頃からのコロナ感染拡大によって、緩やかではありますが下落しています。
その後はしばらく横ばいでしたが、年末から3月にかけて2倍以上に急上昇しました。
しかしその後、前述したアルケゴスの破綻によって大きく暴落し、現在もじわじわと株価は下がり続けています。(2021年7月18日)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りは問題ない
- 自己資本比率はそこそこ
- キャッシュフローは安定
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”に近いです。
流動比率は約200%、当座比率は約150%で、短期の資金繰りは問題ありません。
固定比率は約270%ですが、純資産と固定負債でカバーできています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は31%で、低くはない数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローはプラスです。
2018年に買収を行って投資活動が大きなマイナス収支となったこと以外はおおむね安定しています。
また、財務活動では、株式の買戻しを行った年もあります。
2-1-4. 項目まとめ
自己資本比率は特に高くないですが、全体的に安定しています。
2-2. 収益性
- 2020年はコロナの影響で売上減少・費用増加
- 近年はイレギュラー発生で数値が大きく上下
…大きな問題がなければ平均程度はありそう
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
ROEは大きく上下しており、2020年は米国平均よりも低い値です。
これは主に、売上が減少したにも関わらず、費用は前年と同様にかかってしまったためです。
売上の減少は、コロナ感染拡大による広告の需要低下と、放送権を獲得した東京オリンピックなどのスポーツイベントの中止や延期(収益の消滅や延期)が影響しています。
また、感染防止対策を行う追加コストも発生しました。
2017年がマイナスなのは、のれんの減損が発生し、赤字の一年だったためです。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上下しており、2020年は米国平均を下回っています。
2-2-3. 項目まとめ
イレギュラーの発生などで上下していますが、大きな問題のなかった2019年のROAは米国平均に届く数値です。
2016年、2015年のROAも約5~7%なので、何事もなければ米国平均に届く程度の収益性はありそうです。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインの3分の1程度
- 棚卸資産はない
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は0.3回で、最低ライン1回よりかなり低いです。
また、固定資産回転率も0.4回です。
買収によってのれん・無形固定資産がかなり大きくなっていることが主な要因ですが、コンテンツの権利資産なども影響しています。
棚卸資産はありません。
2-3-2. 項目まとめ
数値上は、買収によって得た資産分の売上を、まだ獲得できていない状態です。
また、放映権などが含まれるのでしょうが、コンテンツの権利資産も着々と増えています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2020年は減収減益
- コロナ感染拡大が悪影響
2-4-1. 売上高と営業利益
2020年はコロナ感染拡大による影響で売上が減少しました。(広告サービスの需要の減少や権利を有するスポーツイベントの中止・延期)
なお、2018年の売上増加は主に買収によるもので、その前数年間は6,000百万ドル台でじわじわ売上を伸ばしていました。
営業利益も減少しています。
これは、感染対策のための新たなコスト発生などで、営業費用は前年と変わらずかかってしまったことが原因です。
2-4-3. 項目まとめ
2020年は売上・利益共に減少しました。
スポーツイベントの開催も徐々に再開されており、2021年の巻き返しに期待したいですが、まだしばらくコロナの影響は完全には無くならないだろうとしています。
3. まとめ
クロとしては、ディスカバリー(DISCA)は一旦様子を見たい銘柄です。
コロナの影響によるインドア需要で配信・放送系は好調なのかと思いきや、配信収益は横ばい、広告収益が減少という結果でした。
安定した収入が見込めるサブスクリプションの展開に期待したいですが、以前のサブスク”Dplay”は日本だと1年4ヶ月程度で配信終了されており、新しい”Discovery+”の行く先にも少々不安があります。(ただし、ヨーロッパなど一部地域では今もDplayが配信中。順次Discovery+に移行する予定)
また、ワーナーメディアとの統合も未知な部分が多く、番組ラインナップの変化などが起こるかもしれません。
なお、もしディスカバリーに投資する場合は、株価が高いクラスBはおすすめしません。(現行のままでいけば、統合後は株価の安いクラスA・Cと同価値になってしまうため)
今回の記事はDiscovery, Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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