CRISPRセラピューティクス(クリスパー・セラピューティクス / CRISPR Therapeutics AG / CRSP)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性※恒常的な黒字ではない
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. CRISPR Therapeutics AG(CRSP)について
1-1. 業種
バイオテクノロジー、ゲノム、遺伝子編集、メディカル
1-2. 事業の概要
CRISPR(クリスパー)セラピューティクスは、遺伝子組み換え・ゲノム編集による医薬品、治療法を開発する企業で、販売できる製品はまだ保有していません。
この治療法は”CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)”と呼ばれる、従来のゲノム編集より簡単で効率的な優れた手法に基づいています。
(ちなみにこの手法を開発した研究者は2020年のノーベル化学賞を受賞しました)
開発中の製品候補では、このゲノム編集プラットフォームを用いて編集した細胞を患者に投与するex vivoアプローチを採用していますが、治療薬・遺伝物質を直接生体内の細胞に届けるin vivoについても研究を進めています。
CRISPRセラピューティクスの製品候補としては、異常ヘモグロビン症(鎌状赤血球症、ベータサラセミアに焦点を当てている)、がん免疫(がん細胞を強力に攻撃できるように遺伝子操作したT細胞である”CAR-T細胞”の創出)、再生医療(糖尿病に焦点を当てる)の3分野で臨床試験を実施中です。
なお臨床試験中のプログラムのうち、異常ヘモグロビン症についてはVertex(VRTX)と、糖尿病治療ではViaCyteとコラボレーションしています。
また、まだ臨床試験には至っていないものの、in vivoアプリケーションとして、糖原病、血友病などの治療法開発も行っています。
1-3. チャート
CRISPRセラピューティクスの株価チャートはこのようになっています。
数年間にわたって何度も上下を繰り返していた株価が2020年11月に急上昇し、一時は200ドルを超えていました。
しかし2021年1月後半からは下落に転じ、特に7月以降は下げ基調が続いています。(2022年5月30日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りは問題なし
- 自己資本比率は高いが株式発行によるもの
- キャッシュフローは不安定
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率、当座比率どちらも非常に高く、ひとまずの資金繰りには問題ありません。
固定比率は14%と低く優秀です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約87%と非常に高いです。
ただ、これは株式を毎年発行していることが主な要因です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
2021年度は事業が黒字となり、営業活動によるキャッシュフローもプラス収支となりました。
ただ、今回の黒字には一時的な収益の影響も大きく、今後も継続されるかはわかりません。
投資活動では市場性のある有価証券の購入に多額の資金を投じており、マイナス収支となっています。
一方財務活動では、株式発行による資金調達が大半を占め、プラス収支となりました。
2-1-4. 項目まとめ
資産の流動性が非常に高く負債が少ないため、ひとまず安定性は十分あります。
ただ、事業の黒字が継続されておらず(2019年度と2021年度が黒字となっている)キャッシュフローはあまり安定していません。
2-2. 収益性
- 2019年度・2021年度は黒字
- この黒字は恒常的な売上によるものではない
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2019年度、2021年度は黒字となったため、ROEもプラスの数値が出ています。
特に2021年度のROEは米国平均にかなり近い数値となっていますが、今回の売上・純利益の急増はバーテックス社との契約による前受金の影響が非常に大きいため、今後も同様の業績を期待するのは少々難しそうです。
なお、自己資本は年々増加しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様に上昇しています。
総資産についても、毎年増加傾向にあります。
2-2-3. 項目まとめ
2021年度のROE・ROAは良好な数値ですが、これには一時的な要因の影響も大きく、継続的な収益性という観点からは少々厳しい内容です。
2-3. 経営の効率
- 安定した売上は無い
- 資産のほとんどは現金と有価証券
2-3-1. 各回転率
安定した売上が無いため、回転率については割愛します。
2-4. 成長している・していく企業か
- 恒常的な売上は無し
- 2021年度の売上はバーテックス社からの前受金
- 売上高研究開発費率は48%
2-4-1. 売上高と営業利益
2021年度は9億ドルを超える売上を達成していますが、恒常的な収益源はありません。
2019年度、2021年度の売上が他年度と比較して非常に大きいですが、このどちらも、コラボレーション契約を結んでいるバーテックス(Vertex / VRTX)からの一時的な支払いによるものです。
ちなみに2022年度第1Q(記事作成時点の最新決算)では、助成金収入があったもののコラボレーション収益は小さく、94万ドル(0.94百万ドル)の売上となっています。
売上の大きさに影響され、営業利益が出ている年と、営業損失が発生している年があります。
なお費用面では、研究開発費が大きな割合を占めています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約914.96百万ドル、研究開発費は約438.63百万ドルだったので、売上高研究開発費率は48%となります。
ただ、これは2021年度の売上が大きかったためで、年度によっては研究開発費が売上を大きく超えることもあります。
ちなみに科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.7%とされています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
安定した売上が無く、今後の成長は現在開発中の製品にかかっています。
ただ、提携数社と何度も契約を取り交わしていることから、ある程度技術力に信頼を置かれていることが推察できます。
3. まとめ
クロとしては、CRISPRセラピューティクス(CRSP)は、まだ様子見を続けたいと思います。
現状安定した売上がなく、業績や株価の変動は今後の開発進捗・臨床試験の結果次第というギャンブル性の高い銘柄です。
また、遺伝子治療やゲノム編集においては倫理的な問題もあるため、まだまだ超えるべきハードルも高い状況であると判断しました。
特に株式市場が厳しい相場となることが見込まれている現時点では、保有を見送るつもりです。
しかし同時に、世界の医療を変える可能性を秘めた分野でもあるので、今後とも注視していきたいです。
今回の記事はCRISPRセラピューティクスの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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