アミリス【AMRS】銘柄分析_合成生物学で環境に負荷をかけず有効成分を製造

米国株の年次決算書・銘柄分析
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アミリス(Amyris Inc / AMRS)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。

  • 安定性(資金繰り)
  • 収益性
  • 経営の効率
  • 成長への期待

それでは見ていきましょう。

2022年度第2Qはこちら

1. Amyris Inc(AMRS)について

1-1. 業種

素材産業、化学、バイオテクノロジー

1-2. 事業の概要

アミリスは、天然・持続可能な素材を利用し、合成生物学を用いて生み出した有機化合物を、開発・製造・販売するメーカーです。これによって、様々な成分を安価で安定的に、そして環境に負荷をかけずに提供できるとしています。
また、自ら化合物を利用して、スキンケア用品やゼロカロリー甘味料を製造し、販売しています。

合成生物学をざっくりと説明すると、細胞や遺伝子という部品を使って、人工的に生物システムなどを組み立てる学問分野で、遺伝子組み換え技術に近いです。
元になる物質の遺伝子を設計し、目的物質を生産する代謝経路(この場合の代謝は合成や分解などの化学反応。代謝経路はその一連の反応)を構築することで、様々な機能性物質を生産できると期待されています。

アミリスは、サトウキビなど植物由来の糖質を、微生物(酵母など)を利用して他の機能を持つ成分に代謝する技術を持っています。

こうして作られた再生可能ファルネセン(炭化水素分子。炭素と水素だけからなる分子のこと)の独自ブランド”Biofene(バイオフェネ)”は、栄養補助食品、スキンケア製品、溶剤、香料、燃料などの様々な製品に向けた開発が進められ、商業化されています。

サメの肝油を元に作られる、安全で湿潤性の高い美容成分と言われる”スクワラン”も、アミリスはファルネセン由来で生み出すことに成功し、サメの乱獲を防ぐ一助となりました。

近年は過去の開発データやAIを統合し、開発と商業化の加速や、タンパク質などの大きな分子を製造できる技術も開発したとしています。

また、ファルネセン以外にも大麻成分やフレーバー&フレグランス分子、バイオ燃料、医薬品の原料などを扱っています。

1-3. チャート

アミリスの株価チャートはこのようになっています。2010年9月にIPOすると株価は上昇し一時は500ドルにまで達したものの、その後は下落が続き、2016年6月頃からは10ドルを切ってしばらく数ドルで推移を続けました。
しかし2020年末頃から急激に株価が上昇しはじめ、上下しつつ現在は10~15ドル程度で推移しています。(2021年7月29日時点)

2. 決算書(10-K)の分析

2-1. 経営の安全性(資金繰り)

  • 債務超過が続いている
  • 2020年末時点は現金が少ない
    →第1Q末に改善したが、債務超過のまま
  • キャッシュフローは良くない
  • 頻繁に株式発行している

2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

2020年決算書におけるAMRS貸借バランス

(単位:百万ドル)

貸借バランスは”不安タイプ”かつ総資産以上に負債の大きい債務超過状態です。

流動比率は約90%、当座比率は約50%で、短期の資金繰りはかなり不安です。

2-1-2. 資本の比率

自己資本比率はー80%です。ここ数年と比較するとマイナス値が小さくはなったものの、かなり負債が大きい状態です。

2-1-3. キャッシュフロー

2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという組み合わせで、フリーキャッシュフローもマイナスです。

事業が赤字で営業活動がマイナスとなっています。
また、資金調達を毎年行っているため財務活動は大きくプラスです。株式発行による増資も頻繁に行われており、株式価値の希薄化が進んでいます。

2-1-4. 項目まとめ

安定性はかなり低いです。
第1Qにロイヤルティを得られたことで現金が増加し、年次決算時点での現金の少なさは改善されていますが、債務超過のままで、負債はむしろ増加しています。
米国の大企業には債務超過のものもありますが、キャッシュフローの安定しないアミリスの債務超過はあまり安心できません。

2-2. 収益性

  • 売上は増加するも赤字続き
  • 事業外の損失も大きい

2-2-1. ROE(自己資本利益率)

債務超過のため割愛

2-2-2. ROA(総資産利益率)

AMRSのROA(総資産利益率)推移(2020年)

2020年は総資産の1.5倍近くの純損失が発生しています。

2-2-3. 項目まとめ

売上が増加している中で純損失も増加しています。
事業外の損失もかなりあります。

2-3. 経営の効率

  • 総資本回転率は許容範囲に近い
  • 在庫は増加中

2-3-1. 各回転率

AMRSの総資本回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率(2020年)

総資本回転率は約0.8回で、1回には達していませんが許容範囲に近い数値です。
固定資産回転率は約2.3回です。

棚卸資産回転率は約4回です。在庫が増えているため下降傾向にあります。

2-3-2. 項目まとめ

総資産があまり大きくないため、回転率は最低ラインとされる1回に近い数値(最低ラインより低い企業も多くある)です。

2-4. 成長している・していく企業か

  • 2020年の売上は前年比13%増加
  • 営業損失の減少はなく、最終的な純損失は増加
  • 売上高研究開発費率は40%超え

2-4-1. 売上高と営業利益

AMRSの売上高推移(2020年)

2020年の売上は前年比13%増加しました。

2018年の売上の減少には、製品売上、助成金など全てのセグメントが影響していますが、特にライセンス・ロイヤルティ収入の減少が大きな原因でした。
2019年に再びこれらの収入は増加しています。

2020年は消費者向けの製品(スキンケア用品や甘味料など)販売が好調で、2019年から197%も売上が増加し、製品売上の伸び(前年比74%増加)を後押ししました。
その一方で、ライセンス・ロイヤルティ収入は6%減少、助成金収入は54%減少しています。

AMRSの営業利益推移(2020年)

営業損失はあまり減少していません。
また、ここには含んでいませんが、支払利息や債務の価値変動による損失など、事業外の費用も多く発生(2020年は200百万ドル)しています。

2-4-2. 研究開発費

2020年の売上高は約173.14百万ドル、研究開発費は約71.68百万ドルだったので、売上高研究開発費率は41.4%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.4%とされており、研究開発費率は平均の10倍近い結果です。

※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019

2-4-3. 項目まとめ

売上は増加傾向にあり、研究開発にもかなりの資金を投入しています。
積極的な研究開発が必須の業界・業種なので、それに意欲的なのは良いことですが、商品を販売し始めてからもほぼずっと赤字が大きく、なかなか黒字になる未来が見えてきません。

3. まとめ

クロとしては、アミリス(Amyris Inc)は一旦購入を見送りたい銘柄です。

有機化合物の人工合成、自然由来の物質、それぞれのデメリットを解消し、大手とも取引のある魅力的な事業を行っていますが、商品の販売を始めてかなり経っても赤字から抜け出せていない(赤字の減少もできていない)点が気になります。

第1Qは、フレーバー&フレグランス事業をDSM社に売却(ただし、15年間の製造契約も締結し、今後マイルストーンも得る予定)したこともあって、売上が前年同期比の500%アップかつ営業利益の発生という内容でした。
しかし事業外費用が膨らみ、最終的には純損失額が230%増加しています。

その事業外費用として最も大きいのが債務の価値変動です。
アミリスは転換社債を発行しているため、株価が上がるとその分この費用(損失)が増加して最終利益の圧迫につながります。

また、2021年の売上は事業売却の影響も有って好調となるかもしれませんが、その後の売上がそれ以上に飛躍するかはわかりません。

今回の記事はAmyris Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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