エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals Inc / APD)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Air Products and Chemicals Inc(APD)について
1-1. 業種
化学品、産業ガス、製品
1-2. 事業の概要
エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズは、産業ガスや関連製品を提供する大手メーカーで、世界最大規模の水素サプライヤーでもあります。
化学、金属、電子機器、製造、食品、医療など様々な分野に向けて産業ガスや技術ソリューション、特殊化学品や関連機器などを提供し、収益を得ています。
この産業ガスには、酸素や窒素などの大気ガス、水素やヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素などの特殊ガスが挙げられます。
また、クリーンエネルギーに関する取り組みも行っており、ブルー水素やグリーン水素のプラント、大規模な炭素回収施設システムなどを手掛けています。(ブルー水素は生産時に炭素回収を行い、実質的に二酸化炭素を排出しない方法で生産された水素を、グリーン水素は再生可能エネルギー由来の二酸化炭素を排出しない方法で生産された水素を指す)
また、世界各国から注目を集めるサウジアラビアのスマートシティ”NEOM”において、ACWA Powerと合弁事業を行っています。
これは太陽光や風力といった再生可能エネルギーを用いて、1日650トンの水素の生産、年間120万トンの無炭素アンモニアの生産などを行うプロジェクトです。
なお、エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズは40年連続増配中(記事作成時点)となっており、配当の面でも魅力的な銘柄です。
1-3. チャート
エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズの株価チャートです。
2020年2月頃の新型コロナ感染拡大の影響で、一時的に株価は急落しました。
その後は大きく上昇していますが、全体的に上下の動きは少々激しい傾向にあります。
この上下の中で何度か300ドルを超えていますが、現在は約240ドルとなっています。(2022年6月23日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 資金繰りには問題なし
- 自己資本比率は50%
- キャッシュフローも安定
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
流動比率、当座比率どちらも300%近くあるため、ひとまずの資金繰りには問題ありません。
固定比率は100%を超えているものの、純資産と固定負債で十分まかなえています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は約50%と高めの数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという組み合わせで、フリーキャッシュフローはプラスです。
事業で安定した利益を確保しており、営業活動によるキャッシュフローはプラス収支です。
投資活動では、プラントや設備への投資の他、有価証券の購入支出も大きな割合を占めています。
財務活動での支出のほとんどは、株主への配当金の支払いです。
2-1-4. 項目まとめ
全体的に問題はなく、安定性は十分です。
2-2. 収益性
- ROE・ROA共に米国平均程度
- 純利益額は年々増加
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

純利益、自己資本のどちらも毎年増加しており、最近のROEにはあまり大きな変動がありません。
自己資本比率は高めですが、その中でも米国平均とほぼ同程度のROEを維持しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAはROEと異なり、2020年度に約2ポイントの低下を見せています。
これは債務による資金調達で総資産が急激に増加したことが大きな要因となっています。
ROAの数値自体は十分米国平均の範囲内です。
2-2-3. 項目まとめ
収益性は十分と言える内容です。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は低い
- プラントや設備といった資産が大きい
- 在庫は抑えられている
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は0.4回程度と低めです。
これには、事業の性質上、プラントや設備といった資産が大きいことが影響しています。
なお固定資産に関しても同様です。
一方在庫は抑えられており、棚卸資産回転率は高めです。
2-3-2. 項目まとめ
売上から見ると少々資産が大きすぎるようにも見えますが、事業の性質上プラントなどの施設は必須なので、この数値に大きな問題は無いと考えられます。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年度は17%の売上成長
- 営業利益の伸び率は鈍化
- 近年はコストが大きく増加
→一部は顧客に転嫁可能 - 売上高研究開発費率は低め
- 水素事業などはまだ収益が小さい
2-4-1. 売上高と営業利益

売上は横ばいの年が続いていましたが、2021年度は前年比17%増加しました。
これは天然ガスのコスト増加(売上の約半分を占める契約で、顧客への転嫁が可能。特に下半期に大きく変動した)販売量の増加、為替の変動などによるものです。
なお、2022年度上半期(記事作成時点の最新決算)を見ると、前年同期比22%の売上増加となっています。

営業利益は年々増加していますが、2021年度の伸び率は2%と少々低い結果でした。
この伸び率の鈍化にはインフレなどによるコスト増加も影響しています。
また、2022年度の上半期では、営業利益は前年同期比とほぼ横ばい(0.2%程度の減少)となっています。
これは販売量増加や価格上昇が、コストの増加で相殺されてしまったためだとしています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約10,323百万ドル、研究開発費は約93.5百万ドルだったので、売上高研究開発費率は0.9%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は3.5%とされているため、平均よりはかなり低めの数値です。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
安定した売上と利益を出している企業で、最近のコスト増加、天然ガスの価格上昇が売上面の追い風となっていますが、利益面でのメリットはあまりないようです。
また、現状はクリーンエネルギーや水素に関する事業から大きな収益を上げているわけではなく、長期的な成長のカギはこの分野が握っていると考えられます。
3. まとめ
クロとしては、エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(APD)は、タイミングを見て保有したい銘柄です。
ここ数年の売上は停滞していましたが、その間にも営業利益は徐々に増加しており、更に最近の価格上昇を追い風にしている点、長期的には炭素回収やクリーンな水素事業などからの利益拡大も見込める点が魅力です。
現在は市場全体を揺るがすインフレや金利上昇、QTといった大きなイベントがあるため、様子を見つつ保有を検討したいと思います。
今回の記事はAir Products and Chemicals Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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