アセンサス・サージカル(Asensus Surgical Inc. / ASXC)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
(旧社名トランスエンテリックス / TransEnterix / TRXC)
また、第4Qの概要・ガイダンスも紹介しています。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
■最新決算2022年度第2Qはこちら
1. Asensus Surgical Inc.(ASXC)について
1-1. 業種
健康&メディカル、先端医療機器、ロボット
1-2. 事業の概要
アセンサス・サージカルは、外科医と患者の間のインターフェースをデジタル化し、より繊細に安全な手術を行うことを目指して開発された手術支援ロボット”センハンス・サージカル・システム(Senhance Surgical System / センハンス・デジタルラパロスコピー・システム)”のメーカーです。
センハンス・サージカル・システムは、インテュイティブ・サージカル(ISRG)のダ・ヴィンチと同様、内視鏡手術(腹腔鏡下手術)の支援を行います。
ダ・ヴィンチとの主な違いは、一部の器具において既存のもの(通常の内視鏡手術で使用するトロカールなど)の使用、リユースが可能な点です。これによって、導入コストやランニングコストを抑えることができます。
他にも、張力や圧力といった触覚を執刀医にフィードバックし臓器の損傷リスクを軽減できたり、視線追跡装置で執刀医の目の動きを読み取ってディスプレーの内視鏡映像を切り替ることができます。
また、長時間画面を覗き込む姿勢となるダ・ヴィンチと違い、眼鏡型デバイスを用いているため、執刀医の身体的負担が軽減されます。
1-3. チャート
アセンサス・サージカルの株価チャートはこのようになっています。
2019年12月に株式併合を行って以来ほとんど上下がありませんでしたが、2021年年明け頃に注目を集めました。
しかしその後は下落が続いており、現在は1ドル以下で推移しています。(2022年3月1日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 株式発行による増資で自己資本比率は高い
- キャッシュフローは良くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約1,150%、当座比率は約1,006%と非常に高い(高すぎる程)の数値で、短期の資金繰りは問題ありません。
固定比率は約43%と問題のない数値です。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約91%と非常に高く、昨年から12ポイント上昇しました。
これは主に株式発行による資金調達を行い、自己資本が増加したためです。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
2021年は財務活動で株式発行による資金調達を132百万ドル行っており、これで得られた資金を投資(売却可能な有価証券の購入)に回しているようです。
2-1-4. 項目まとめ
株式による増資を行った影響で自己資本は大きいですが、キャッシュフローはよくありません。
ただ、現金を多く保有しているので、ひとまず短期の資金繰りに困ることはなさそうです。
2-2. 収益性
- ROE・ROAどちらも大きくマイナス(赤字)
- 資本も損失額も増減を繰り返している
- 2021年の損失額は前年比20%増
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
赤字のためROEはマイナスです。
2021年にROEのマイナスが小さくなっているのは、自己資本が大きく増加したためで、純損失は昨年より増加しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAもROE同様にマイナスで推移しています。
2-2-3. 項目まとめ
現状の収益性はほぼありません。
2019年以降、売上を原価が上回る年が続いています。
2-3. 経営の効率
- 売上高が足りず回転率は低い
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は昨年同様0.04回で、最低ライン1回には全く届いていません。
全体的に回転率は低いです。
2-3-2. 項目まとめ
現時点での回転率はとても低いです。
2021年の売上は前年の約2.6倍となっていますが、それでもあまり大きな改善は見られません。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上増加もコロナ前(2019年)に届かず
- 2019年以降、売上原価が売上を上回る
- 売上高研究開発費率は235%
- 2022年の導入台数目標は2021年と同様
2-4-1. 売上高と営業利益
2021年の売上は前年比159%増加となりました。
ただ、2020年は新型コロナによる手術件数減少などの悪影響を受けており、比較対象としてはあまり適しません。
コロナ前の2019年と比較すると、2021年の売上は少々少ないです。
2021年の新規導入数は10台で、導入先は1台がアメリカ、6台はEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカを指す)、3台はアジアとなっています。
このうち2台は販売され、1台はリース後の買い取りが行われました。
その他、リース料や付属品などの販売、センハンス・システムのサービス料も売上に含まれています。
なお、第3Q時点で新規プログラム開始台数は6台という記述があり、第4Qにも6台が開始とされていますが、最終的なリリースでの通年導入数は10台とされています。
いずれの年も、営業損失が売上高を大きく上回っています。
売上が原価を下回っている上、営業費用が非常に大きく(2021年は61.76百万ドル)かかっています。
なお、2019年の損失が特に大きいのは、のれんの減損処理(株価の大幅下落、売上・見積キャッシュフロー減少などの要因による)が行われたためです。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約8.23百万ドル、研究開発費は約19.35百万ドルだったので、売上高研究開発費率は235.1%です。
例年研究開発費には20百万ドル前後の資金を投じており、売上の数倍という大きな規模になっています。
2-4-3. 項目まとめ
2021年はコロナ前の売上を上回ることができず、事業費用がかさみ続けています。
ある程度の赤字であれば、事業の成長段階として許容することができますが、売上の約8倍にもなる営業損失が出ているのは少々大きすぎると感じます。
また、後述しますが、2022年の新規導入目標(ガイダンス)も10~12台としており、短期的な成長には期待しづらいです。
ただ、センハンス・サージカル・システムを利用した手術件数は増加しています。
2-5. 第4Qとガイダンスについて
2021年第4Qは、売上2.48百万ドル、粗利益0.19百万ドル、営業損失15.68百万ドル、純損失15.88百万ドルという結果です。
第4Qのみを見ると売上が原価を上回り粗利益が発生していますが、これは2020年も同様だったため(その後再び原価が売上を上回った)、今後も安定して粗利益を出すことには期待しづらいです。
センハンス・サージカル・システムを利用した手術件数は500件以上で、前年同期比30%の増加を示しています。
2022年通年のガイダンスでは10~12台の新規導入を見込んでおり、2022年後半には、関節器具の本格的な商品化、小児適応のFDA認可の申請、ISUマシンビジョン機能拡張のCEマーク(EUでの安全証明)取得といった目標の達成を予定しています。
2022年の目標導入台数”10台~12台”は、2021年の目標と同じです。
なお、アナリスト予想(※Yahoo!financeより。2022年3月1日閲覧)の通年売上は11.17百万ドルで、2021年比36%の成長が予測されています。
3. まとめ
クロとしては、アセンサス・サージカル(ASXC)は、手術支援ロボット開発に専門的に取り組む企業として、引き続き追っていきたいと思っていますが、購入はまだ見送りたい銘柄です。
2021年に10台導入という目標を達成したことは大きいですが(目標は10~12台だった)2022年の導入予定も10~12台で横ばいとなっています。
売上の大きな伸びには期待しづらく、次回決算でも大きな赤字が出る可能性が高いです。
手術件数の増加・導入台数の累計数の増加によって、消耗品やサービス料といった売上の積み増しが見込めるはずなので、それらも踏まえて今後の展開を注視していきたいと思います。
今回の記事はAsensus Surgical Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
コメント