今回はアレジオン(Allegion Public Limited Company / ALLE)の決算書(10-K)について分析しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性※コロナ状況下
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. アレジオン(ALLE)について
1-1. 業種
建築製品、セキュリティ関連、ネットワーク&通信
1-2. 事業の概要
アレジオンは130ヶ国もの国に拠点・ブランドを持つ、ドアロックやドア周辺のセキュリティ専門のメーカー企業です。
スチール製のドアやフレームはもちろん、ロックやアクセス制御など、出入り口のセキュリティを幅広く提供しています。
その商品は商業施設や住宅だけでなく教育の場や政府機関にも導入されており、米国国防総省のガイドラインに沿った耐爆風ドアなどもラインナップされています。
1-3. チャート
アレジオンの株価チャートはこのようになっています。
2020年2月頃コロナ前につけた最高値に、あと一歩戻り切れずにいます。(2021年3月3日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 流動比率、当座比率は安心できる
- 自己資本が少なめで少々不安
- 現状、キャッシュフローは良好
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”おおむね安心タイプ”です。
(貸借バランスのタイプ判断については、こちら↓の記事にて紹介しています)
流動負債が少ないため、流動比率は200%を超えており、当座比率を見ても150%程度あります。
この比率はかなり安心できる数値です。
世界中にブランドを持っているため、のれんや無形固定資産が多くなっています。
一方で、固定比率は約230%となっています。
固定資産の半分以上は固定負債によってカバーされていることがわかります。
この固定負債の大半は長期債務で、確認できた2015年頃からずっと同程度の債務が計上されています。
(貸借貸借表の各比率については、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は、約27%です。
2017年から見ると少しずつ上がってきていますが、まだ少々低めの数値です。
2-1-3. キャッシュフロー
本業を含む営業活動のキャッシュフローは最終的にプラスで、本業で継続的に利益を出せています。
一方で投資活動のキャッシュフロー、財務活動のキャッシュフローはマイナスでした。
本業の黒字も継続されており、まさに「安定タイプ」です。
2018年には計6件の買収を行っており、一時的に投資活動のキャッシュフローにおけるマイナスの金額が大きくなりましたが(それでも営業活動と同程度の割合)、翌年からは元通りになっています。
また、何年もの間財務活動のキャッシュフローの金額が大きくなっていますが、これは自社株の買戻しによるものです。
2020年以降も随時買戻しを行うとのことなので、今後もこのバランスは継続されるでしょう。
(キャッシュフロー計算書を見る際のポイントや判断基準はこちら↓の記事で詳しく紹介しています)
2-1-4. 項目まとめ
自己資本比率のがやや低い点と、それによる固定比率の高さが気になりますが、比較的安心できる内容と言えるでしょう。
長期債務の金額は長い間大きく変わっていないので、現状では返済に無理がないと考えられます。
ただし、もしも売上減少などが続いて収入が長期的に減ってしまったとしたら、この返済に多少の影響が出てくる可能性もゼロではありません。
2-2. 収益性
- 2020年はコロナの影響でROE、ROA低下
- 低下後も、どちらも平均以上
- ただし自己資本比率が低いため、
元々ROEは高くなりやすい
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
黒字を維持していますが、2020年は売上高が約1.3百万ドル減少、利益は前年比約88百万ドル減少となりました。
2020年のROEは約38%で、それ以前の約50~70%と比較するとかなり下がってしまいました。
米国のROE平均が16~18%と言われているので、それでもなかなか高い数値ではあるのですが、アレジオンは自己資本が少ないため一概に良好とは言えません。
ただ、ここ数年で自己資本は約400百万ドルから約820百万ドルへ増加し、自己資本比率も約15%から約27%へ改善してきています。これらはもちろん良いことですが、ROEを下げる一因にもなるので、実質的にはそこまで極端に利益率が悪化したわけではありません。
なお、売上高の減少はコロナ感染拡大の影響が表れたとされており、同様の理由で行った商号の中間減損テストでの”96百万ドルの減損”も、利益圧迫の原因だとしています。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAも2020年は前年より下降し、約10%となりました。
ROAは米国の平均が6~8%程度と言われているため、こちらも平均以上はキープできたようです。
ただし、コロナの影響のない2019年の時点から、ROAは既に前年より下がっています。
これは売上高と利益の伸び率が鈍化してきたことによるもので、特に2019年に行った一部の生産資産売却の売却損が、利益率低下に影響しています。
2-2-3. 項目まとめ
直近数年は利益の伸びが緩やかになっていましたが、2020年はコロナ感染拡大によって減収減益となり、利益でいうと約88百万ドル減少してしまいました。
この銘柄、業種は今回のような特殊な状況からマイナスの影響を受けるものだということを肝に銘じておきましょう。
売上高や利益の減少は残念ですが、黒字を維持していることは評価できます。
2019年の利益減少には一時的な要因もかなり影響しているので、社会状況が元に戻った際にどうなるか見ていきたい銘柄です。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率、固定資産回転率は少し低め
- 棚卸資産回転率は平均上位
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は約0.9回転です。1回転には届いていませんが、そんなに気にする程悪くはありません。
ただ、2017年まで確認しましたが、いずれも0.9回前後でした。
固定資産回転率は約1.4回と低めです。固定資産がかなり多いのが影響しています。
棚卸資産回転率は約9.6回と平均~平均以上の数値です。
2-3-2. 項目まとめ
総資本と固定資産から見た効率は少々物足りませんが、在庫数は適切に管理されています。
世界各国に拠点を持つ事業形態から固定資産の大幅削減は難しいと考えられるので、売上を増加させないと数値改善は難しいでしょう。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上・営業利益が2020年は減少
- 2020年も黒字はキープ
- 研究開発費用は売上に対し少なめ
2-4-1. 売上高と営業利益
上昇し続けていた売上高ですが、2020年で下降に転じました。
営業利益も同様に、2020年は減少しています。
売上高の伸び率よりも営業利益の伸び率の方が低く、かつ2020年の下降率も大きい結果となりました。(商号の減損が影響)
2-4-2. 研究開発費
2020年の売上高は約2,720百万ドル、研究開発費は約54.4百万ドルだったので、売上高研究開発費率は約2%となります。
これはなかなか低めの数値です。科学技術・学術政策研究所によると※1同規模の米国企業では3.5%程度が平均とされているので、平均をも下回ります。
ちなみに2017年まで確認しましたが、いずれも研究開発費は約48~54百万ドルなので、コロナの影響で減少した数値ではありません。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上高と営業利益が、2020年は減少しました。
繰り返しになってしまいますが、コロナなど感染症拡大の影響は少なからず受ける業種なのですね。
ただ、その中でも黒字を維持し資産を減らしていないことは評価できます。
しかし、研究開発費や売上・営業利益の伸び率を見ると成長性はあまり感じられません。
3. まとめ
ここまで見てきた結果、クロはアレジオン(ALLE)は「成長ではなく安定志向」の銘柄だと判断します。
長期債務がずっとあることは気になりますが、現状は返済に問題がなさそうですし、他の項目は優秀なので、資金繰りは安定していると考えます。
コロナ感染拡大の影響を受け減収減益となりましたが、黒字で持ちこたえる耐久力があった点も評価できます。
しかし、売上に対する研究開発費の割合が低いことや、営業利益や売上高の伸び率が低めという点から、成長性はあまり感じられませんでした。
また、特殊なドアやロック製品の販売に関しては、他のメーカーが参入しづらいメリットがある一方、今以上に需要が開拓できるのかという不安もあります。
もしアレジオン株の購入を検討する場合は、配当金も視野に入れると良いかもしれません。
アレジオンの配当は過去6年間増配を続けており、2021年2月にも更なる増配を宣言しました。
2020年実績の配当性向は約38%と、減収減益による突発的な減配リスクが小さく、安心できる数値です。
配当利回りは、2020年配当金1.28ドルと現在の株価112ドル(2021年3月3日時点)から計算すると、約1.14%となります。
また、今後も自社株の買戻しは行われる予定となっています。
今回の記事はAllegion Public Limited Companyの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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