ブルックス・オートメーション(Brooks Automation, Inc / BRKS)は、2021年9月20日に事業売却を発表しました。
今回は、それによる株価の変動や、売却事業と継続事業の内容・収益、また、一般的な事業売却における株価の変動や注目ポイントをまとめました。
1. Brooks Automation, Incについて
1-1. 概要
ブルックス・オートメーションは、半導体ソリューション事業・ライフサイエンス事業の2つからなる企業です。
自動化や真空ロボット、低温貯蔵などのシステムや、ライフサイエンス事業(バイオテクノロジーや医療関連の企業・機関を顧客とする)では、サンプル保管・ライフサイクル管理サービスなどを提供しています。
■ブルックス・オートメーションの詳しい事業内容や年次決算分析などはこちらにあります。
1-2. 発表された事業売却内容
今回発表されたのは「半導体ソリューション事業」の売却です。
売却先は、2020年にオートメーション・ファンドを設立したプライベートエクイティファームであるThomas H. Lee Partners社で、売却価格は現金30億ドルとなっています。
この売却は、2022年前半に完了する予定です。
売却される半導体ソリューション事業は、2021年6月30日までの1年間で約613百万ドル(約6.1億ドル)の売上を計上していました。
一方、継続事業となるライフサイエンス事業の同期間の売上は、約485百万ドル(約4.9億ドル)でした。
1-3. 売却益の使途・今後の方針
プレスリリース内で、売却によって得られる現金は”ライフサイエンス事業の成長加速のために使用する”と言及しています。
また、元々2021年内のライフサイエンス事業を分離する形での会社分割を予定していましたが、今回の事業売却によってこの方針は変更となりました。
事業に関連する資産と共に、ブルックス・オートメーションという名称、ブランドの所有権もThomas H. Lee Partners社に移行するため、今後ライフサイエンス事業は新しい名称となって継続されます。
2. 事業売却の注目ポイント
2-1. 株価は上がることが多い
一般的にM&Aでは、事業を売却する側(買収される側)となる企業の株価が上がることが多いです。
売却で得た資金による事業への投資・それに伴う成長に期待が集まりますし、後述するプレミアムの上乗せがあるからです。
しかし、中には2016年の日立製作所の事業売却(日立物流・日立キャピタルを売却。グループ再編などの前向きな目標を掲げたが、黒字事業を立て続けに売却したため、投資家のイメージはあまり良くなかった)のように、一時的に株価を下げる場合もあります。
2-2. 買収プレミアム
買収プレミアムとは、”買収価格”と買収される側の”時価総額”の差額です。
企業の市場価値に、どれだけの金額を上乗せして買収されたのかを見ることができます。
また、このプレミアムが乗った価格に向かって株価が上がる場合もあります。
2-3. のれん
のれんは、”買収価格”と買収される側の”純資産”の差額です。
これは、買収した側の企業の固定資産として計上されます。
企業が実際に保有している純資産(自己資本)に、どれだけの金額を上乗せして買収されたのかを見ることができます。
3. 今回のBrooks Automation, Incでは?
3-1. 概算
今回のブルックス・オートメーション半導体ソリューション事業の売却額は、どのくらい上乗せされた金額だったのでしょうか?
全事業の売却ではないので、時価総額と純資産をそれぞれ各事業の直近一年間(2021年6月30日までの一年間)の売上の割合に合わせて配分し、上乗せ額のイメージを算出してみます。
この期間、半導体ソリューション事業の売上は約613百万ドル、ライフサイエンス事業は約485百万ドルなので、56%と44%で計算しました。
■ 買収プレミアム
ブルックス・オートメーションの時価総額は、6,896.22百万ドル(※1)です。
この56%は約3,862百万ドル(約38.6億ドル)となります。
今回の買収価格は30億ドルなので、プレミアムは乗せられていないという結果となりました。(あくまで売上割合から算出した概算数値です)
(※1)楽天証券の数値を参照。2021年9月21日閲覧。
■ のれん
ブルックス・オートメーションの純資産(自己資本)は、1,307.83百万ドル(2021年6月30日時点)です。
この56%は約732百万ドル(約7.3億ドル)となります。
今回の買収価格30億ドルとは約22.7億ドルの差があり、あくまで売上割合による概算ではありますが、純資産よりかなり高値での買収という結果です。
3-2. チャートの変動
ブルックス・オートメーションの株価チャートはこのようになっています。
半導体ソリューション事業の売却が発表された2021年9月20日は、最終的に約9%上昇という結果となり、投資家のポジティブな反応を反映しました。
4. まとめ
ブルックス・オートメーション(BRKS)の売却する半導体ソリューション事業は、継続されるライフサイエンス事業よりも大きな売上を計上しています。
また、売上割合による概算では買収プレミアムは見込まれていないようでした。
しかし、のれんでの上乗せ価値は十分ありましたし、最近の成長率はライフサイエンス事業の方が高く、元々分離(企業分割)予定だったということもあってか、市場の反応は好意的です。
売却によってキャッシュが増えるので、その使い道など、今後の動向も注視していきたい企業です。
より詳しい事業内容や決算書分析をまとめた記事はこちら↓にあります。
今回の記事はBrooks Automation, Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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