今回は3Dシステムズ(3D Systems Corporation / DDD)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. 3Dシステムズ(DDD)について
1-1. 業種
コンピューターハードウェア、製造加工、産業用機械
1-2. 事業の概要
3Dシステムズは、世界最大級の3Dプリンター企業です。
産業とヘルスケア市場を2つの柱として、幅広い3Dプリンター技術、その原料・素材、ソフトウェア、デザインツールなどを提供しています。
また、提供する素材の中には、サードパーティとの共同開発などによる自社ブランドのものも多くあります。
産業分野には、航空宇宙・防衛、運輸、一般製造の取り組みが含まれており、ヘルスケア分野では、医療機器・歯科機器、再生医療などを手掛けています。
特に2021年には再生医療への注力・投資拡大を宣言し、バイオプリンティング企業の買収や提携の発表を行いました。
1-3. チャート
3Dシステムズの株価チャートはこのようになっています。
100ドル近くあった株価が、特許の保護期間が切れた2014年から下降し続け、2020年末には約10ドルにまで下がっていました。
2021年に入ってから一時上昇したものの程なく下落し、特に最近は下降傾向にあります。(2022年3月7日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率・当座比率は十分すぎる程高い
- 自己資本比率は高いものの低下気味
- 事業自体は赤字
- 事業売却による収益で2021年は黒字
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは、不安の少ない“安定タイプ”です。
流動比率、当座比率共に500%を超えており、流動性も十分すぎる程です。
借入による資金調達や、事業売却による収益を得たことで、現金などの資産が大きく増加しました。
固定比率は61%で問題ありません。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は54%です。
年単位で低下が続いていますが、まだまだ高い部類です。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは、営業活動プラス、投資活動プラス、財務活動プラスという組み合わせです。
事業自体は赤字ですが、現金の支出・収入を反映する調整によって、営業活動のキャッシュフローは48百万ドルのプラス収支となりました。
投資活動では、事業の売却収入が、買収による支出を上回っています。
財務活動では借入による資金調達、一部債務の返済などを行いました。
2-1-4. 項目まとめ
ひとまずの資金繰りには問題ありませんが、事業は赤字続きです。
ただ、事業売却による収入が大きな要因ではあるものの、2021年は純利益を出し、累積赤字を減らすことができました。
2-2. 収益性
- 2015年~2020年は赤字
- 2021年は事業売却で黒字
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2015年~2020年は赤で、ROEもマイナスでした。
2021年は黒字となり、かなり高いROEが出ていますが、これは事業外の要因(事業の売却益)によるもので、事業そのものは赤字のままです。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROEと同様の推移をしています。
2-2-3. 項目まとめ
2021年のROE・ROAは米国平均を大きく上回る数値ですが、これは事業外の収益が大きかったためです。
事業そのものはここ数年間赤字続きとなっています。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は低め
- 資金調達・買収で総資本は急増(回転率低下)
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は最低ライン1回の半分以下となっています。
売上は昨年より増加したものの、それ以上に総資本が急増したことで、回転率は低下しました。
買収による資産増加もあり、固定資産回転率も総資本回転率同様に低下しましたが、棚卸資産回転率は在庫が減少したことで上昇しました。
2-3-2. 項目まとめ
2021年は一気に現金が増加し、回転率は低下しました。
総資本の大きさから見た売上は物足りない数値です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は回復したが、コロナ前の2019年には届かず
- 営業損失は70%以上削減
→企業努力もあるがのれんの減損という一時的要因も影響 - 売上高研究開発費率は平均の約2倍
2-4-1. 売上高と営業利益
2018年から減少の続いていた売上ですが、2021年は増加に転じました。
2021年の売上成長率は約10%で、2020年の新型コロナによる悪影響からの回復が大きな要因だったようです。
なお、事業売却を行っているため一概に比較できませんが、2019年の売上と比較すると、2021年は3%減少しています。
売上の内訳としては製品売上が増加し、サービス収益が減少しました。
これは事業売却の影響が大きいです。
また、ヘルスケアと産業というセグメント別に見ると、どちらも製品売上は増加していますが、サービス収益に関しては産業分野で減少が見られました。
営業損失は前年比72%削減されました。
粗利率が40%から43%に上昇したことや、2020年に発生したのれんの減損が今年は発生しなかったこと、リストラ・組織再編で研究開発費が減少したことなどが主な要因です。
なお、事業は赤字でしたが、一部の事業を売却したことによる収益(事業外収益)で、最終的には322百万ドルの黒字となっています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約615.64百万ドル、研究開発費は約69.15百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約11.2%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同規模の米国企業では5.2%程度が平均とされており、3D・システムズは平均の約2倍の研究開発費用を投じていると言えます。
なお、昨年は約13.3%(平均値の約2.5倍)だったので、若干比率は低下しています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2021年は売上増加・営業損失減少で、昨年より業績は回復しました。
最終的な黒字は事業売却益によるものであったり、営業損失の改善も昨年の一時的な費用増加の影響があったりと、気になる点もありますが、一部の営業経費を削減できたことや、累積赤字を減らせたことは一つの成果だと言えます。
特に2021年からヘルスケア市場、特に再生医療に注力するように舵を切っているため、この研究開発で成果を出せるかが大きなカギを握っています。
2-5. ガイダンス
第4Qの決算と共に発表されたガイダンスでは、2022年通年での売上を570百万ドル~630百万ドルになると見込んでいます。これは、2021年と比較して7%減少~2%増加するという予測です。
なお、記事作成日(2022年3月7日)に確認したアナリスト予想(※Yahoo!financeより)の売上は593.8百万ドルで、ガイダンスの範囲内の予測値です。
3. まとめ
クロとしては、3Dシステムズ(DDD)は、再生医療・バイオプリンティング技術に期待して、少量保有するつもりです。
特許切れによって苦戦が続いていた3Dシステムズですが、2021年に事業を選別し、組織改革を行いました。
再生医療に関してはまだ開発中の技術も多くありますが、既に様々な取り組みを見せています。
また、ヘルスケア分野、特に歯科市場は好調を維持しています。
ただ、ガイダンスでは2021年の売上を下回る可能性も示唆されているため、焦って購入はせず、市場の動きを見て保有するつもりです。
また、資金確保によって現金等に余裕が出たものの、事業そのものは赤字続きの状態ということは念頭に置いておきたいです。
今回の記事は3D Systems Corporationの決算書及びコーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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