今回は3Dシステムズ(3D Systems Corporation / DDD)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
※研究開発次第
それでは見ていきましょう。
◆2021年第1Qやプレスリリースを受けて、まとめの判断に追記しました。
■2021年度更新版はこちら
1. 3Dシステムズ(DDD)について
1-1. 業種
コンピューターハードウェア、製造加工、産業用機械
1-2. 事業の概要
3Dシステムズは、産業分野とヘルスケア分野において3Dプリント技術を提供する、世界最大級の3Dプリンター企業です。
産業分野では3Dプリンターやオンデマンド印刷(製造)サービスなどを提供しており、航空宇宙・防衛、運輸、半導体など幅広いジャンルでの取り組みが行われています。
ヘルスケア分野では、医療機器・歯科機器はもちろん、仮想外科手術計画やトレーニングシミュレーターなど、3D印刷(製造)に限らないサービスを提供しています。
また、3Dプリントでは樹脂や金属など、様々な素材での印刷・製造が可能です。
1-3. チャート
3Dシステムズの株価チャートはこのようになっています。
100ドル近くあった株価が、特許の保護期間が切れた2014年から下降し続け、2020年末には約10ドルにまでなっていました。
2021年に入ってから米国株全体の波に乗り一時上昇し、現在は27ドルをつけています。(2021年3月27日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率・当座比率は安心
- 固定比率・自己資本比率も良好
- 各比率が少しずつではあるが悪化傾向にある
- キャッシュフローは少々不安
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは、不安の少ない“安定タイプ”です。
(貸借バランスのポイントについては、こちら↓の記事で紹介しています)
流動比率、当座比率共に100%を超えているので、ひとまず安心です。
ただ、ここ数年で少しずつ下がってきているため、この傾向が続くと資金繰りが悪化する可能性があります。
固定比率も同様で、2020年の87%も良い数値ですが、2017~2018年はより良好な74%という数値でした。
(貸借貸借表の各比率については、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は58%と良好な数値です。
他の比率と同様に数年前から下降気味ではありますが、2020年の数値も十分良好です。
2-1-3. キャッシュフロー
キャッシュフローは、営業活動マイナス、投資活動マイナス、財務活動マイナスという組み合わせです。
本業となる事業で赤字が続いており、営業活動のキャッシュフローはマイナスとなりました。
2018~2019年は少額ながらプラスでしたが、2020年は赤字額が増加したため、他の要素を加味してもプラスに転じることはできなかったようです。
フリーキャッシュフローを見ても、2019年にかろうじてプラスとなっていますが、基本的にはマイナスが続いています。
(キャッシュフロー計算書を見る際のポイントや判断基準はこちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-4. 項目まとめ
2020年決算時点での資金繰りは問題ないという結果です。
しかし、少しずつ指標の数値が悪化してきているのが気になります。
今でも良好な数値ではあるのですが、本業で赤字が続いて累積赤字が増加しているため、数値程は安心できません。
キャッシュフローの結果については、現時点でもあまり良くない結果です。
2-2. 収益性
- 2015年から赤字続き
- 2020年はコロナの影響もあり大きく減収減益
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

2015年以来赤字が続いており、近年のROEもマイナスとなっています。
2018年は売上高が大きく純損失を抑えることができましたが、その後再び数値は下降しています。
2020年は2014年以来最小の売上高となってしまい、純損失額も約150百万ドルでした。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROEと同様の上げ下げをしています。
2-2-3. 項目まとめ
赤字額が増加したため、収益性は大きくマイナスとなっています。
元より赤字が続いていましたが、2020年はコロナ感染拡大による顧客の操業停止などが影響し、売上高約557百万ドル(前年比-12%)、純利益約-150百万ドル(前年比-114%)という結果でした。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は気持ち低め
- 過去の買収の影響で固定資産回転率も低め
- 棚卸資産回転率も低め
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は、約0.75回です。
過去4年分を見ても同程度で、数値的には気持ち足りない結果です。
固定資産回転率は約1.5回です。
こちらも大きな変動はなく、効率的には少し物足りない数値です。
過去に特許のために行っていた買収が影響し、のれんなどが大きくあります。
棚卸資産回転率は約5回です。
在庫量は大きく変動していませんが、売上高が下がったことにより少々低下しています。
サービスやオンデマンドも請け負うやや特殊な業種ですが、数値としては低めの結果だと言えるでしょう。
2-3-2. 項目まとめ
悪い結果とまでは言えませんが、どちらかというと効率面では低めの結果となりました。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は2018年から減少・営業損失は増加
- 売上高研究開発費率は平均の約2.5倍
2-4-1. 売上高と営業利益

売上高は2018年から減少しています。
特に2020年の売上の減少は大きく、コロナの感染拡大が影響しているとしています。
また2019年の売上減少については、大手顧客の注文サイクル、事業終了の影響や、製造業の全体的な不調が原因として挙げられています。

営業損失が増加しています。
特に2020年はのれんの減損もあったため、利益の減少幅が大きくなっています。
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約557百万ドル、研究開発費は約74百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約13%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同規模の米国企業では5.2%程度が平均とされており、3D・システムズは平均の約2.5倍の研究開発費用を投じていると言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上が減少傾向、損失が増加傾向にあります。
しかし、そのような状況下でも研究開発にはかなり投資をしており、起死回生の技術開発を求めているように受け取れます。
2019年も同程度の売上高研究開発費率だったため、2020年に研究開発費を抑えたということもないでしょう。
2-5. 補足:特許切れ
3Dシステムズは3Dプリンターの発明者の一人が設立した企業で、関連技術を持った企業を買収し、技術や特許を囲い込んできました。
しかし、2014年前後にこれらの特許の保護期間が終了したことで低価格のプリンターや新規参入が相次ぐようになり、それ以来決算も赤字になってしまっています。
また、この影響を受け低価格帯のプリンターの製造を打ち切りました。
3. まとめ
クロとしては、3Dシステムズ(3D Systems Corporation)は年次決算書の数値は良くないという判断ですが、2021年第1Q決算(クリックで該当記事へ)を受けて以下の枠内に追記します。
3Dプリント業界では最大級の企業ですが、特許切れによって苦戦しています。
資産の流動性があるのですぐに資金繰りが危うくなることはありませんが、指標がじわじわと悪化気味なのが気になります。
2020年の売上では歯科市場への売上が約9%増加していますが、工業関連は約24%も減少しており、コロナの影響が落ち着いてからどのように推移していくか注視したい内容です。
研究開発にはかなり投資を行っているので、新しい技術やサービスの開発に成功すれば再び黒字に転じることも可能と考えられますが、今のままでは利益の拡大は少々難しそうです。
(ちなみに2020年8月の発表では、人員削減やヘルスケア・産業への集中に取り組むとしている)
また、これは決算書の分析とは関係ありませんが、2021年3月、キャシー・ウッド氏率いるARK Investが3Dシステムズを強気に買い増ししており、この流れに乗る投資家も出てくる可能性があります。
(ARK社、キャシー・ウッド氏についてはこちら↓の記事で紹介しています)
今回の記事は3D Systems Corporationの決算書及びコーポレートサイトなどを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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