アマゾン・ドット・コム(Amazon.com Inc / AMZN)の決算書(10-K)・銘柄分析について、2021年度決算を踏まえた内容に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. Amazon.com Inc(AMZN)について
1-1. 業種
EC・小売、配送、クラウドサービス、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
Amazonは、オンライン小売事業の最大手かつ、様々なサービスや製品を提供するテクノロジー企業です。
様々な商品の売買が可能なECサイト”Amazon”が有名ですが、電子書籍のKindle、テレビでインターネット動画を閲覧可能なFire TV、スマートスピーカーAmazon Echoとその音声アシスタントAlexaなど、様々な製品の開発・製造・販売も行っています。
また、Amazon Web Service(AWS)というクラウドサービスも展開しており、グローバルクラウド市場ではトップシェア(Synergy Researchの調査では、2021年第4Qでも33%のシェアを持ち、トップを維持。なお2位はシェアを急速に伸ばしているMicrosoft Azureで、22%)を誇ります。
AWSは様々な機能・サービスを提供することができ、Ground Stationという、宇宙関連企業へのサービスもあります。(衛星通信・データ処理などを行う。地上基地局が不要に。ロッキード・マーチンやマクサーも利用)
これらのAWS事業が売上に占める割合は約13%(2021年)で、昨年より1ポイント増加しました。
他にも、Amazon Prime(サブスクリプション)など、ECの売上だけではない収益源を持っています。
1-2-1. 最近のアマゾンの動き
2022年2月3日、第4Qの決算と同時に、Amazon Primeの会費値上げを発表しました。
値上げ理由は特典の拡大、賃金や輸送費の上昇としており、米国を対象に、月額料金12.99ドルを14.99ドルに、年会費119ドルを139ドルに変更する予定です。
また、2022年2月8日にはAmazonケア(従業員向けからスタートした遠隔医療・テレヘルスサービス)が全米で利用できるようになったことを発表し、2022年2月17日にはAWSのAerospace and Satellite Solutions(航空宇宙や衛星産業の専門部署。元空軍少将が率いることでも話題に)が、ブラジル宇宙機関と提携したことを発表するなど日々事業を拡大し、挑戦を続けています。
また、エンジニアなどの従業員の基本給上限を年間16万ドルから35万ドルに引き上げることも発表されました。
優秀な従業員を確保するための施策だとされていますが、一部ではストックオプションの価値低下、つまり自社株の成長に陰りが出てきたことなどを指摘する声もあります。
1-3. チャート
Amazonの株価チャートはこのようになっています。
2020年2月のコロナ感染拡大で一時下げた後非常に強く上昇しましたが、その後は上下を繰り返しつつ停滞気味でした。
最近では市場の波もあって下落が起きています。(2022年2月19日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率・固定比率は若干低め
- 自己資本比率は33%(上昇傾向)
- キャッシュフローは問題なし
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

(単位:百万ドル)
貸借バランスは”ギリギリ運用タイプ”です。
流動比率は約114%、当座比率は約90%で、短期の資金繰りに問題があるほどではないですが、若干低めの数値です。
固定比率は約187%ですが、純資産と固定負債でカバーできています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は33%で、低くもないですが、特別高い数値ではありません。
なお、昨年と比較すると4ポイント上昇しました。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローはマイナスです。
営業活動は安定してプラス収支ですが、最終的な収支額(営業活動から生み出された現金)は昨年より減少しました。
また、投資活動で有価証券の売買を積極的に行っていること、財務活動では債務による収入と返済を毎年行っていることは昨年と変わりありませんが、2021年は特に債務による収入が大きかったため、財務活動がプラス収支となっています。
2-1-4. 項目まとめ
若干現金が少なく、自己資本のみならず債務も増加していますが、問題がある内容ではありません。
2-2. 収益性
- 収益性は米国平均程度はある
- 2021年はROE・ROA上昇
2-2-1. ROE(自己資本利益率)

ROEは米国平均をおおむね超えており、年々純利益が増加しています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)

ROAもROE同様の上下をしています。
米国平均に届く数値です。
2-2-3. 項目まとめ
ROEとROAの結果を総合すると、収益性は米国平均程度と言えます。
2015年以降は黒字決算を続けており、かなりの速度で利益を拡大しています。(2015年の純利益は約6億ドル、2021年は約334億ドル)
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は最低ラインをクリア
- 2021年は回転率低下
2-3-1. 各回転率

総資本回転率は最低ラインをクリアしていますが、資産が大きく増加し続けているため、各種回転率が低下傾向にあります。
2021年は特に土地建物や機械装置などの資産が増えました。
また、政府や企業などの有価証券も多く保有しています。
2-3-2. 項目まとめ
資本に対して十分な売上が上がっています。
ただ、2021年は3種類の回転率すべてが昨年より低下しました。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高・営業利益共に増加を続けている
- 好調だった2020年を超える売上・利益
- AWSの利益が増加したものの、他セグメントは減少
- 事業外収益(リビアンの株式による収益)が118億ドル
- 売上高研究開発費率は約12%
2-4-1. 売上高と営業利益

売上は年々増加しています。
2021年の売上は、新型コロナ感染拡大によって需要が強まった2020年と比較しても、22%の成長となりました。
ちなみに、総売上の67%はアメリカで発生(2021年)しています。

営業利益も増加を続けています。
ただ、最終的な純利益(事業外の要因を含んだ利益)の増加率と比較すると、営業利益の伸びは小さいです。
これは事業外の収益として、リビアン(RIVN)の保有株式の評価益が118億ドル発生したためです。
また、AWSセグメントからの営業利益は増加しましたが、北米、インターナショナルセグメントからの利益は減少しています。
特に、2020年に赤字から黒字へ転換したインターナショナルセグメントは、再び赤字となりました。
これらの利益の減少要因には、フルフィルメントへの投資増加、賃金等の増加、配送料やフルフィルメント費用の増加などが挙げられます。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約469,822百万ドル、研究開発費は約56,052百万ドルだったので、売上高研究開発費率は11.9%となります。
なお、科学技術・学術政策研究所によると※1米国では企業の規模が大きくなるにつれて売上高研究開発費率は下がる傾向にあるとされており、大規模(従業員数1万人以上)企業の平均は3.5%です。
Amazonの2020年の従業員数は約160万人なので、一概に平均値との比較ができませんが、かなり研究開発に力を入れていることは間違いありません。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2021年は、好調だった2020年の売上・利益を超える結果となりました。
ただ、非常に大きい純利益のうち44%(税金などを考慮せず、純利益額と事業外収益のみで計算)が事業外からのものであったことは残念です。
また、AWSからの利益が増加したものの、それ以外からの利益が減少している点も気になります。
ただ、新しい取り組みには期待したいです。
3. まとめ
クロとしては、Amazon(AMZN)は一旦様子を見たい銘柄だと判断しました。
新しい事業・取り組みには期待していますが、売上の大半を占めるセグメントからの利益が減少したことが気がかりだからです。
高インフレによる一時的な側面もあると思いますが、経済の先行きが不透明な今、わざわざ保有する必要はないと考えています。
ただ、今後も発表やニュースには目を向けておきたい銘柄です。
今回の記事はAmazon.com Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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