デル・テクノロジーズ(Dell Technologies Inc. / DELL)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Dell Technologies Inc.(DELL)について
1-1. 業種
ネットワーク&通信・サービス、電子製品、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
デル・テクノロジーズはPCや周辺機器のハードウェアで有名で、実際それらの事業が売上全体の51%(2021年1月決算での数値)を占めています。
また、それだけでなくマルチクラウド(アプリケーションのサポートに複数のクラウドが使用されていること)やビッグデータソリューションなどを提供するインフラストラクチャ(サーバー・回線など、またその運用)ソリューションにも力を入れており、この事業の売上は全体の約35%に達します。
また、2020年11月に、”IT as a Service”を推し進める、”Project APEX(全ての製品とソリューションをサービスとして提供する計画)”を発表しました。
1-2-1. すべてをサービスに”as a Service”
よく使われるようになった”as a Service”という言葉ですが、その意味は”サービスとして”です。
例えばコンタクトレンズの保証つき定額プランやファッションレンタルサービスなど、製品を売って終わるのではなく、サービス化することで継続的な収入につなげることができます。
DELLの”Project APEX”もこの”as a Service”を追求したもので、ニーズや予算に合わせて柔軟なIT活動を提供し、クラウド製品を進化・拡大させることが計画されています。
1-3. チャート
DELLの株価チャートはこのようになっています。コロナ感染拡大による株価下落の後は上昇が続いていましたが、2021年4月14日にVMwareのスピンアウトが発表されたことで更に急上昇しました。
その後は緩やかに下降傾向ではありますが、まだまだ過去最高値の水準です。(2021年5月21日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 貸借対照表は良くない内容
- 買収で膨らんだ資産の減価償却費が毎年大きい
- キャッシュフローは安定している
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは、短期の負債が現金化可能な資産を上回っている”不安タイプ”です。
流動比率は約80%、当座比率は約60%です。これは少々不安な数値です。
固定比率は約2,700%もあり、自己資本が非常に小さいことがわかります。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約2%です。資金の多くを負債に頼っている状態です。(なお、自己資本に472百万ドルの償還可能株式を含んで計算)
また、2019~2020年度は債務超過でしたが、2021年度に改善しています。
2-1-3. キャッシュフロー
直近2年は営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローも安定してプラスです。
毎年、2016年のEMC買収(買収額は580億ドルで、これは史上最高額のハイテク企業買収とされた)分の減価償却費が大きく、純損失を出した(赤字)年でも、営業活動のキャッシュフローはプラスとなっています。
また、毎年借入金が発生していますが、返済額の方が大きいため、財務活動はマイナスとなっています。
2-1-4. 項目まとめ
貸借対照表はかなり不安になる内容でしたが、キャッシュフローを見ると資金繰りは問題ないようです。また、流動負債には延長保証サービスなどの繰延収益が一部含まれていることや、借入できる信用があることは不安を軽減できる材料でもあります。ひとまずは問題ないと言える状態です。
2-2. 収益性
- 自己資本が小さいためROEが高い
- 過去の買収によって資産が膨らんでおりROAは低い
→減価償却費が発生し、今後も利益を圧迫
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

自己資本がとても小さいため、ROEは非常に高い数値です。
2018~2019年は赤字で、かつ2019~2020年は債務超過状態でした。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

2018~2019年度は赤字のためROAもマイナスです。2020~2021年度は黒字で売上高も前年より増加していますが、減価償却費や利息など費用の減少が影響しています。
なお、2016年の買収によって資産が膨らんでいることもあり、ROAは低い値です。
2-2-3. 項目まとめ
黒字を達成しましたがROAは低く、収益性はまずますといった内容です。今後も減価償却費が利益を圧迫することが予想されます。
ただ、それを過ぎれば資産が削減され、利益の幅も大きくなり、数値が改善される可能性もあります。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率はもう少し欲しい
- 棚卸資産を抑えて売上をあげられている
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は約0.8回で、少々物足りない数値です。買収で資産が膨らんでいる影響が出ています。
固定資産回転率は約1.2回、棚卸資産回転率は約28回です。
総資本回転率同様、固定資産が比較的大きいため、あまり高い数値は出ていません。
棚卸資産回転率は、製造業の平均の3倍近くあります。クラウドやインフラにも力を入れていることで、在庫を持たずに売上を増加できていると考えられます。
2-3-2. 項目まとめ
過去の買収の影響もあり、総資本に対する売上は少々物足りませんが、棚卸資産を抑えて売上をあげることができています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は増加傾向だが緩やか
- 2018~2019年度は赤字だったが黒字へ転じた
- 減価償却費が大きく利益額に影響している
- 研究開発には意欲的
2-4-1. 売上高と営業利益

売上高は増加を続けていますが、2019年度以降は2%前後の伸び率です。

営業利益についても損失からプラスへ転じ、成長しています。2021年度は、2020年度の約2倍の営業利益を出しています。
この要因には、売上高の増加もちろん、減価償却費などの費用の減少も挙げられます。
2-4-2. 研究開発費
2021年度の売上高は約94,224百万ドル、研究開発費は約5,275百万ドルだったので、売上高研究開発費率は5.6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員の多い大企業は売上高研究開発費率が低めの傾向にあるとされ、10,000人以上の企業では3.5%が平均と言われています。DELLの従業員数は約15万8千人であり、研究開発には平均以上に資金を投じていると言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上高の伸びは緩やかですが、営業利益、純利益ともに黒字に転じたことは良い傾向です。
また、研究開発にも資金を投じており、全ての製品とソリューションをサービスとして提供する”Project APEX”など新たな取り組みも発表されているので、今後の展開に期待したいです。
3. まとめ
クロとしては、DELL(DELL)は「減価償却費の影響がまだ続きそうだが、新しい取り組みに期待したい」銘柄だと考えます。
全ての製品・ソリューションのサービス化による発展に期待しているのと、VMwareのスピンアウトで多額の資金を得られれば、資本体質の改善が考えられる(90億ドル以上の収入になると言われている)からです。
今回の記事はDell Technologies Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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