アクアバウンティ【AQB】銘柄分析_バイオテクノロジーでSDGs食糧目標に取り組む

米国株の年次決算書・銘柄分析
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アクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies Inc / AQB)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。

まだ収益化に至っていない企業なので、事業内容や市場に関する内容に重点を置いた内容になっています。

  • 安定性(資金繰り)
  • 収益性
  • 経営の効率※まだ売上は非常に小さい
  • 成長への期待

それでは見ていきましょう。

1. AquaBounty Technologies Inc(AQB)について

1-1. 業種

バイオテクノロジー、養殖

1-2. 事業の概要

アクアバウンティ・テクノロジーズは、陸上に養殖場を建設し、独自の遺伝子組み換え技術によって成長にかかる時間を約半分に短縮した養殖アトランティックサーモン(サケ)”AquAdvantage salmon(アクアドバンテージ・サーモン)”を提供するESG銘柄としても注目を集める企業です。

2017年にカナダで販売した実績があり(ただしこの時は遺伝子組み換え表示は無かった)2021年5月に米国内で出荷が始まりました。

効率性、持続可能性、収益性を掲げたこのサーモンの供給は、今後の世界人口の増加とそれに伴う食料不足(タンパク質需要の増加に加え、現在、魚の乱獲による漁獲量低下も問題となっている)を見越した事業です。

アクアバウンティのサーモンは、FDA(米国食品医薬品局)やカナダの保健省から、製造・販売の認可を既に受けており、2021年6月にブラジルでの販売も承認されました。
現在は更に中国、イスラエルの規制当局にも承認を求めているところです。

陸上の循環型養殖システムを使用しているということも大きな強みです。
配送拠点や市場の近くに建設して輸送費を抑え、二酸化炭素の排出量を削減することができますし、従来の養殖のように海の中で育成するよりも病気に感染するリスクが小さいため、抗生物質や汚染の少ない健康的なサーモンの成長を可能にします。

また、遺伝子組み換えによって成長が速い上、必要な飼料の量も従来より少ないとされています。

記事作成時点では1,200トンと250トンの2つの養殖場を保有しており、現在はオハイオ州での10,000トン規模の巨大な養殖場建設に取り組んでいます。
3億ドル前後を投資するこの養殖場では、2023年に商業運用が開始される予定です。

また、さらに7~10年間のうちに、同様の10,000トン規模の養殖場を3~4つ増やす方針が示されています。

1-2-1. 市場規模

2020年の決算書内で公表されているFAO(国際連合食糧農業機関)のデータによると、2018年のサーモンの市場規模は約170億ドルだとされています。

米国での市場規模としては、輸入量326,000トン、総額約34億ドルです。

サーモンは米国で2番目に消費されるシーフードだとされていますが、米国内の養殖は生産コストなどの要因で1990年代から大幅に縮小され、2018年の養殖生産量は16,000トンにすぎません。

1-2-2. 懸念点

アクアバウンティのアクアドバンテージ・サーモンへの懸念点は大きく分けて2つあります。
一つは”遺伝子組み換え(GE)食品に対する消費者心理”、もう一つは”遺伝子が組み換えられた個体や卵の流出による生態系への影響”です。

特に生態系への影響の懸念は強く、一部の食品サービス大手は「遺伝子組み換えサーモンを使用しない方針」を発表していますし、漁業者からFDAの認可取り消しを求める訴訟が起きたこともありました。(結果として取り消しには至らなかった)

また、消費者保護の観点などから、提供時の”遺伝子組み換え食品である明確な表示”を求める動きも強いです。

1-3. チャート

アクアバウンティ・テクノロジーズの株価チャートはこのようになっています。
2020年11月末から急激に株価が上昇しましたが、2021年1月末頃から下落に転じました。その後は多少の上下があるものの下落傾向は変わらず、現在はほぼ最安値と言える状況です。(2022年1月24日時点)

2. 決算書(10-K)の分析

2-1. 経営の安全性(資金繰り)

  • ひとまずの資金繰りは問題なし
  • 頻繁な資金調達で自己資本比率は高い
  • まだ事業から現金を生み出せていない

2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

2020年決算書におけるAQB貸借バランス

(単位:百万ドル)

貸借バランスは”安定タイプ”です。

債務や株式の発行で大量の資金を調達しているので、流動性の比率は高すぎる程(約4,500%)です。
固定比率も24%と低く問題ありません。

2-1-2. 資本の比率

自己資本比率は91%と非常に高いです。

2-1-3. キャッシュフロー

2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。

2020年には遺伝子組み換えを行ったアクアドバンテージ・サーモンの販売がなく、事業からは大きな赤字が出ています。

また投資活動では、養殖場や設備に大きな資金を投じており、最終的にマイナス収支です。

財務活動においては、債務発行、株式公募による多額の資金調達によって、大きなプラス収支となりました。

2-1-4. 項目まとめ

ひとまずの資金繰りには問題ないと考えられます。
また、2021年にも公募を行うなど積極的な資金調達を行っているので、2021年第3Q終了時点(記事作成時点の最新決算)でも多くの現金を保有しています。

ただ、現状は事業から現金を生み出せておらず、キャッシュフローは良くありません。

2-2. 収益性

  • 2020年はGEサーモン出荷なし
  • 事業は赤字続き

2-2-1. ROE(自己資本利益率)

AQBのROE(自己資本利益率)推移_2020

純損失は年々増加しています。
2020年のROEのマイナス値の大幅な減少は自己資本の増加(増資)によるものです。

2-2-2. ROA(総資産利益率)

AQBのROA(総資産利益率)推移_2020

ROAもROE同様に上下しています。

2-2-3. 項目まとめ

現時点の収益性はほぼありません。
今後、生産と出荷がどこまで拡大できるのかがカギとなります。

2-3. 経営の効率

  • 売上が小さく回転率はほぼゼロ

2-3-1. 各回転率

GE(遺伝子組み換え)アクアドバンテージ・サーモンの売上がゼロということもあって、売上が小さく、どの回転率もほぼゼロなので割愛します。

2-4. 成長している・していく企業か

  • 2020年の売上はGEサーモンなしで13万ドル
  • 2021年からGEサーモンの本格的な供給開始
  • 売上を原価が大きく上回り、損失は拡大中

2-4-1. 売上高と営業利益

AQBの売上高推移_2020

売上はまだまだ非常に小さい状況です。
2019年はデモンストレーション・ファームによるアクアドバンテージ・サーモンの売上がありましたが、2020年はそれがなく、従来のサーモンによる売上のみでした。

2021年5月末~6月頃から商業出荷が始まり、2021年第1Q~第3Qの9ヶ月間で(記事作成時点の最新決算は第3Q)0.76百万ドル(約76万ドル)の売上が発生しています。

なお第1Qの売上は74.4千ドル、第2Qは227.4千ドル、第3Qは455.4千ドル、伸び率はそれぞれ206%、100%です。

AQBの営業利益・損失推移_2020

営業損失は増加しています。これは2021年第3Qまでを見ても、前年同期比で大きくなっています。

人員の増加、飼料費、輸送費などといった原価が売上を大きく上回っており、2021年第3Qに関しては、第2Qの予想よりも生産量が小さく、輸送コストが増加したという結果でした。

2-4-2. 研究開発費

2020年の売上高は約0.13百万ドル、研究開発費は約2.36百万ドルだったので、売上高研究開発費率は1,800%超えという本来あり得ない数値です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は7.8%とされている)

現状はまだ安定生産・出荷ができていないので仕方ないですが、この状況が長く続くようであれば収益化は難しいでしょう。

※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019

2-4-3. 項目まとめ

事業自体は今後の世界的問題解決の一役を担うものだと感じますが、製品の商業出荷を開始したばかりで、売上の拡大速度はまだわかりません。

現状は売上が小さく、研究開発費や減価といったコストが非常に膨らんでいる状態です。

3. まとめ

クロとしては、アクアバウンティ・テクノロジーズ(AQB)は事業内容に期待したい気持ちもありますが、現状はリスクが高いため購入は一旦見送りたいと思います。

商業出荷が開始してから約1ヶ月間しかなかった第2Q(4月~6月)と、その後の第3Q(7月~9月)の伸び率が100%だけという点を見ると、短期的に生産量が増えることには期待しづらいです。

ただ、食糧危機は今後避けて通れない問題なので、動向は注視し続けていきます。

今回の記事はAquaBounty Technologies Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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