シースリー・エーアイ(C3.ai Inc / AI)の決算書(10-K)分析やニュースについて2021年決算を中心に更新しました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待
それでは見ていきましょう。
1. C3.ai Inc(AI)について
1-1. 業種
クラウドベースAI(人工知能)のパッケージソフトウェア、テクノロジーサービス
1-2. 事業の概要
シースリー・エーアイは、企業向けのAIソフトウェアをクラウド型サービス(SaaS)として提供しています。大きく分けると、顧客独自のAIアプリケーションの開発・運用の包括的なプラットフォームと、既に構築済みのターンキーSaaSアプリケーションの2種類を柱としています。
大手顧客が多く、金融、ヘルスケア、米軍、油田サービス企業などと取引があり、その契約金もかなり高額です。
ただ、近年取り組んでいるマーケットパートナーと共に利益を得るエコシステムの拡大に伴い、平均契約額は減少傾向(2021年4月締めの一年間では7.2百万ドル)で、今後もこの傾向は続くとしています。
このパートナーの例として、Amazon Web Services(AWS)、Baker Hughes、Fidelity National Information Services(FIS)、Google、Microsoftなどの有名なテクノロジー企業が挙げられます。
様々な業界・企業に適したAIプラットフォームを提供しており、銀行であれば証券貸付の最適化によるコストカット、石油プラットフォームではメンテナンスや生産予測システムによる効率改善などの実績を出しています。
また、創設者のトーマス・シーベル氏はオラクル出身の敏腕で、退社後に立ち上げたソフトウェア企業は大きく成長しオラクルに買収されるなど、営業力・経営力が評価されています。
1-3. チャート
シースリー・エーアイの株価チャートはこのようになっています。IPO後大きく上昇しましたが、程なく下降に転じました。
その後じわじわと一度は値上がりしたものの、2021年2月10頃から大きな値下がりが起き、多少の上下を繰り返しつつも現在は60ドル前後で推移しています。(2021年6月29日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- IPOで自己資本が潤沢
- 資金の多くを短期投資に回している
- 赤字なのでキャッシュフローは良くない
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは”安定タイプ”です。
流動比率は約940%、当座比率は約930%で、短期の資金繰りは問題ありません。
高すぎる数値ですが、2020年12月のIPOによって自己資本が増えて間もないことが影響しています。
事業形態によって固定資産が小さいこともあり、固定比率も約2%と非常に低いです。
2-1-2. 資本の比率
IPOしたばかりということもあり、自己資本比率は約89%です。
2-1-3. キャッシュフロー
2020年は営業活動がマイナス、投資活動がマイナス、財務活動がプラスという不安な組み合わせで、フリーキャッシュフローもマイナスです。
現状は発展途上で赤字続きのため、キャッシュフローも良くない状態です。
なお、IPOで得た資金の多くを短期投資に回しています。
借入金はほぼありません。
2-1-4. 項目まとめ
IPOしたばかりで自己資本が潤沢ですが、事業はまだ赤字なので、キャッシュフローはよくありません。
2-2. 収益性
- 2021年決算では損失額が前年比20%減少
- IPOで純資産が増加
- 現状はまだ発展途上の段階で赤字
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
2020年までは債務超過状態でした。
2021年も赤字のためROEはマイナスですが、IPOで自己資本が増加した分マイナス値は小さいです。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
赤字続きでROAはマイナスです。
2021年のROAは、前年比で損失額が20%減少し、IPOで総資産が増えたことで、マイナス値が小さくなりました。
2-2-3. 項目まとめ
純損失額を減少できたのは良い傾向ですが、まだまだ赤字で収益性はほとんどありません。
2-3. 経営の効率
- 売上増だが、IPOで資産が増加し総資本回転率は低下
- 固定資産が小さく、回転率が高い
- 棚卸資産は保持していない
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は約0.2回で、最低ライン1回より非常に低いです。
2020年決算時より売上高は増えたものの、IPOで自己資本が増加したため、回転率は下がってしまいました。
固定資産回転率は約7.9回と前回より上昇しました。
クラウドベースのアプリケーション・ソフトウェアの提供という事業形態のため、固定資産はほぼ土地代とコンピューター機器のみです。
なお、棚卸資産は保有していません。
2-3-2. 項目まとめ
IPOによって資産が増加した分、総資本からみた売上はかなり小さいものとなりました。
固定資産の総額は2020年時とほぼ変動がないため、売上が増えた分回転率も上がっています。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上は増加傾向だが成長率低下
- 2021年営業損失額は前年比マイナス16%
- 売上高研究開発費率は平均の約8倍
2-4-1. 売上高と営業利益
2021年決算でも売上は増加となりました。
ただ、前年の71%という成長率と比較すると、2021年決算の17%という成長率は、かなり低い結果です。
2021年は前年比で約15%営業損失を減少させることができました。
費用も増加していますが、それ以上に売上が増えたことで損失をカバーしています。
2-4-2. 研究開発費
売上高は約183百万ドル、研究開発費は約69百万ドルだったので、売上高研究開発費率は37.7%と高い数値です。(科学技術・学術政策研究所によると※1同程度の従業員規模の平均は4.7%とされている)
2020年決算時より研究開発費の比率は下がっているものの、発展途上の段階ということもあり、かなりの投資を行っています。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
売上が増加し、営業損失が減少するという、劇的に良いとは言えないものの、良い兆候が見られました。
研究開発には引き続き意欲的ですし、今後も成長に期待したいです。
3. まとめ
クロとしては、シースリー・エーアイ(AI)はまだリスクはありますが、引き続き事業内容に期待したい銘柄です。
AIのみで事業展開している数少ない企業の一つですが、創設者自身の実績や、既に複数の大手顧客を相手に実績を出していることから、そのソフトウェア・アプリケーションの品質は優れていると考えられます。
2021年4月の年次決算では赤字のままですし、”良い内容”とは言い切れないものの、売上を増加させ損失を減らすなど、良い傾向が見られました。
また、比較的少数の大口顧客を有してきたシースリー・エーアイですが、徐々に顧客数が増加し、平均契約額も減少してきています。
一つの顧客への売上の依存が小さくなり、コンスタントに収益を得られるようになるため、これも良い傾向だと言えます。
売上の成長鈍化なども気にかけつつ、今後も追っていきたいと思います。
今回の記事はC3Ai Incの決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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